- 2005.12.19 Monday
- 小説 > 仮面ライダー
だが、最近は勝利の女神が俺を見放したようだ。斬鬼がバケガニに負けて入院し、勤務シフトが狂い始めたことから俺の不幸は始まった。弦の鬼は当時、俺を入れても三人。俺と斬鬼と蛮鬼だけだ。あの当時は轟鬼はまだ鬼ではなかったんだ。当然、俺への負担は大きくなりヤマビコ相手のときについに疲労が限界に達し負けてしまった。しかも疲労がたたり入院ときた。疲労がなければヤマビコなんぞに不覚を取ることなどなかったのに。ん? 蛮鬼は俺が抜けて弦の鬼が一人になっても平気だった? それはお前……あいつは若いんだよ。
その後、斬鬼が膝の怪我から引退し轟鬼が後を継ぐことになったが俺達への負担は変わらず。俺は退院直後にカッパに再び負けてしまった。いや、カッパって結構厄介なんだよ。俺、重石つけて川に沈められたし。弟子の石割が居なかったら今頃川の底に沈んでいただろう、この功績は忘れない。あと俺がカッパに沈められているその時にプールでデートしていた轟鬼の事は忘れない。なんで無理が利く若いのがバケカニとか弦に慣れた相手なのに、俺が厄介なカッパなんだ? 経験を考慮してのシフトか? ならしょうがないな。
その後も入退院を繰り返したが、一番ひどい怪我はアレだった。ノツゴと戦ったときだ。音撃武器も無しで(ちょうど全部メンテナンスだったんだよ。弱いからって支給されなかったわけじゃないからな)俺は強敵のノツゴと戦いなんとか退ける事に成功したんだが、その後に乱入してきた吉野の秘法である鬼の鎧を着込んだ何者かにボコボコにされてしまった。俺は鬼の鎧を壊してはまずいと思い手を出さなかったのだが、斬鬼はためらいなくディスクアニマルで壊しやがった。おかげでディスクアニマル>>鬼の鎧>>俺という方程式が生まれてしまった。しかも鬼の鎧を盗んで着ていたのは斬鬼の師匠である朱鬼だったらしい。斬鬼の関係者に関わると俺は不幸になるのか? あとはこの戦いから後輩たちが俺の事を呼び捨てにするようになった。俺より年下の斬鬼はさん付けなのになぜに。
そして音撃が効かないというありえない能力を持ったヨブコとの一騎打ち。なんか吉野から送られてきた音撃弦閻魔の新型で立ち向かったが駄目だった。旧型は普通の弦だったが新型は音撃棒並みのサイズ。これなら二刀流の音撃弦なんて新境地も可能だ。新型を見た石割には「わー小さい。おもちゃのギターですか?」とワケのわからない台詞を吐いていたが、奴は若い。いい物を見る識別眼は経験が育てるんだ。もし音撃斬が炸裂していたら凄い事になっていたんだぞ? できなかったが。元々、響鬼に威吹鬼に轟鬼の三人でかかっても勝てなかったヨブコに俺一人で立ち向かっていた時点で凄かったんだ。また負けたとか馬鹿にするな。
あとは響鬼と縁がある明日夢という少年が、響鬼に変身して魔化魍と戦う夢を見たらしい。人の夢に文句をつける気はないんだが、なんで夢の中でバケネコにボコボコにされている鬼が俺なんだ? 君と俺とは面識がない筈だぞ、なぜにピンチ=俺になっている。こういうのもなんだが、君の知っている鬼ならば威吹鬼も一時期は相当負けがこんでいたぞ。奴を夢に出すべきではないのか?
そして今日もまた魔化魍に負けた。
今も病院のベットの上で体が癒えるのを待つ運命、だが俺は負けない。
関東最古参の鬼として、生き様を若い連中にみせつけてやる。
「死ねない。俺はまだ死ねん!! 」
「裁鬼さん。なに一人でブツブツ言っているんですか? 」
「おう、石割。見舞いに来てくれたのか」
「裁鬼さん。病院が出て行ってくれって言ってます。ベットが足りないから」
「え……でも怪我が」
「代わりに轟鬼さんが重症で入院だそうです。なんでもオトロシに何度も踏みつけられたとかで」
「それぐらいで入院していたら俺なんか既に火葬場行きだぞ、全く。鍛え方が足りないな」
「轟鬼さんの師匠の斬鬼さんが病院に居ますよ。あの人、耳いいですよね」
「ごめんなさい。さっさとベット譲りますから雷撃拳で殴らないでください」
「さっき保険屋が泣いてましたよ。『なんでこんなに怪我して入院するんだ!?』って。裁鬼さんの担当者が泣いて逃げたの何人目ですかね? これでまた新しい保険会社と契約しなきゃ。猛士の後ろ盾がなかったら、今頃、保険詐欺で捜査されてますよ」
「いや、怪我するもんは仕方ないじゃん! 」
「だから向こうも泣くだけなんですよ。可哀想に彼も。というか前に契約していた会社の営業が責任とって飛ばされたそうですよ、過剰な保険代をひっぱる客と契約した責任を取ってカムチャッカ半島に。誰もがうらやむ東京支店長から誰もいないカムチャッカ半島担当へ。エリートの転落か……」
「鍛え方が足りないな」
「月のない夜に刺されても入院拒否されるんですよ?ベッド足りないんですから」
「ごめんなさい」
「さ。気を取り直して退院の準備です。あ、おやっさんから届いた鉢植えの花がない。せっかく綺麗な牡丹の鉢植えだったんですけどね、花が落ちちゃいましたか。根付くから病室に鉢植えは良くないとか、首が落ちるイメージから牡丹は縁起が良くないとかいう俗説がありますが関係ないと思いますよ、裁鬼さんとは」
「ねえ。俺、もういらない子なの? 」
「なに馬鹿なこと言ってるんですか。裁鬼さんは僕の大事な師匠なんですからね」
「そうだよな、俺は師匠だよな! 」
「ええ。書類上は」
「なあ石割。本当は俺の事が嫌いだったりする? 」
「ははは……あ、裁鬼さん。あそこの木をみてください」
「否定しようよ。ごまかさないでさ」
「あの古木ながらも雄雄しく立つ姿はまさに裁鬼さんそのものですよ」
「ねえ、あれ来月撤去決まってるんだけど」
「違います、今日に変更になったんですよ。さっきチェンソー持った作業員さんたちが根元に集まって相談していたのを聞いたんで間違いないです」
「早まってるよ!! 」
「可哀想に、あの木も。きっと自分で朽ちることを望んでいたんでしょうね。最も古参のくせにあんな目立つところに居座っている限り、誰かに切り倒される事は仕方のないことですが」
「木に古参って表現はあわなくない? 」
バキバキバキ……
「あ。倒れましたね」
「……倒れたな」
「あの木、中身が空っぽになってますよ」
「だなあ」
「やっぱりベテランになると中身がボロボロですね」
「その表現は確実におかしいよね」
「気にしたら負けですよ。だって裁鬼さんはあんな古木と違って朽ちるまで鬼として戦い続けるんじゃないですか」
「実は俺、鬼を辞めて実家のパン屋でも継ごうかと思っているんだが」
「そういえば裁鬼さんの実家めがけて隕石が落下したってニュースでやってましたよ。よかったですね、きっとかまどに直撃してアンパンマンとか生まれてますよ」
「それ家ごと吹っ飛んでるよね!?」
轟鬼。お前は再起不能になって「鬼以外の生き方を知らない」と嘆いていたが、俺も今ならその気持ち、良くわかるぞ……
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