- 2008.01.11 Friday
- 小説 > Original > 近世百鬼夜行
久々の百鬼夜行ネタ。時系列的には、
近世百鬼夜行→近代百鬼夜行(同人誌版)→きんだいひゃっきやこう
となっています。作中で出てくる、新キャラ二人は近代百鬼夜行が初出です。彼女らが山を降りた事件こそが、近代百鬼夜行の本編の話です。まーこうやって書かないと二人のキャラ付けとか忘れますしねー。
きんだいひゃっきやこうはポジション的にスレイヤーズの短編とかに代表される、富士見作品の短編シリーズの位置に居ます。正月の早いうちに公開したかったんだけどなあ。正月ネタだし。
なお、気になるヒキをしてしまったので、続きも早めに出したいと思います。一月中にはなんとか……なんとか……。
両面宿儺。古くは仁徳天皇の御世に記録が残る、大妖怪である。四本の腕と称される力を持ち、大和王朝の軍勢と一人で互角以上に渡り合った。伝説が残る飛騨では、両面宿儺を祭った寺社も多数有り、信仰の対象とも成り得る日本でも屈指の力を持つ妖怪である。
「信仰の対象か。まったく、スゲエ妖怪だなあ」
五木は図鑑を閉じ、代わりに目の前に用意してある蕎麦をすする。手打ちの太麺が、濃い目の汁に絡み至極美味い。具の山菜と、細切れのササミも実に良くお互いを高めあっていた。大晦日の年越し蕎麦として、これほど極上なものもあるまい。コタツでぬくぬくしながら蕎麦をすする年越し、まさに文化の極みとも言える極楽だ。
「素晴らしい山菜蕎麦だ」
「ありがとうございます。嬉しいです」
素直な賞賛を聞きつけた、蕎麦の作り手が、台所からやって来た。
優しげな雰囲気と、若く豊満な体からは母性を感じさせる。着けたPIYO柄のエプロンで手を拭きながらいそいそやってくる姿は、初々しい若奥様のようで、五木を和ませてくれた。彼女の名は冬夏。五木清掃所の新たなメンバーの一人である。
「これ手打ちか?」
「気付いてくれましたか。地元の名人に習ったものですからね、自慢の一品です」
でかい胸をエヘンと張る可愛らしい仕草を見て、五木は顔を少し赤くし、慌てて背けた。
「ふーん、そうか、なら美味いよなあ」
五木が目を背けた先のコタツの反対側では、
「やらないか! もとい、やれんのか! 見ようぜー。こんなお笑い、つまんねえよ」
「総合格闘技? あんな不明瞭なルールでガチのぶつかり合いをうたうとは。笑わせる。同じ笑いなら、まだこちらの方が良い」
ふわふわ浮かぶ不思議な仮面と、那々がチャンネル争いをしている。
あの格闘技好きなマスコット的仮面の名は、春秋。五木清掃所の新たな居候である。身体は全く違えども、冬夏と双子なのだから不思議な話だ。こんな喋り方だが、生物学上では女性に分類されるらしい。甲斐甲斐しく家事を勤める妹の冬夏とは違い、日がなずっとのんべんだらりと過ごしていた。まあ、この身体では家事など到底出来ないだろうが。
「不明瞭って、ルールあるから殺し合いじゃないんじゃん、ルール取っ払ったら放送できないよ!」
「そもそも、力任せのオマエらと違って、私はレスリングくらいは兄に習った事があるんだ。このメンツに、私を驚嘆させるほどの技術の持ち主は居ないな」
「力任せって、そりゃオメーの事ですよ。那々ちゃんの技はレスリングじゃなくてプロレスだろ。俺たちだって、武道ぐらいはかじってんだぜ。柔よく剛を制して欲しいのか?」
「面白い。お前の無様なやられっぷりを見て笑い収めとしよう」
両者の空気が止める間もなく険悪になっていく。ツワモノ同士は、お互い自分の力に誇りを持っているから折れることが無く、タチが悪い。妖怪としての春秋と那々の力はおそらく互角。しかし、一点において春秋は那々に確実に劣っていた。
「おい、冬夏。体貸せ、体……うわーん!」
「ほらほらどうした。抵抗してみろ」
那々は春秋の両脇を捕まえ、ぐいぐいと引っ張る。春秋の力は冬夏と合わさって発揮されるもの。対して那々の力は平時でも対して劣らない、てえか、セブンに変身と言ってもただマントかぶるだけだし。そんなわけで、春秋に抵抗の手段は無かった。
「助けて、いつきー。とうか、とうかも助けてよーうわーん」
「うわーんって、そんな妖怪確か日本に居たよな、五木」
「あんま、イジメなさんな。チャンネル争いごときで」
「ほら、那々さん。お蕎麦ゆでてきましたよ」
冬夏が持ってきた蕎麦を見て、那々はすぐに春秋を開放した。そしてズルズルと蕎麦を美味しそうに啜る。あっと言う間に、蕎麦は無くなってしまい、那々はけぷぅと、似合わぬ可愛いげっぷをした。間も置かず、続けて出された蕎麦に挑む。
「ちくしょー! 冬夏合体だ! 星ごと吹き飛ばす勢いでアイツ倒すぞ!」
「姉さんも落ち着いて。ほら、TV空きましたよ」
那々は蕎麦に夢中で、TVへの興味を失っている。まさに平和的勝利。なんだかんだで、姉思いな妹であった。
「なあ、二人とも」
「え? まさか、五木。日和って紅白を見たいだなんて言い出すんじゃあ」
「俺が見たいのはモンスター=ボノだ。それはさて置いて、聞きたい事があるんだが」
「え?」
「なんでしょうか?」
「君らさ、二人でプリ、もとい二人合わせて両面宿儺なんだよな」
「そうだぜ」
「ええ。私たちは二人で両面宿儺という一つの妖怪になります」
春秋と冬夏が合わさり四季となり、眼前の敵を葬らん。
この二人の正体は両面宿儺、こんなんで大妖怪である。ちょっとしたゴタゴタに巻き込まれて山を降りた二人は現在、その事件で知り合った五木のところに居候している。一人一人はちんけな火だが、二人合わされば炎どころか太陽並みに燃え上がる。まさにバロームな二人であった。
「えっと、信仰の対象たる君らが、こんな所に居ていいのか? 神社とか寺に行かないで、明日初詣の客とか来るだろうに」
「「……あー!!」」
二人の声が重なり、勢い余って合身までしてしまう。
基本的な合体のプロセスは、冬夏が春秋を装着し合身と成る。合わさった二人は、四季という名となり、意識は主に春秋が司る。身体は冬夏のものだが、身は引き締まり、ポニーテールが弾けたロングヘアーとなり、一見全くの別人となる。小さくなった胸を見て、五木が涙したのは過去の話。
四季は明らかに、呆然としてから、ゆっくりと五木へ振り返った。
「えーと、実は俺達がいなくても大丈夫なシステムが構築されてるんデスよ?」
「イヤな汗だだ漏れだぞ、テメエら」
「ほら、信仰と言うものは、目に見えない物じゃん? 賽銭を入れて神に祈った時点で、参拝者には神に頼んだからなんとかなるだろうという一抹の安心が与えられるんだよ。安心が上手く作用すれば、物事も当然上手く運ぶように……」
「その理論が行き着く先は、鰯の頭も信心だぞ」
「えーと、ほら、その」
「参拝客を裏切るのはマズくね? 神様」
「……俺たちだって、偶にはコタツでゴロゴロして寝正月とかしたいんだよ!」
「逆ギレ!?」
「いつも手前勝手な願い事ばっか持ってきやがってーさー! 恋の相談されても俺らが困るわ! どう見ても、恋愛の神様じゃないだろー!」
「まあ、確かに日本人は神様なら、神様ならなんとかしてくれる……って考え有るけどよ」
例えば、弁財天のお社にカップルで恋愛祈願をするように。女神なので恋愛にご利益ありそうなイメージがあるが、弁財天は真逆の縁切りを司る神様である。よりによって恋愛祈願をした日には、今年中に別れの運命を迎えるであろう。こんな極端な例もゴロゴロ有る。日本人は神に対して、良く言えば懐が広い、悪く言えば節操が無さすぎる。
「つまり、俺らがこうだらだら大晦日を過ごし、寝正月を迎えることは、日本人へのあんちてーぜじゃ! わんふー。まあ、各オヤシロの御神体には力を入れてあるし、多分晦日と初詣くらいは持つ筈……」
語尾が微妙に自信の無さを感じさせる。
「まー大丈夫なら、いいけどさ」
そう言って、五木はコタツに潜り込んだ。すぐに聞こえる寝息、満腹+コタツのコンボは危険すぎる。コーヒーなんか飲んでいても、すぐに睡魔に負けてしまう。
「蕎麦切れたぞ。お代わり頼む」
大量の蕎麦を食い尽くした那々がリクエストするが、既にここに蕎麦を用意する人間は居なかった。
「はっはっは、誰に向かって口を聞いているのかな、那々ちゃん。慎みたまえ。君は今、両面宿儺の前に居るのだよ」
変身を遂げている四季が高らかに笑う。合身してしまえば、こちらのもの。既に四季に那々に劣る要素は無かった。
「ふん。腹ごなしに相手してやるよ」
那々は立ち上がり、構えを取る。合わせて四季も、身構える。
「ルールは?」
「目つき、金的、能力使用無しの反則5カウントルール。キリが無いから3カウントフォール制だ」
ルールを決めないで二人が全力でやりあった日には、このビルどころか街ごと消し飛びかねない。二人なりの安全弁が働いてのルール設定だった。レフリーも居ない状況での、反則カウントに意味は無いが。結局なんでもありっぽい。
「それでは」
「レディ」
「GOOOOOOOOOOO−!!」
熱いゴーという叫び声を聞き、二人の思考が一瞬止まる。続けて二人の顔面に吹き付けられた緑の毒霧が思考停止と混乱を併発させた。
「1・2・3と。文句なしで俺の3フォール勝ちだな」
なんとなく、ゴングが聞こえた気がした。
二人まとめてのルチャドールばりの超高速の丸め込み。勝者である五木は、紳士的に二人に用意していたタオルを差し出した。二人の顔は緑に染まっている。那々は受け取ったが、四季は呆然としていて受け取らない。ごうを煮やし、五木は優しく四季の顔を拭きはじめた。
「なるほど、寝息も演技だったか。全ては、この一瞬の為に」
「これぐらいしねえと、お前ら二人には勝てないからな。ボノさんは相撲時代から好きでなあ。見逃せないのよ」
「相撲時代からのファンで、おしゃぶり姿を見たい人間はお前くらいだ」
「ちくしょう、やられたぜ! ところでそんなもんいつ仕込んだんだ?」
「G=カブキ直伝とだけ言っておこう。さーて、チャンネル、チャンネル」
二人と五木の力の差を示すと、小学校の裏山とエベレストくらいの差がある。正攻法では当然勝てない。しかし、素早さだけはそれほど劣るものではない、生命力に関してなら勝っている。ゴキブリ妖怪の面目躍如だ。素早さを活かし、自分の勝てる状況を待ち、適した手段を選ぶ。知恵に関しても五木は戦鬼たる二人に劣っていなかった。
「仕方ない。チャンネルを譲ろう」
「全くもってコンチクショウ。伏兵にやられたぜ」
「ふはははは、武力1だが知力は10だ」
勝者である五木がチャンネルを回すと、そこにボノさんの勇姿は無く、新年初詣の様子が映っていた。嫌な予感がしてチャンネルを回してみる。どこのチャンネルでも、来る新年だの、ハッピーニューイヤーだのの言葉が踊っていた。
「もしや、既に新年か?」
「だ、だろうなあ」
「おいおい。あんなバカやってるうちに新年!?」
ちょうど1.2.3の丸め込みの際に聞こえたゴングらしき音が、除夜の鐘だったのか。思い当たった三人のうちの一人が笑い出す。追従して、残りの二人も笑い出した。除夜の108のゴングは、まだまだ鳴り続けていた。
そして夜が明け、五木は身を伸ばしながら、ポストに向かう。新年は流石に休みだが、正月の年賀状だけはサボるわけにはいかなかった。早々にチェックして返事を書かなければならない。
「ん?」
なんと、既にポストの前には那々が居た。良く寝る上に、寝正月を公言している彼女が居るとは、五木の眼をもってしても見抜けなかった。那々は一枚の年賀状を手に取り、ぼーっと突っ立っていた。寝起きでネボけて来たのだなと、五木は勝手に納得した。
「あけましておめでとさん。なんか気になる年賀状でもあったのか?」
「姉さまが……」
「あん?」
「姉さまが、新年の挨拶に来る――――!
- Newer: 国分寺市のササキさん、お久しぶりです
- Older: 繰り返しはなんとかの基本です
Trackback:0
- TrackBack URL for this entry
- http://risotto.sakura.ne.jp/sb.cgi/353
- Listed below are links to weblogs that reference
- きんだいひゃっきやこう from 肉雑炊
- トラックバックはありません。