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近世百鬼夜行〜七〜

 那々は忙しげな物音を聞き、目を覚ました。手を中空に伸ばし二・三回空を掴む。思考に動きが付いて来ている事を確かめてから、物音の源である事務所へと向かう。五木清掃所は三階立てであり、一階が営業用の軽トラが置かれている駐車場、二階が事務所兼共用スペースの居間、三階がそれぞれの私室となっている。五木も那々も私室には寝に来るだけぐらいなので殆ど装飾も何も無いが。
「おう、起こしちまったか。悪いなあ」
 事務所の鏡で五木はヒゲを剃っていた。来客用に一応まともな体裁を整えてあるソファーには旅行用のカバンが転がっている。出張なのだろうか、昨日寝る前にはそれらしい事は一切言わずに実入りの良い仕事がねーよと頭を抱えていたのに。
「出張か?」
「ああ。昨日、お前が寝てから電話が来たんでな」
「これまた急な話だ」
「だが、ギャラを考えれば例え徹夜後の睡眠5秒後に叩き起こされても機嫌良くなる仕事だぜ。まあ、他人の事を考えると素直に喜べないんだがな」
 五木は一枚の古新聞を那々の眼前に差し出す。安そうなスポーツ新聞の一面には『史上マレにみる大規模な山火事発生!! 御社様のタタリか!?』と書かれていた。
「ああ、この記事なら覚えている」
 確かカマイタチとの決闘後の夜だったか、何処か山奥の街で大規模な山火事が起こり街の大半が焼けてしまったらしい。深夜の火災であったせいで対応が遅れに遅れかなりの数の住民が焼死したとアナウンサーが悲壮そうな顔で伝えていた。
「ほら、いつもの社長がさこの火事の後始末に参加する事になってな、どうせだし一枚かませてもらおうかと持ちかけたらすんなりOKが。で、今日下見に付き合うことに急遽決まったんだ。夜には帰ってくるから、今日は休日で」
「今日はと言うか、最近は毎日がホリデイだったんだが」
「それはそれとして! 土産がっちり買ってくるからお腹を空かせて待ってなさい」
 カバンを掴みサッと去っていく五木。お約束として食パンを一切れ口に咥えている辺りは分かっている。
「土産か。肉ならいいなあ」
 カマイタチとの戦闘後に肉を食いたいといった那々の要望は未だ叶えられていなかった。まだ時刻は早朝、軽くアクビをしてから那々は布団に包まるために自室へと戻っていった。

「これ、本当に山火事かねえ?」
「まー専門家でも何が原因だか分からないってTVで言ってましたよ」
 数時間後、五木は懇意にしている社長と街を歩いていた。山奥で遠いと思い込んでいたが意外と早かった。交通網の充実に感謝すればいいのか、意外に都会と田舎は近いと言う事を知るべきなのか。
「んー私はそうは思わないけどねえ。こりゃあベトナムに似てるね、クラスター爆弾に代表される品の無い破壊にね」
「いや、自分は紛争地域とかに縁は無いんでわかりませんが。てえか社長ホント年いくつなんですか」
「そりゃあそうだ、女のくせに縁のある私なんかがおかしいんだよねえ」
 カラカラと朗らかに笑う社長。外見的には20代の淵ギリギリか30代の前半ぐらいだが、話が妙に古かったりする年齢不詳のキャリアウーマン。こう見えても幾つもの会社を経営する辣腕社長だったりする。彼女は何かと五木を気に入っており、こういう仕事の手伝いを積極的に五木清掃所に持ち込んでいてくれていた。
「しかしこれを端から片付けるとなると、相当だね」
 最低限の片付けはしてあるが、まだ街は火事の後を色濃く残していた。焼け焦げ半壊した建物や、もはやデッカイ消し炭でしかない車。もう、いっそ街を放棄した方がいいんじゃないかと思うが、流石にそうもいかないらしい。
「そこは俺らが後方支援をきっちりしますんで、頑張って下さい」
「期待してるよ。なんせ君ら二人が後ろに居るだけでやり易い事この上ない」
 所詮総人数二人の会社ができる事など大した事はない。こういう時は大手の傘下に入るに限る。五木は事務能力が総じて高い、材料や用度に弁当の発注に人事管理に各方面との交渉、全てそつなくこなす。妖怪としての長所は度を越えた不死身加減とすばしっこさぐらいだが、秘書や事務員としての長所は余り合った。反面、那々は五木ほどの気遣いや機転は利かせる事は出来ないが、能力が低いわけではない。言われた事はきっちり正確にこなす。だが、那々には五木には無い華が有る。大人しくしていれば栄える美貌を持つ彼女、どうしても男手が多い現場では一輪の花として潤いになる。最も、この花が本気になれば解体業者がダース単位で集まっても勝てないのだが。大黒柱を片手で引っこ抜く女に勝てる道理があるものか、本性はトゲのある薔薇どころか植物怪獣ビオランテだ。
 後方でバリバリ働く五木と、あくまで大人しく補佐に勤める那々。社長は、単に人物の好みではなく能力的にもこの二人を買っていた。
「お国が最低限の事はやってくれたけど、まだ行方不明者も多数だからね。十分に注意しないと」
「行方不明ですか……」
 余地無く死んだと断定されるのと、一縷の叶わぬ希望を与えられるのとどちらが残酷なのかは誰にも分からない。
「一応現時点で見つかっている人達の葬儀は明日やるから。焼け残った建物にそこそこ大きいのがあったからね、それを会場にする」
 街一つ焼けたのだ、山間の街と言えどもそれなりに大きい街、生き残った人々も多いが死んだ人も多い。寺もあったが焼けてしまっている。現在急ピッチで町内最大の建物である講堂で葬式の準備が進められている。
「俺らに出来る冥福は、きっちり仕事をこなす事ですね」
 五木は街を改めて見渡す。数日前まで、この街には確かな営みがあったのだろう。だが、火が一瞬で営みを焼き尽くしてしまった。火元は不明らしいが、いったいどんな不幸が重なればここまでの惨劇が引き起こせるのか。その問いに答えらそうな物は、全て焼けてしまっていた。
「あん?」
 五木の視線にあるものが入る。それは、自転車。ギア付きの中々に高価そうなスポーツタイプの自転車が置かれている。少しススがかかっているが、まだまだ十分に使えそうだ。
「ん? あ、良い自転車だねえ。私がツール・ド・フランスに出たときの自転車に似てるねえ」
 興味深そうに自転車を見つめる社長、彼女が見ているのは車体のラインやギアの効き具合など全体的な部分。反面、五木は前輪と後輪のタイヤだけをじいっと見ていた。
「五木ちゃんは目の付け所が良いねえ。タイヤしか見てない、この自転車で一番秀でている部品はそこだよ」
「まー目の良さで生きてますからね……」
 もう見つめているというか完全にガンを付けている。
「ほっとくのも勿体無いけど、勝手に持ってくわけにはいかない品だねえ」
「じゃあ俺が安全な所に運んでおきますよ。火事場泥棒が手を出してもおかしくない品ですしね」
「ん? そう? じゃあお願いしていいかな。私はちょっと向うの方を見ておきたいから」
 社長はその場に五木を残して街の奥へと歩みを進める。もう部下に任せて自分は会社で指揮を取って良い立場なのに率先して自らの目で確かめる、この行動力が成功の秘訣なのかと五木が感心していると、何故か社長がこちらに振り返った。手には小石が握られている。
「言うの忘れてたー」
 チュインと風を切り弾丸のごとき勢いで小石が飛来する。どう撃ったのかは知らないが、小石は五木の目の前の地面に弾着を残し埋まっていた。ちなみに社長と五木の間には結構な距離がある。
「年のことだけは触れないでねー」
「サー! イエッサー!!」
 思わず敬礼までして軍隊式の礼を取る五木を見てから再び社長は歩み始めた。なんというか、彼女が成功者になった理由をまともに考えたら負けの気がする。
「さてと」
 社長が完全に去ったのを見届けてから五木は自転車の後輪を蹴っ飛ばした。
「痛ぇ!」
 後輪から浮き上がる輪入道、同時に前輪からも似た顔が浮かび上がってくる。モウリョウとの戦いで傷ついたバイクを捨てて、彼らはこの自転車に乗り移っていた。アメリカンバイクからスクーターを得て自転車に、ついにエンジンを失った。
「やっぱお前等だったか、ホント俺の目は良いよ」
「なぜ貴様がこんなところに居る!?」
 激高する後輪、対照的に前輪は黙している。双子のごとき二人だが、多少は前輪の方が冷静な判断が出来るらしい。次に何を聞かれるか分かっているのだろう。
「俺はまっとうに働きに来たんだよ。まあそんなことはどうでもいい。この火事は、火車の仕業なのか?」
 ここには居ないが、この二人がアニキとして慕いつき従う火車。大火事が起きた街に、火車の関係者がいる。どう考えても、火車がこの惨劇を引き起こしたとしか思えない。
「兄ぃは火は使うが、火事はおこさねえ! 焼死は最も醜い死に様だって嫌っていたからな」
「でもなあ、状況的に疑わしすぎるぜ」
「状況なんか知らねえよ! なあ、前輪の?」
 前輪の同意の掛け声を聞くために話しかける後輪の輪入道。しかし、前輪の輪入道は黙したまま答えなかった。
「どうした? 前輪の? まさかお前兄ぃを……!?」
「後輪の。少し冷静になれ、あの日から兄貴は姿を消したままだ」
「うるせえ! 兄ぃを疑うなら、お前との縁もここまでだ! 俺は兄ぃを探しにいく!!」
「誰が疑うかッ!!」
 突如絶叫した前輪の気迫に当てられ、後輪が思わず黙す。
「俺とて兄貴を信じている! だが、現実問題ここに兄貴は居ない! これで兄貴が火事と無関係と言う事は流石に無茶だ。しかし、兄貴が何の理由もなしに放火する事はまず有り得ない、それは断言できる!!」
「な、ならば我らはどうすれば」
「知る事だな」
 兄弟の熱い会話に突如五木が参入する。
「全ての真実を知った上で、否定でもなんでもすれば良い。今現時点のお前らがいくら弁護しようと、俺は、いや誰だって火車がタチの悪い放火犯だと決め付けるだろうよ」
 最初見つけたときはこの二人に敵意を持っていた五木だったが、今は敵意は無かった。こんなに熱く激しく戸惑っている連中に無為に敵意を持ったとて仕方が無い。それに、この二人の様子から見てただ火車の犯行だと決め付けるには早すぎるだろう。
「その通りだ。あの時は兄貴を探して下山してしまったが、あの場所にもう一度戻るぞ。兄貴が寝ていたお堂に、きっと何か秘密がある」
「前輪の……スマねえ、お前の気持ちも知らずに」
「気にするな。ただ、俺も兄貴を思う気持ちはお前と一緒だという事を理解してくれ」
「ああ! それじゃあ早速」
 山を目指して移動しようとする輪入道達。ハタから見ると誰も乗っていない自転車が勝手に動いているという怪現象だ。慌てて五木が二人を止めた。
「待て待て。お前ら、まだ街には警察や自衛隊がウロウロしてるんだぞ。そのまま行ったら問答無用で発砲されるぞ」
「自衛隊の一つや二つがなんだ!」
「情熱に燃える俺らはブレーキ無しだぜ!」
 兄弟の心が一つになった彼らは熱い、もはや自転車とは思えない勢いで道路をスッとんで行く。機動性が並みのバイクの比ではない、これなら公権力が彼らを見つけても止められないだろう。だが、彼らは明らかに調べるといった行為に向いていない。何をどう調べるのかは知らないが、真実にたどり着くには中々に時間がかかりそうだ。
「あー仕方無いなあ、コンチクショウ!」
 五木はコックローチGへと変身し、二人の後を追う。この姿ならばなんとか輪入道達を追うくらいのスピードは出せる。なにせこちらはお堂が何処かも知らないのだ。
 追いかけ始めたのは昼、しかし思った以上の距離や山道の険しさに自衛隊の目を掻い潜ったりする等の要因も重なり、Gがお堂にたどりついた頃には完全に日が沈んでしまっていた。


 残雪が目立つ山中にぽっかり開いた洞窟。光が漏れているが、中からは外以上の冷気が放たれている。ツララが天井から下がる氷穴の奥に火車は居た。大きな毛皮で出来た椅子に座り、脇に和服の白雪のごとき儚さを持った美人を従えている。女性は、おそるおそる火車に酌をする。カチカチと震えながら注がれる酒、お猪口から漏れた酒が火車の服にこぼれた。
「あ……」
「おいおい、そんなに怯えてどうしたよ。俺は女には優しいんだぜ?」
 火車の片目には、黒地に赤を染めた炎を模したデザインの眼帯が着けられていた。そして、肌蹴させたライダーズジャケットの胸元から見える黒色の刺青。まるでそれは己に憑いた黒い炎が火車の体を侵食しているような感じで、すでに火車は何か別の物の怪へと変貌しようとしていた。
「仕置きなんかしねえよ、むしろ……こうだ」
 女の顔を引き寄せ、無理に唇を奪う。女は涙を流し抵抗するが、火車は拘束を離さない。やがて女の体の彼処から煙が上がり、女はあっと言う間に氷像のように蒸発してしまった。
「あはは、やっぱアレだ。俺のベーゼは雪女には熱すぎたなあ」
 ケタケタ笑うその姿に侠の影は無い、もはや輪入道が慕うアニキとしての火車は死んでしまったのだろうか。火車の掛けている椅子が突如震え始めた。
「殺す、殺してやるぅぅぅぅ!!」
 激高し起き上がる椅子、だが火車はバランスを崩す前に飛び降りていた。椅子の正体は、雪男。チベットに居るUMA扱いの彼とは違い、日本の雪男は雪女と身を同じくする雪の精霊。ただ、雪女は雪の美しさと儚さを前面に押し出した存在だが、雪男は雪の力強さと恐ろしさを体現している。ずんぐりむっくりとした体で己で狩った熊の毛皮を羽織った姿は、まさに鬼熊のごとく。だが、その様相は……
「おいおい、椅子は椅子らしくしてろよ。もうアンタの嫁さんに興味ねえからさ、死体も残さない女なんかクソだよ、クソ」
 雪男は顔をボコボコに腫らしていた。歯も折れ、所々に痛痛しい焼け跡や傷が残っている。既に数刻前、雪男は完膚なきまでに火車に叩きのめされていた。
 再戦を挑む雪男の体から放たれる吹雪、微細な氷解が火車の体を包んでいく。たちまちに凍った火車に頭から雪男は突っ込む。凍らせた相手の体を、相撲取り張りの急突進で破砕するのが雪男の必勝パターンである。この技で数々の獣や妖怪を葬ってきた。だが、今回の相手はもはやそんな常軌の策で立ち向かえる相手ではなかった。
「昔さ、俺はアンタに手も足も出なかったんだよな」
 自分を覆う氷を一瞬で溶かし、雪男の突進を片手で火車は受け止める。かつてこの技で火車は見るも無残に吹き飛ばされた事がある。若き日の思い出だ。
「でも、今はアンタが俺に手も足も出ねえ! こんなに嬉しい事はないッ!」
 雪男に襲い掛かる黒色の炎、炎は雪男の四肢を狙い喰らっていく。数秒で雪男は四肢が千切れかけた達磨寸前の状態に陥った。雪男の喉を捕まえ、火車は洞窟内で目立つ氷柱めがけ叩き付けた。この柱が洞窟を支えていたのか、柱が崩壊した瞬間、洞窟が振動を始めた。
「あー、こりゃ逃げた方がいいな」
 雪男ももぞもぞと動くが、四肢を壊され、喉も潰された彼に出来る事は無い。火車は彼を簡単に見捨て、洞窟の外へゆっくりと歩き出す。
「しかしまさか俺がここまで強くなってるとはなあ」
 かつて叶わなかった強敵を簡単に叩きのめした事で己の成長を実感できた筈の火車だが、何故か浮かない顔をしていた。何かが己の中で欠けている様な。そんな喪失感が、黒い炎を取り込んだ日から大きくなっている。
「強くもなっても、女抱いても、好き勝手遊んでも満たされねえ。なんでだろうなあ」
 きっと今の彼が喪失感に気付く事は無い。それでも火車は自分なりに欠けた物を考える。歩きながら考え続け、出た結論は。
「ああ、そうか、この間燃やした街だ。葬式ぶっ壊さないと、俺は火車なんだしよ……」
 既に己を失いかけている火車が拠り所としたのは、自分に課せられた妖怪としての責務だった。次の行く先をそうだと決めた時、ちょうど火車は洞窟の外に出た。同時に背後で、洞窟が落盤し完全に崩壊した。


「それでね、那々ちゃん? 大丈夫、声がなんか弱弱しいけど」
「大丈夫だ……ただ、お土産を楽しみにして食を抑えていたので、空腹で」
 グーと那々の腹が鳴る。五木の言葉を楽しみにして、食を抑えて一日を過ごしていたが、夜分ふけても五木は帰ってこなかった。しびれを切らした那々が携帯に電話をかけても通じない。どうしようかと考えていると、社長から逆にこちらに電話がかかってきた。なんでも五木が行方不明になったらしい。
「んー自転車片付けてくるって言ってからなんだよねえ。五木ちゃんが消えたの」
「自転車?」
「うん、良い自転車。五木ちゃんも特にタイヤに見惚れてたから乗り逃げして東京に帰ったのかなーって」
 それはまたアグレッシブな乗り逃げだ。ただ、それ以上に気になる単語があった。
「タイヤに」
「そうだよ、もうガン付けってくらいに目ぇつけてたよ」
「なるほど」
 大体の状況がそれだけで分かった。大火災の裏には、あの熱い妖怪と暑苦しい車輪共が居たのだ。
「分かった。私もそちらへ行く」
「那々ちゃんが? うーん、どうせコッチに来てもらう予定だったし、五木ちゃんを心配なのもわかるけど。ただ今こっち危険なんだよね」
「危険は承知の上だ。朝一でそちらに向かう」
 火車と輪入道が暗躍している時点で、安全は望めない。むしろ既に五木が彼らと遭遇して危険に一人立ち向かっているのかもしれない。
「いや、なんかさ、でっかいUMAみたいなゴキブリが街中駆け回ってたらしくてさ。自衛隊が血眼になって探してるよ。まーあそこまで弾薬使って捕まえられませんでしたじゃカッコつかないしねえ」
「……今から夜行列車で向う。領収書切っていいか?」
「いいよーじゃんじゃん切って、なんならタクシー使ってもいいよ」
 どこまでも太っ腹な社長に礼を言ってから、急いで那々は旅支度を始める。出掛けに五木を真似て、食パンを一切れ咥えた。


全ては明日、動き始める。否、すでに悪鬼は動き始めていた。
 ずずずっとバラバラになった肉塊が集まり、体を作り始めた。やがて生前より明らかに劣る体となり彼は復活した。
「あは、あはははぁぁぁ……」
 正気でない声。体のいたる所が欠け、目は完全に白濁している。その姿は彼がかつて主食にしていた死体そのものだ。生前の本能か、死体と化した己の腕を喰らいながらモウリョウはあてどなく歩き始めた。

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