- 2014.04.02 Wednesday
- 小説 > クロスオーバー
夜のニューヨークを、赤が跳び回る。
舌打ち。歓声。つばを吐く。手を振る。
見た人間のリアクションは様々であったが、誰もが彼から目を離せなかった。摩天楼を跳び回る、自称貴方の親しき隣人。スパイダーマンは今日もNYを跳び回っていた。サイレンを鳴らすパトカーを、ウェブスイングで追い越す。
「お先にー。頭上の失礼、彼らは僕が捕まえておくから勘弁して欲しいな」
スパイダーマンも警察も、同じ車を追跡していた。
真昼の銀行に真正面から装甲車で乗り付け、金庫の中身全てを奪っていった銀行強盗団、その名をシニスターシックス。
シニスターシックスがスパイダーマンを恨む最強の敵が組んだ巨悪の集団、だったのは昔の話。今は、衝撃を操るショッカー、飛行可能なコスチュームを着たビートル、高速で走るスピードデーモン、ブーメランの妙手であるそのものズバリなブーメランといった、多少路線が変わった悪のチームとなっている。身近というか、微妙というか。
そして今回の犯罪に使われた装甲車を作り上げたのは、どんな乗り物でも容易に改造してしまうオーバードライブ。以上5名が、現在のシニスターシックスである。なお、シックスなのにメンバーが5人なのは「一人足りないほうが、最後の一人は誰なんだ!?って想像を膨らませられるだろ? ひょっとして最後のメンバーはドクター・ドゥーム!? ドーマムゥ!?なんてさ」という、彼らなりのイメージ戦略の結果である。決して、決してメンバーが見つからなかったわけではない。
「さて、スパイダートレイサーの反応はと。ああ、そこの角の先で止まっている。ひょっとして、発信機を捨てられた? それとも待ちぶせか」
警察を随分と追い越したスパイダーマンは、スイングの最後に大きく飛ぶと、ひび割れた古いアスファルトに着地した。何が起こってもいいよう、構えもしっかりとっている。
「注意しておいて、悪いことはない。なら待ち伏せのつもりで! さあ来い、シニスターファイブ!?」
角を曲がった先の光景を見て、絶句するスパイダーマン。何が起こっていいと身構えてはいたが、この状況は、予想だにしなかった。
裏道へと繋がる、人通りの元来少ない通り。キルト製のコスチュームの至るところが食いちぎられているショッカー。傾いた街灯に引っかかっているビートル。壁にめり込んでいるスピードデーモン。自身のブーメランで地面に縫い付けられているブーメラン。ロープで縛られ転がっているオーバードライブ。戦闘能力を失ったシニスターシックスを、真っ二つに寸断された装甲車から出た炎が照らしていた。
「凄いな、色々と。でも誰が?」
確かに最近(笑)な扱いを受けているシニスターシックスだが、決して弱いわけではない。性根が三下気味なだけで、今のメンバーも能力的には十分な物を持っている。ぽっと出の新人が、こうして無残に叩きのめせる存在ではないのだ。そして、見事に二つに割れた装甲車。対超人用の対策が施されているであろう装甲車を、ああも見事に斬れる能力者。ついでに、ショッカーのコスチュームの惨状からして、鋭い牙も持つヒーロー。顔の広いスパイダーマンでも、心当たりの無い存在だった。
「ば、バケモノだ……トカゲのバケモノだ……」
衝撃吸収用のコスチュームの至るところがほころんでいるショッカーが、うわ言のように何やら呟いている。
「え? リザードにやられたのかい? 君たち」
「ち、違う。もっと、スマートで、マダラで、あんなの見たことが……無い。車で猫を跳ねそうになった次の瞬間、ビルの上から降ってきて、ベルトが光ったかと思ったら、あっという間に俺たちシニスターを……!」
これだけ言って、ショッカーは意識を失う。コスチュームは大惨事だが、ショッカーの身体自体にはあまり外傷は無かった。
「ああもう、警察につき出す前におしえてもらうよ? 君たちは、いったい、誰に、やられたんだ!」
意識があるのだろう。ピクピクと若干動いている他のメンバー全員に聞こえる大声で、スパイダーマンは尋ねた。
「強くて……」
「ハダカで……」
「速い……」
「奴……!」
全員がそれぞれ一言だけ言った所で、パトカーのサイレンが聞こえてきた。
何もしないまま片付いたのはいいが、どうにも釈然としない。スパイダーマンは、マスクの上からポリポリと頬をかく。
「つまり、ケイザーみたいな裸の野生児で、リザードとは違ったトカゲ? よく分かんないけど、そのコンクリートジャングルにやってきたターザンに一度会って、お礼を言いたいね。手間を省いてくれたわけだし」
このスパイダーマンの願いは、やがて数日後、思いもよらぬ形で叶うこととなる。新たなトモダチとして、新たなフレンズとして――。
ニューヨークの、とある高層ビルの最上階にあるペントハウス。様々な動物の剥製や毛皮が飾られた部屋の中央にて、狩人が街に敵が足を踏み入れたことを感知していた。
「南米から、腕輪を追ってここまで来たか。狩りがいのある、新たな獲物だ」
機転と狡猾さを兼ね備え、どんな獣でもいいように狩ってきた、史上最高の狩人、クレイブン・ザ・ハンター。スパイダーマンを最高の獲物と見定めている彼の腕には、コンドルの頭部を模した、古代インカより伝わる太古の腕輪がはめられていた。
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