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仮面ライダーディケイド〜決闘! ディケイド対ストロンガー!?〜ストロンガーの世界前編Aパート

「世界の破壊者ディケイドが来る。そいつを倒さないと、世界がみんな滅ぶってか。そりゃ見逃せないな」
「そうだろう、シゲル君。この世界で、必ずディケイドを倒すんだ」
「へへっ、どうも期待させてるみたいだな。でもよ」


「魅力的な提案だ。我らブラックサタンは、先日最高幹部デッドライオンが倒されたばかり、戦力の低下は否めない」
「貴殿の理解が早く、大変助かるのだ」
「フフフ、そうだな。戦力低下は否めない、第三者から見ればな」


「そんなこと、俺が知るか。この世界には誰も介入させない。ブラックサタンの害虫駆除は俺だけの仕事だ。ディケイドもディエンドも、そしてアンタも邪魔者だ、鳴滝さんよぉ!」


「最高幹部が消えようとも、このブラックサタンにはまだタイタンが居る。タイタンが居る限り、ブラックサタンは滅びず、大ショッカーの力なぞ必要ともしない。帰ってもらおうか、否! この世界から出て行ってもらおうか、大ショッカーの大幹部アポロガイスト!」


 鳴滝とアポロガイスト、立場は違えども様々な世界で暗躍する異邦人である。そんな異邦人を、仮面ライダーも悪の組織も排他した。異邦人の存在さえも許さぬ、戦いの世界。士達が辿り着いた新たな世界は、そんな世界だった。

 世界の破壊者ディケイド。いくつもの世界を巡り、その瞳は何を見る……

 門矢士、光夏海、小野寺ユウスケの三人は新たな世界を散策していた。栄次郎とキバーラは何時もどおりに写真館で待機である。あの一人と一匹は実に仲むつまじい。正直、時たまあてられて嫌になるくらいだ。 
「まったく、毎度毎度の話だが、この衣装は誰が考えているんだろうな」
「まあまあ、毎回意味はあるんだし、いいじゃないか」
「そうですよ士君。それに今回の衣装も、似合ってるじゃないですか」
「衣装が良いんじゃない、俺だからこそ着こなせるんだ」
 士はいつもどおりの自負を、ユウスケと夏海に見せ付けた。新たな世界に行く度に、士の衣装はその世界を象徴する衣装へと変わる。衣装を見て連想できる世界と、全く予想もつかない世界。残念ながらこの世界は後者であった。
 飾り気の無いシャツにくたびれたGパン、衣装の中で特徴的なのは、これまた年季の入ったウェスタンハットと、胸ポケットに差してあるパイプくらいのものだ。これだけではどういう世界なのか、全く予想が出来ない。旧き良き西部劇の世界ならば馴染みそうな格好ではあるが、残念ながらこの世界の街並みは普通の現代の街である。ビルもそこらに立っている。
 未だ詳細が分からぬ、この世界の黒いカードはただ一枚、どうもファイナルフォームライドのカードらしいが、それ以上は分からない。
 この世界はなんの世界で、何をすれば良いのか。知るにはこうして街を歩くしかない。切っ掛けはやがて向こうの方からやってくるのだ。
「なあ、この世界。おかしくないか?」
 そしてユウスケが切っ掛けらしき物を見つけた。
「おかしい? 何処がだ」
「いやさ、やけに人通りが少ないし、建物の一階、上は綺麗な建物でも、一階の辺りだけボロボロじゃないか」
 街をしばらく歩いたが、確かにユウスケの言うとおりに人影を見ていない。建物から気配を感じていたので安心はしていたものの、全ての気配は二階以上の建物の上からである。
「この世界、地面の上に人が居ない? まるで、地面に居る何かを恐れているような……」
 夏海の予想は的中していた。
「アンタ達、何地面の上で突っ立ってるんだ! あぶねーぞ!」
 近くの建物の屋上で誰かが叫んだ。思わず三人は、上の方に目をやってしまう。脅威は、下から迫っているのに。
「ニョ」
「ニョ ニョ」
「ニョニョニョニョ」
 謎の奇声が地面から湧き出て、地面から突き出た真っ黒い手が夏海の足首を掴んだ。
「きゃ……!」
「夏海ちゃん! うわっ!」
「クソ、なんなんだ」
 ユウスケと士の足首も、同じ黒い手に捕まっていた。次々と生えてくる手が三人を捉え、手の持ち主たちもゾロゾロと涌いて出てきた。
 ギョロっとした黄色い目に、猫耳に似た長い耳が生えた、全身黒タイツの集団。地面から出てきたのは、そんな格好の連中だった。
「こいつらは戦闘員? 何処のだ……?」
 士はディケイドに変身しようとするものの、戦闘員に囲まれ動けない。それはクウガであるユウスケも同じであった。謎の戦闘員を振り切れない。
「ギュイーッ!」
 奇声を上げて最期に地面から出てきたのは、奇っ怪な怪人であった。バネを積み重ねたような皮膚に、口は大筒のように丸く突き出ている。腹には自分と同じような顔をしたモニュメントが付いていて、まるでカンガルーが子を腹にしまっているようだ。でもそんな動物らしい意匠も、図抜けたメカニカルさが無に返している。やはり、この怪人は奇っ怪だ。
「俺の名は奇械人ガンガル! 人間よ、崇高なるブラックサタンの地下帝国の天蓋を踏むこと、万死に値する。死んでもらおう!」
「きっかいじん……?」
「ブラックサタン?」
 ユウスケと夏海、二人には聞き覚えのない怪人の名と組織の名であった。
「なるほど、つまりこの世界は、そう言うことか」
 一方、士には心当たりがあった。この世界が何の世界か少ないキーワードで理解できる、しっかとした記憶はないが断片的な記憶は持っている。中途半端にこう記憶が残っているのは、士にとって幸運なのか、それとも。
 ガンガルの腹の子がうなっている。すぐにでも飛び出してきそうだった、そしてその勢いで容易く人間の腹を突き破りそうな、三人とも共通してそんな予感を抱いていた。このままでは、まず危険だ。
「エレクトロファイヤー!」
 激しい声と激しい電流が、涌き続けていた戦闘員達を地面ごと焼き尽くした。
「しまった、コイツらは囮だったか!」
 ガンガルはキョロキョロと辺りを見回し、士達を捕まえていたブラックサタン戦闘員も、三人を放りだし、謎の襲撃者を探す。士とユウスケが、自分達の周りの戦闘員を殴り倒した。
 ピピピピー♪と、甲高く上手い口笛が、何処からともなく聞こえてきている。その音源は、ハッキリとしない。
「口笛? 誰だ!?」
 不明に耐えかねたユウスケが叫んだ。
「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ……」
 口笛の主は、高いビルの屋上に立っていた。派手な真っ赤なシャツを着た男である。彼は、士達やブラックサタンの連中を余裕綽々で見下している。見下すのはともかく、見下されるのには慣れていない士が悔しそうに舌打ちした。
「悪を倒せと俺を呼ぶ。聞け、悪人ども!」
 男は黒の革手袋を投げ捨てる。手袋の下にあったのは、人の皮膚ではなく機械的な銀色の手。どことなく、奇械人ガンガルの体に似ている。
 コイルに包まれた手を、大仰なポーズで摺り合わせる男。手がスパークし、男のベルトも激しく輝く。光の奔流が止んだ後に現れたのは、仮面の戦士。この世界の仮面ライダーだった。
 カブトムシを連想させるY型の太い角と、緑色の複眼。プロテクターを着込み、膨らんだ上半身の中央の胸に輝くSの文字。ベルトには閃光を象った赤い模様が飾られている。電気エネルギーが収まりきれずに飽和し、彼の周囲で幾つもの火柱を立てていた。
 電気人間、彷徨の雷鳴、彼を評する言葉は多い。しかし彼自身が最も好むのは、電気とは関係ない、単純かつ明朗な称号。それは、正義。
「俺は正義の戦士、仮面ライダーストロンガー!」
 仮面ライダーストロンガー、電気の力を持つカブト虫を模した仮面ライダーである。地面へ降り立つストロンガー、ガンガルと戦闘員は士達を無視し、ストロンガーへと襲いかかった。
「ここはストロンガーの世界か」
 蚊帳の外の士が、他の二人にも聞こえるように、わかりやすく呟いた。


「カブト虫をモチーフとし、発電機能体内に装備した電気のライダー」
 電気人間ストロンガー、彼の正式名称である。
「それにしてもブラックサタンの目は確かだな。あの男と電気、相性が良すぎる。納得だ」
 夏海とユウスケにストロンガーの概略を説明した士は、最後に感心を付け加えた。ブラックサタンの識別眼にか、ストロンガー自身にか、答えは両者にであろう。
「電パンチ!」
「ギィィ〜」
 電気を纏った拳で叩かれた戦闘員は発火し、白い煙を上げて蒸発した。仲間の蒸発を目の当たりにしても、怯むことなくストロンガーに立ち向かう戦闘員達。ストロンガーの拳や蹴りが、そんな戦闘員の勇気や健気さを全て焼き尽くす。
 恐怖を知らぬ者を次々となぎ払うストロンガーは、正に苛烈。電気という要素を抜いたとしても、ストロンガーという戦士は稲妻のごとき苛烈さを持ち合わせていた。近づく者は正邪の関係などなく焼き払う、分別なき激しさだ。
「こ、こりゃあ俺達の出番、無さそうだなぁ」
 ユウスケはストロンガーの迫力に気圧されていた。強さや弱さで解釈できぬ、シンプルな激しさ。ユウスケにとって、初めて体感となる脅威であった。
「いや、そうでもなさそうだぞ」
 一方士は、ユウスケに比べ冷静であった。士にはこの苛烈さを味わった記憶がある。断片的な記憶、けれども拙い既知ではある。未知と既知、今のユウスケと士の差はそれだけだ。
 でも、冷静な分、士にはユウスケには見えない者が見えていた。それは、戦闘員を目くらましにして逃亡するガンガルの後ろ姿。


 逃げるガンガルの目の前に、先回りした士が立ちはだかった。
「部下を置き去りにして、逃げても無駄だ。なぜならここにも、ライダーが居るんだからな」
 邪魔する戦闘員はもはや居ない。士の手にはディケイドライバ―を掴んでいた。
「変身」
――ディディディケイド!
 ベルトのバックルとなったディケイドライバーが士を仮面ライダーへと変身させる。マゼンダの配色に黒き無数の縦線、緑色に輝く瞳。彼こそが世界の破壊者、仮面ライダーディケイド。
「ぬ!? 仮面ライダーだと? 仮面ライダーは誰であろうと敵、ガンガル大砲をくらえ!」
 ガンガルの腹、小顔の口から絶え間なく放たれる砲弾。爆発した砲弾が白煙を起し、爆風でディケイドを包み込む。およそ十秒、その間ガンガル大砲が休むことはなかった。
「ギュィーッ、ここまで喰らえば、生きてられまい。むっ!」
 煙が徐々に晴れ、中の様子が明らかになっていく。煙の中に有るべきディケイドの骸はなく、代わりに別のライダーがいた。ガンガルにとって未知の赤いライダー、ストロンガーをスマートにしたようなカブト虫のライダーがクナイガンを構え、ただ悠然としていた。
「ス、ストロンガーとは違う!? 貴様、何者だ!」
「言ってやっても良いが、どうせ聞き取れないぞ。早すぎて、な」
 カメンライド、カブト。ディケイドは仮面ライダーカブトへと姿を変えていた。カードを差し込むだけで、クウガからキバまでの九人のライダーの姿と能力を手に入れることが出来る。ディケイドが持つ、他を凌駕できる可能性の一つだ。
――アタックライド クロックアップ!
 ディケイドライバーにカードが差し込まれ、バックルがカードの名を呼ぶ。名を呼び終えた直後、カブトの姿がかき消えた。
「消えた!? ギュ、ギュイー!」
 動揺するガンガルを襲う、見えない連打。高速の連撃はガンガルの体を余すトコなく包み込む。およそ数秒、連打がようやく止んだ時には、既にガンガルは棒立ち状態、茫然自失となっていた。
「と言うわけだ。このライダーの名前、分かったか?」
 ガンガルのすぐ目の前に、突如現れたカブト。超高速の世界への介入、クロックアップ。高速の世界にガンガルは打ちのめされ、ディケイドの名乗りを聞くことも出来なかった。そして既に、カブトの足には必殺のエネルギーが収束していた。
「ライダーキック」
 円の軌道を描く上段蹴りが、もはや動けぬガンガルの側頭部に突き刺さった。
「ギュイーッ!」
 大爆発するガンガル。爆風を背にし、士はカブトからディケイドを経由して元の姿に戻った。
「士!」
「士くん」
 ようやく追いついてきたユウスケと夏海が士の名を呼んだ。
「士、ディケイド。聞いたことのある名前だ。確か、世界の破壊者。だったっけか?」
 そんな二人の後を付けてきた男、ストロンガーも士とディケイドの名を訝かしさを隠さずに呼んだ。


 士達の方にズカズカと歩いてくるストロンガー。
「世界の破壊者ディケイド、まさか本当に居るだなんてな」
 そんなことを言いながら歩いている、どうみてもこの後、無事にすみそうにない。士はいつものことだと達観し、ユウスケはどうしたらいいのかわからずに棒立ち。そして夏海は、
「待ってください! 士くんは破壊者なんかじゃありません! あなたと同じ、仮面ライダーなんです」
 なんと両手を広げ、ストロンガーの前に立ちはだかった。ストロンガーの足もピタリと止まる。士は「馬鹿」と小さくつぶやいて、頭を抱えた。
「仮面ライダー、俺と同じ名前だな。それに、姿形も似ている」
「でしょう? だからお願いです。止めてください」
「世界の破壊者より、仮面ライダーの称号の方が似合う格好をしてたな、さっき。ひょっとしたら、本当にディケイドは仮面ライダーなのかもしれねえな」
 ストロンガーは夏海を見下ろし、すごく冷静にまともなことを言った。先ほどまでの激しさが嘘のようだ。
「よかった、この世界のライダーは理解のある人みたいだな」
 ホッと胸をなで下ろすユウスケ。これで余計な争いは避けられる、相変わらず彼の見通しは甘い。
「まーでもな、正直、どっちでも答えは変わらん」
 理解したから簡単に手を取り合える。そんな理屈が通じぬ頑迷な男も居るのだ。
 ぐいっとどけられる夏海の身体。黒い拳骨が士の顔面にめり込んだのは、直後であった。殴り飛ばされる士と、唖然とするユウスケと夏海。ストロンガーはこの場から消えていて、代わりにガラの悪さと気の強さが2:8くらいで混じった青年がいた。士を殴ったのは、黒手袋の彼である。
「俺の名は荒城シゲル、正義の戦士ストロンガー。これだけ分かれば十分だろ。さ、この世界から出て行け。破壊者だろうがライダーだろうが、邪魔だ」
 正義も悪も関係ない、とりあえず出て行け。極限までシンプルなシゲルの命令であった。

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