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アメコミ邦訳誌紹介〜コミティア106版〜

※昨年10月に行われたコミティア106+第二回海外マンガフェスタにて配布した無料コピー本をアップしたものとなります。この時点(2013年秋)で出ていない本や情報には触れておりません。


再誕する世界絵図

ジャスティス・リーグ:誕生(THE NEW 52!)
小学館プロダクション刊

スパイダーマン:ブランニュー・デイ
小学館プロダクション刊

 近年、DCコミックスでリランチと呼ばれる世界観の再構築が行われた。これは、今までの物語を一度無かったことにして、既存のヒーローに新たなエッセンスを加え、再び1から世界を始めることである。
 日本人だけでなく、本国のアメリカですら、リランチ後の世界は初体験となる。ジャスティス・リーグ誕生は、元より最初の作品として作られた物であり、計算しつくされた構成で出演している七人のヒーローの能力や性格を把握することが出来る。例えば常人であるバットマンは、宇宙由来の指輪を持つグリーンランタンに能力的には遥かに劣っているが、指輪をかすめ取りグリーンランタンを無力化するシーンを入れることで、立ち向かえる可能性を示す。史上最速の男であるフラッシュは、己の速さを誇るが、史上最強の超人であるスーパーマンの一撃を喰らってしまう。これにより、フラッシュの速度にスーパーマンは追いつけるという設定が読者に植え付けられる。最初の作品としての完成度の高さは、邦訳化されても同じである。また、ライター:ジェフ・ジョーンズとアーティスト:ジム・リーは、それぞれが一流。アメコミ界の最先端作品と呼ぶのも、過言ではない。
 スパイダーマン:ブランニュー・デイも、同じく設定を一度消してのリスタート作品である。こちらは、悪魔の力でスパイダーマン周りの設定のみをなかったコトにする(スパイダーマン:ワン・モア・デイに顛末は収録)という力技によるリスタートだが、公にしていた正体が再び不明となり、死んでいた親友が復活し、結果、スパイダーマンとしての生活に振り回され、ろくな目に合わない一青年であるピーター・パーカーの姿が拝める。おそらく現在邦訳されている冊子の中で、最も通常営業で素のスパイダーマンを楽しめる作品とも言える。


戦え何と人生と

デッドプール:マーク・ウィズ・ア・マウス
小学館プロダクション刊

ヒットマン
エンターブレイン刊

 首を斬られても死なない再生力、忍者刀やハンドガンにサイと様々な武器を使いこなす一流の戦闘技術、自身がコミックスの登場人物であると知っている“第四の壁破壊者”であるデッドプール。
 人の心理や壁の向こうを見通す目を持ち、銃を持たせたら天下一品である、超人専門の殺し屋トミー・モナハン(ヒットマン)。
 彼らは、それぞれマーベルやDCの世界観に存在していながら、舞台の中央に立つことはあまり無い。例え世界を揺るがす大事件が起こっている時も、自宅のソファーに寝っ転がってニュース速報しかやっていないTVに辟易したり、行きつけのバーで飲んだくれていたりと、全く役に立っているように見えない。しかし、彼らは無為に生きているわけではない。既に自らの過酷な任務を終えたから自宅で寝っ転がっている、事態解決に奔走するヒーローを信じているから飲んだくれている。泣いて笑って怒って、精一杯楽しく生きている彼らの姿は、むしろ読者たる我々に近い。
 この気の狂ったスパイダーマンもどきや、ゴッサム・シティの片隅に住むボンクラ気味なチンピラは、さながらカレーの隠し味としてのチョコレートのように、深いコクを発しているのだ。


バットで頭を殴られたかのような衝撃作

WE3(ウィースリー)
小学館プロダクション刊

バットマン:アーカム・アサイラム
小学館プロダクション刊

 天才ではなく、奇才と呼ばれるライターであるグラント・モリソン。彼の書く物語は、独自の哲学と理論によって構築されており、見る物に衝撃を与える。まず衝撃的な物を読む見せる、アメコミに対する固定観念を破壊するための作品として、このグラント・モリソンの二作を挙げる。
 WE3は独自の世界を持つ中編。ある日突然大量殺戮兵器に改造されたペットたち。もはや飼い主の元に戻れぬ彼らは、勝手に改造し勝手に廃棄処分を決めた政府からの、あてども無い逃亡劇を繰り広げる。並々と作中に注がれた残酷さ、だが最後に待ち構える物は、残酷とはまた別の、言いようもない感情である。
 バットマン:アーカム・アサイラムは、精神病を患った犯罪者たちの収容施設「アーカム・アサイラム」占拠事件に立ち向かう、バットマンの物語である。現在のフリークス達のワンダーランドと、過去のアーカム・アサイラムの呪いが入り混じり、前衛的なアートも相まった結果、もはや幻想的という言葉でも生易しい、新時代のお伽話と化している。ただし、たしかに衝撃的な作品ではあるものの、あまりにぶっ飛んだ作風は、多くの人に「ワケがわからない」との感想を抱かせかねない。特に人に勧める際、この点留意しておきたいところである。



ゾンビ大国よりの刺客

ウォーキング・デッド
飛鳥新社刊

マーベルゾンビーズ
ヴィレッジブックス刊

 アメリカで人気のジャンルとして“ゾンビ”がある。同じくアメリカで人気な“ゴリラ”と違い、ゾンビは日本でも数多くの人気作を持つ。なお、ゴリラに関しては、日本は未だ発展途上と言える。日本が遅れているのではなく、他国がゴリラを好きすぎるのだ。
 話がずれたので一度戻す。ウォーキング・デッドは、長年ゾンビというジャンルを扱ってきたアメリカ創作界の結晶とも言える作品である。駆除はかなわず必死で生き延びることしか出来ない災害と言えるゾンビ、ゾンビよりも恐ろしいのは人の心であるとの鉄則を順守した人々の不和や狂気。今まで彼らが作り上げてきたゾンビものの集大成であり、原作とドラマ版、共にゾンビ物の金字塔としての立場を確立しようとしている。
 対するマーベルゾンビーズは、マーベル世界におけるヒーローがゾンビ化するという、ある意味日本の発想や常識では思いつかない物である。ヒーローは論理や正義感をかなぐり捨て、食欲のままに喰らい続ける。残酷で救いのない、これまたゾンビ物の路線を順守した作品なのだが、斜め上に行き過ぎた描写を見ていると、もはや笑いがこみ上げてきてしまう。


物語としての歴史書

DCユニバース:レガシーズ
ヴィレッジブックス刊

マーベルズ
小学館プロダクション刊

 元より広大で場合によってはリセットも含まれたアメコミの世界観の弱点として、歴史を代表とする全体図の把握の難しさがある。これら二作は、ヒーローではなく一般人の視点で歴史を追ったものである。
 ヒーローがいる世界に生まれ、職に付き良き伴侶を迎える。一般人の人生をヒーロー史と並べる観点は一緒なものの、両者の性質は多少異なっている。レガシーズの主人公が選んだ職業は警察官。彼は数々の災禍にヒーローと共に立ち向かい、現場の視点で歴史を紐解く。一方マーベルズの主人公はカメラマン。彼はジャーナリストとして人々やヒーローを撮影していき、世相の波に翻弄されながらも、自分なりの真実を追求していく。あくまで個人的な意見であるが、前者は臨場感と分かりやすさ、後者は分析力と心理描写に優れていると考えられる。それぞれの書き分けに優れたアートと芸術的なアートは作風と合致しており、両者ともに世界観の難しさを感じさせない良作である。


ある意味、最大のオススメ

ベスト・オブ・スパイダーマン
小学館プロダクション刊

 まず、安い。今作のウリをいうならそれが来る。確かにアメコミはフルカラーでそれなりのページ数を持ち平均2000〜3000円と、割安な部類である。しかし、安いことと割安は繋がりそうで繋がらない。財布の中から、1500円と3000円が消えるのでは、プレッシャーが違う。半額なのは、財布にやさしい。安さを追求した結果、紙質は安めなものの、製本自体のクオリティは並以上である。
 そして内容だが、スパイダーマンの傑作選であり、歴史的な第一話や未だ人の口端で語られる名作等をふんだんに収録している。50年近いスパイダーマンの歴史から忠実に抜粋した結果、それぞれの話が幅広い時代からの収録ともなっており、この一冊を読むだけでその作品当時のアメコミのスタンダードを知ることが出来る。アメコミの研究資料の入門としても、悪くない傑作選である。

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