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アメコミ

X-MEN:フューチャー&パスト スタッフロール後のアレについて

 X-MEN:フューチャー&パストを観てきました。今までのX―MEN映画の集大成にして、新たなステージへと繋がるターニングポイントでもあり。今まで追ってきた事もあり、満足度は高いですね、やはり。
 そして、もはやお馴染みとなったスタッフロール後のサプライズ。というわけで、知っている人はおおっ!?となるものの、知らない場合はちょっと理解に困る、最後のサプライズに関しての解説です。現状、半分推測や希望も入っていますが、その辺は見逃していただければ。
 当然、この先はネタバレです。あと最後にちょっとだけ、身も蓋もない感想を一つ。

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Deadpool Annual#2紹介+おまけ

 現在の展開にあまりこだわらず、そのキャラの中短編を書く。アメコミにおける特別編とも言えるアニュアル(Annual)誌。そして先日配信されたDeadpool Annual #2が色々と興味深い内容だったのでちと触れてみます。まずは表紙、そしてあらすじをば。


デッドプール アニュアル 2


「一人にしてくれ! 頼むからさ……」

人間不信なスパイディ

 何時も以上につれないどころか人間不信に陥っているスパイダーマンに困惑する、自称アメイジング・フレンズのデッドプール。最近、人助けをする度に、助けた筈の相手に攻撃される。もう誰が本当に助けを求める人で、誰が罠なのかわからない。焦燥し逃げ出したスパイダーマンに追いついたデッドプールが見たのは、無害そうな中年女性の首を締め上げるスパイダーマンだった。流石にそりゃねえよとデッドプールは止めるが、拘束を解かれるや否や中年女性はスパイダーマンに注射を刺す。彼女の正体はスパイダーマンの宿敵の一人カメレオン、変幻自在の変装術により、こうしてスパイダーマンを人間不信へと追い詰めたのだ。
 デッドプールは即座にカメレオンを殺しにかかるが、薬品を注射され意識朦朧なスパイダーマンが何とか止める。こんな陰湿な策略に追い詰められても、スパイダーマンの辞書に殺しは無かったのだ。
 意識を失ったスパイダーマンを前に、責任と親愛に満ち満ちたデッドプールは考える。
「二人はアメイジングフレンズ! 考えろ、ウィルソン、考えろ……そうだ!」
 おもむろにスパイダーマンのタイツとマスクを脱がしたデッドプールは、スパイダーマンと自分のマスクとタイツを着せ替えてしまった。

デッドプール「見てないよ! 顔は見てないよ!」
 
 スパイダーマンになりすました自分が囮になって、殺せないスパイダーマンの代わりにカメレオンを殺す。完璧すぎる作戦を胸に、新たなスパイダーマンはNYの街中に跳び出す!

スパイダーマン(偽「スパイディ、意外と人気ないな」

 きらりと光る怒りの目、駆けろ! スパイダーマン(偽)


 というわけで、今回のアニュアルは、デッドプール&スパイダーマンに焦点を合わせまくった短編です。ついこの間までスパイダーマン(ピーター・パーカー)はちょっとした転校生状態で精神がドクター・オクトパスと入れ替わっていたので、まっとうなスパイダーマンとのコンビは久々ですね。なお、中身がオクトパスなスパイダーマン&デッドプールも、数カ月前にありました。
 そんなこんなで、スパイダーマンの代わりをデッドプールが務めるという「あれ? ヤバくねコレ?」な展開ですが、実際見てみると、破天荒な所はあるものの、スパイダーマンであろう!と頑張ってます。
「えーと、捕まえた強盗は、ウェブでグルグル巻きにして街灯に……まあ、これでいいよね!」

スパイダーマン(偽「だいたい合ってる」

 そして、ヘビを操るヴィランが出てきたら「動物がテーマのヴィラン! 昔のスパイダーマンだ!」と目を輝かせる。

スパイダーマン(偽「これだよ!コレ!」
 
 今回のデッドプールは、実にファンです。スパイダーマンならこうするよね! スパイダーマンになった以上拳銃はおいそれと使えないぞ! ファン目線で、スパイダーマンを名乗ることに責任を感じ、はしゃぐ姿は純粋そのもの。デッドプールの破天荒の裏にある、少年の如き純な気持ちが、憧れのスパイダーマンと絡むことにより全力全開です。


 デッドプール&スパイダーマンは、pixivのデッドプール関連イラストを見る限り、日本でも人気な女性向けカップリングです。でもまあ、そういう要素を差っ引いても、このコンビ結構自分も好きなんですよね。
 スパイダーマン誌にデッドプールが出る時は、キャラの紹介やゲスト出演という事情を含めて結構ないつも通りなんですが、デッドプール誌にスパイダーマンが出る時は、憧れのヒーローを前にしての健気さがそこかしこに。
 デッドプールのパートナーといえば、まずケーブルが居るのですが、この二人との関係は愛情友情善意悪意都合と、様々な物が入り混じった結果、酒のんだ次の日に殺しあうような物。類似例はタスクマスターとかウルヴァリンとか。

「誰か! サイクロップスかジーンを!」

 対してスパイダーマンとの関係は基本憧れや尊敬があるので、デッドプールなりに敬意を払っている都合上、余程スパイダーマンが本気殺る気で無い限り、殺し合いにゃあなりそうもない関係。こっちの類似例は、永遠のヒーローことキャプテン・アメリカ辺りかと。
 デッドプール&ケーブルもデッドプール&スパイダーマンも、それぞれに魅力があります。正直な所、どっちも好きです。ケブデプコンビの悪友ぶりも、デプスパコンビの微笑ましさも、なんとも好ましい物かと。ボブ? デッドプール&ボブはほら、ボブとしか言えん物やし……。

ボブ(溺死寸前



 しかしデッドプールとスパイダーマンのやりとりが見れる邦訳がデッドプール/パニシャー・キルズ・マーベルユニバースしかないのは、少しだけ歯がゆく。キルズはちょっと絡みとかそういうの期待して読む感じのアレではないですし。特別仕様ではない本来のデッドプールが誰かとガッチリと組む、チームアップ的な物を日本語で読んでみたいものです。

絆は(多分)永遠に

デッドプール:ザ・ガントレットで見る、電子書籍における漫画の表現法

ふじい(以下F)「世間ではイマジナリーラインというのが話題になっているらしい」

サイレン(以下S)「なんだそりゃ」

F「勝利のイマジナリーライン! ……ゴホン。いわゆるマンガの技法の一つで、想定線とも呼ぶらしいんだけど……漫画の技法に関しては門外漢なので、ようわからん。漫画を目で追う際の動線や、小説で言う視点の固定の話に近いとは思うんだが。詳しくは、ググってもらうとして。で、この話を聞いていてポンと思い出したのが、Marvelが電子書籍メインで展開しているインフィニティコミックスシリーズ、現在進行形で連載されているデッドプール:ザ・ガントレット(Deadpool:The Gauntlet)のことなんだけどな」

デッドプール:ザ・ガントレット

S「あー。デッドプールVS西洋妖怪のアレか」

F「実のところ、おまけストーリーどころか、デッドプールというキャラクターの今後と根幹に関わる超大事な話になりかけているけど、それはさて置き。アレの技法ってさ。おそらくイマジナリーライン的に、漫画技法的にとんでもないと思うんよ。そもそも、電子書籍だからこそ!って手法なので画期的で当然」

S「だけど、アレは一枚絵で並べても魅力が伝わらんって、当のお前が言ってたじゃないか」

F「ああ。実際見てもらうしか無いと思っていたんだが……今回のイマジナリーラインの話がきっかけで、色々考えていた所、ある手法に思い当たってな。gif使えば、ある程度再現できるんじゃねと。このホームページ、gifもアップできるよな。動くやつ」

S「ああ。出来るよ。ただ見れるかどうかは、閲覧者の方々それぞれが使っているブラウザによって変わってきてしまうけど」

F「分かった。やってみないと、分からないと。ならとりあえず、作ってみたので上げてみよう。動かなかった場合は申し訳ないとして」


久々のデッドプール&ボブ


F「これはiPadで撮ったスクリーンショットを加工した物だ。実際は、指でスライドするたびに、一コマずつ動いていくんだけど」

S「こうして改めて見ると、パラパラ漫画の発展形とも言えなくはないか?」

F「擬似的なアニメとも言えるしねえ。一コマずつ、接写で写していく感じで……以前、とあるプロの方にこのシリーズをお見せする機会があったんだが、その時は映画的技法と言っていたな。なんにせよ、電子媒体をメインにした画期的な技法だとは思う。これって、イマジナリーラインの補助、もしくはオートイマジナリーラインなのかねえ?」

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アメコミ邦訳誌紹介〜コミティア106版〜

※昨年10月に行われたコミティア106+第二回海外マンガフェスタにて配布した無料コピー本をアップしたものとなります。この時点(2013年秋)で出ていない本や情報には触れておりません。


再誕する世界絵図

ジャスティス・リーグ:誕生(THE NEW 52!)
小学館プロダクション刊

スパイダーマン:ブランニュー・デイ
小学館プロダクション刊

 近年、DCコミックスでリランチと呼ばれる世界観の再構築が行われた。これは、今までの物語を一度無かったことにして、既存のヒーローに新たなエッセンスを加え、再び1から世界を始めることである。
 日本人だけでなく、本国のアメリカですら、リランチ後の世界は初体験となる。ジャスティス・リーグ誕生は、元より最初の作品として作られた物であり、計算しつくされた構成で出演している七人のヒーローの能力や性格を把握することが出来る。例えば常人であるバットマンは、宇宙由来の指輪を持つグリーンランタンに能力的には遥かに劣っているが、指輪をかすめ取りグリーンランタンを無力化するシーンを入れることで、立ち向かえる可能性を示す。史上最速の男であるフラッシュは、己の速さを誇るが、史上最強の超人であるスーパーマンの一撃を喰らってしまう。これにより、フラッシュの速度にスーパーマンは追いつけるという設定が読者に植え付けられる。最初の作品としての完成度の高さは、邦訳化されても同じである。また、ライター:ジェフ・ジョーンズとアーティスト:ジム・リーは、それぞれが一流。アメコミ界の最先端作品と呼ぶのも、過言ではない。
 スパイダーマン:ブランニュー・デイも、同じく設定を一度消してのリスタート作品である。こちらは、悪魔の力でスパイダーマン周りの設定のみをなかったコトにする(スパイダーマン:ワン・モア・デイに顛末は収録)という力技によるリスタートだが、公にしていた正体が再び不明となり、死んでいた親友が復活し、結果、スパイダーマンとしての生活に振り回され、ろくな目に合わない一青年であるピーター・パーカーの姿が拝める。おそらく現在邦訳されている冊子の中で、最も通常営業で素のスパイダーマンを楽しめる作品とも言える。


戦え何と人生と

デッドプール:マーク・ウィズ・ア・マウス
小学館プロダクション刊

ヒットマン
エンターブレイン刊

 首を斬られても死なない再生力、忍者刀やハンドガンにサイと様々な武器を使いこなす一流の戦闘技術、自身がコミックスの登場人物であると知っている“第四の壁破壊者”であるデッドプール。
 人の心理や壁の向こうを見通す目を持ち、銃を持たせたら天下一品である、超人専門の殺し屋トミー・モナハン(ヒットマン)。
 彼らは、それぞれマーベルやDCの世界観に存在していながら、舞台の中央に立つことはあまり無い。例え世界を揺るがす大事件が起こっている時も、自宅のソファーに寝っ転がってニュース速報しかやっていないTVに辟易したり、行きつけのバーで飲んだくれていたりと、全く役に立っているように見えない。しかし、彼らは無為に生きているわけではない。既に自らの過酷な任務を終えたから自宅で寝っ転がっている、事態解決に奔走するヒーローを信じているから飲んだくれている。泣いて笑って怒って、精一杯楽しく生きている彼らの姿は、むしろ読者たる我々に近い。
 この気の狂ったスパイダーマンもどきや、ゴッサム・シティの片隅に住むボンクラ気味なチンピラは、さながらカレーの隠し味としてのチョコレートのように、深いコクを発しているのだ。


バットで頭を殴られたかのような衝撃作

WE3(ウィースリー)
小学館プロダクション刊

バットマン:アーカム・アサイラム
小学館プロダクション刊

 天才ではなく、奇才と呼ばれるライターであるグラント・モリソン。彼の書く物語は、独自の哲学と理論によって構築されており、見る物に衝撃を与える。まず衝撃的な物を読む見せる、アメコミに対する固定観念を破壊するための作品として、このグラント・モリソンの二作を挙げる。
 WE3は独自の世界を持つ中編。ある日突然大量殺戮兵器に改造されたペットたち。もはや飼い主の元に戻れぬ彼らは、勝手に改造し勝手に廃棄処分を決めた政府からの、あてども無い逃亡劇を繰り広げる。並々と作中に注がれた残酷さ、だが最後に待ち構える物は、残酷とはまた別の、言いようもない感情である。
 バットマン:アーカム・アサイラムは、精神病を患った犯罪者たちの収容施設「アーカム・アサイラム」占拠事件に立ち向かう、バットマンの物語である。現在のフリークス達のワンダーランドと、過去のアーカム・アサイラムの呪いが入り混じり、前衛的なアートも相まった結果、もはや幻想的という言葉でも生易しい、新時代のお伽話と化している。ただし、たしかに衝撃的な作品ではあるものの、あまりにぶっ飛んだ作風は、多くの人に「ワケがわからない」との感想を抱かせかねない。特に人に勧める際、この点留意しておきたいところである。



ゾンビ大国よりの刺客

ウォーキング・デッド
飛鳥新社刊

マーベルゾンビーズ
ヴィレッジブックス刊

 アメリカで人気のジャンルとして“ゾンビ”がある。同じくアメリカで人気な“ゴリラ”と違い、ゾンビは日本でも数多くの人気作を持つ。なお、ゴリラに関しては、日本は未だ発展途上と言える。日本が遅れているのではなく、他国がゴリラを好きすぎるのだ。
 話がずれたので一度戻す。ウォーキング・デッドは、長年ゾンビというジャンルを扱ってきたアメリカ創作界の結晶とも言える作品である。駆除はかなわず必死で生き延びることしか出来ない災害と言えるゾンビ、ゾンビよりも恐ろしいのは人の心であるとの鉄則を順守した人々の不和や狂気。今まで彼らが作り上げてきたゾンビものの集大成であり、原作とドラマ版、共にゾンビ物の金字塔としての立場を確立しようとしている。
 対するマーベルゾンビーズは、マーベル世界におけるヒーローがゾンビ化するという、ある意味日本の発想や常識では思いつかない物である。ヒーローは論理や正義感をかなぐり捨て、食欲のままに喰らい続ける。残酷で救いのない、これまたゾンビ物の路線を順守した作品なのだが、斜め上に行き過ぎた描写を見ていると、もはや笑いがこみ上げてきてしまう。


物語としての歴史書

DCユニバース:レガシーズ
ヴィレッジブックス刊

マーベルズ
小学館プロダクション刊

 元より広大で場合によってはリセットも含まれたアメコミの世界観の弱点として、歴史を代表とする全体図の把握の難しさがある。これら二作は、ヒーローではなく一般人の視点で歴史を追ったものである。
 ヒーローがいる世界に生まれ、職に付き良き伴侶を迎える。一般人の人生をヒーロー史と並べる観点は一緒なものの、両者の性質は多少異なっている。レガシーズの主人公が選んだ職業は警察官。彼は数々の災禍にヒーローと共に立ち向かい、現場の視点で歴史を紐解く。一方マーベルズの主人公はカメラマン。彼はジャーナリストとして人々やヒーローを撮影していき、世相の波に翻弄されながらも、自分なりの真実を追求していく。あくまで個人的な意見であるが、前者は臨場感と分かりやすさ、後者は分析力と心理描写に優れていると考えられる。それぞれの書き分けに優れたアートと芸術的なアートは作風と合致しており、両者ともに世界観の難しさを感じさせない良作である。


ある意味、最大のオススメ

ベスト・オブ・スパイダーマン
小学館プロダクション刊

 まず、安い。今作のウリをいうならそれが来る。確かにアメコミはフルカラーでそれなりのページ数を持ち平均2000〜3000円と、割安な部類である。しかし、安いことと割安は繋がりそうで繋がらない。財布の中から、1500円と3000円が消えるのでは、プレッシャーが違う。半額なのは、財布にやさしい。安さを追求した結果、紙質は安めなものの、製本自体のクオリティは並以上である。
 そして内容だが、スパイダーマンの傑作選であり、歴史的な第一話や未だ人の口端で語られる名作等をふんだんに収録している。50年近いスパイダーマンの歴史から忠実に抜粋した結果、それぞれの話が幅広い時代からの収録ともなっており、この一冊を読むだけでその作品当時のアメコミのスタンダードを知ることが出来る。アメコミの研究資料の入門としても、悪くない傑作選である。

日米漫画比較論

※昨年10月に行われたコミティア106+第二回海外マンガフェスタにて配布した無料コピー本をアップしたものとなります。一部記述に、イベント当日であることを意識したものが有ります。同時掲載されていたアメコミ邦訳ガイドに関しましては、後日別口でアップします。


※今回の文章を書くに当たり、アメリカの主要出版社であるマーベルコミックスとDCコミックスのメインストリームであるヒーローコミックスを、アメリカにおけるコミックスの代表例とさせていただきました。


 日本の漫画とアメリカのコミックス、特筆すべき違いとして広大な世界観が有ります。
例えば、ジャンプでは数多くの漫画が連載しています。漫画はそれぞれ、別個の作品として独立しております。例えば、ドラゴンボールで地球が滅びても、他のジャンプ作品には全く関係ありません。
しかしアメコミの場合は、大きな世界観の上に作品が掲載されています。さながら、ファミコンジャンプの如く。スパイダーマンでNYが壊滅すれば、他のマーベル作品でもNYは壊滅していることになります。
 まず広大な世界観のメリットとしては、世界観に比例した大きな作品が作れることでしょう。地球に強大な侵略軍が攻めてきた。アベンジャーズは、本隊に立ち向かう。このアベンジャーズの展開を便宜上をメインストーリーとします。同時に展開された侵略軍の別働隊から人々を守ろうとするX−MEN。人々を救出するために立ちまわるスパイダーマン。これらメインと密接に関わるサブストーリーを、タイインと呼びます
 このように多面的なヒーローの活動を、世界観を共有させることで、短期間で簡易にまとめることが出来ます。本隊との戦いをアベンジャーズ誌、別働隊との戦いをX−MEN誌、人々を助ける姿をスパイダーマン誌で書けば、大戦を多角的な視点で書きつつ、なおかつ数話(短期間)で完成させることが可能です。一つの作品で全てを補うのではなく、複数の作品で内容を補完し尽くす。いわば、複数作品による並列の構成となっています。この言い方に合わせるならば、日本の漫画誌は、それぞれが個々に独立した直列を揃えた冊子となります。


 並列方式には弱点も有ります。まずは、多面さや多角さによる、全体を把握することの難しさ。
『アベンジャーズに追い詰められた侵略者が別働隊に救難信号を出すものの動けない、何故なら彼らはX−MENと戦っていたから。では何故X−MENが別働隊と戦うことになったのか。詳細はアベンジャーズ誌ではなく、X−MEN誌に』
『Aというアベンジャーズ誌で提示された謎の答えBが、他誌であるスパイダーマン誌に載っている』
必要最低限の概要はメインで分かるものの、戦いの裏や伏線を把握するには、やはりタイインの購読が求められます。日本の漫画雑誌とは違い、一纏めではなく、一話ごとに分冊して販売されているアメコミ。完全を求めると、その金額は予想以上の物となってしまいます。また、メインが振るわないとタイインも盛り上がらなくなる。イベントに関わることで、今まで独自に行なっていたストーリーラインが破綻する。勘違いや行き違いの結果、決定的な矛盾点が発生してしまう。大規模な分、抱える問題も広大で多くなります。


 また直列と表現した日本の形態ですが、この一直線に話や歴史を連ねていく形態は、漫画だけではなく仮面ライダーやウルトラマンやガンダムといったキャラクターコンテンツにも適用されています。例として仮面ライダーを上げますが、2013年現在の仮面ライダーは鎧武(戦国時代)です、その前はウィザード(魔法)、その前はフォーゼ(宇宙)。まだまだ遡れますが、ここまでにしておきます。テーマも外見も違うこの三人のヒーローは“仮面ライダー”です。ベルトやバイクのような、共通するキーワードもあります。しかしながら、一年ごとにフルモデルチェンジを繰り返しながらも、仮面ライダーという共通事項と認識を崩さない姿。次々と新たな世代を創造できる創作側と受け手側の体制が、直列を磨き上げてきた日本の強みです。片や、スーパーマンはクラーク・ケント、バットマンはブルース・ウェインという一個人からの代替わりが難しいアメコミ。しかし、その分、広大な世界観による事件や政治体制や共闘や対立で一個人を何十年も長持ちさせる。これはアメコミの強みです。強みに種別の差はあれど、優劣はありません。


 直列と並列という形で、それぞれの文化を紐解いてみましたが、これらは代表的な例であって、日本にも広大な世界観を持つ並列に近い作品、アメリカにも周りと隔離された独自の世界観を持つ直列の作品があります。
 日本のゲーム会社であるTYPE-MOONが展開している一連の作品は多くが同一の世界観にあり、特にFate/stay nightを発端とするFateシリーズは、聖杯戦争やサーヴァントといったキーワードを元にし、数多くのクリエーターの力により急速に世界観を拡大しています。また、先ほど例に上げたガンダムも、初代ガンダムの一年戦争という時間軸を舞台にした多数の派生作品を筆頭とし、今まで作り上げてきた直列の作品群に肉付けすることで並列としての広大さも持とうとしております。
 マーベルにはアルティメットユニバースという、既存のヒーローを現代向けに再構築したストーリーラインがあります。ヒーローを長持ちさせたがるアメコミの流れに反するかのような、大量の死や代替わり、あえて既存の概念をぶち壊すような思い切ったキャラ設定等は、こちらの常識すら打ち砕く破壊力があります。DCコミックスの所謂エルスワールドとしてカウントされる作品。消えたヒーローの復活を描くキングダム・カム、老いたバットマンの再起と戦いを描いたバットマン:ダークナイト・リターンズ、これらは“既存要素を使いつつも独立性を持たせた”直列に限りなく近い作品群です。
 そして完全に直列にカウントしてもよい作品。映画化も果たした衝撃作ウォッチメンや殺人兵器に改造された動物の苛烈な運命を綴るWE3等など。これらは基本的に独自の世界観、物語として構築されています。このように作家個人が中編や短編で自由に己を発揮できる余裕が、ガチガチに見える有力出版社内にも存在するのです。


 一つの形式に固執するのではなく、時代とともに様々な形式に挑戦し続けていく。試行錯誤の結果、今があり、未来に可能性を残しているのです。これは、全世界の創作において、生き残るために必須の手段と言っても過言ではないでしょう。つまるところ、日本の漫画と、アメリカだけでなく海外のコミックス全てに制作面や環境面の違いはあっても、面白さを目指しているという点においては両国同じです。壁をつくったり線引をせず、一塊の面白い物と考えてみる。創作の国境を薄めていくことによる、互いの優れたシステムや方法論の取得。今後求められるのは、それぞれを叩き台にしての日本や海外の批判ではなく、互いの良い所を認め合っての相互発展でしょう。日本の同人文化の形の一つであるコミティア、世界の漫画をテーマとした海外マンガフェスタ。この2イベントの同会場での開催が、思いもよらない新たな物を生み出すのでは。僭越ながら、そのようなことを考えております。

追跡、アントマン!〜中編〜

 前編はコチラ



ふじい(以下F)「説明しよう! 天才科学者ハンク・ピムとは、アントマンでありジャイアントマンでありゴライアスでありイエロージャケットでありワスプなのだ!」

ピムバリエーション〜その1〜

サイレン(以下S)「あらかた知っている俺でも分かり難いよ!?」

F「と言うわけで、今回のテーマは“ややこしいよハンク・ピム!”だ。アントマンとして登場したものの、度重なるコスチュームチェンジや名前の変更で、一人にして複数の名前を持つことになったハンク・ピムの変遷を紹介していこう」

S「アルティメットとかも?」

F「そこまで紹介すると手に余るので……メインストリームであるEarth616、通称“正史”のハンク・ピムだけにしておこう」

S「……」

F「どうした?」

S「正史って言い方は、若干違うようなそうでないような」

F「正しい歴史という意味では違うけど、多数のIFやパラレルが存在する中でのメイン、所謂創作における正史としてなら、大筋あっているというか……まあ、その単語を聞いてパッとイメージしやすいなら、単語の使い方としてそれでいいんでね?」

S「それもそうだな」

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マイティ・ソー:ダークワールド〜誰だよ、アイツら!〜

 先日公開されたマイティ・ソー/ダーク・ワールド作中において、序盤とエンドロール中にて登場した謎のキャラクター二人の解説となります。
 性質上、ここから先は映画のネタバレです。鑑賞後の閲覧をおすすめします。

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追跡、アントマン!〜前編〜

 2014・2・25
 最新の情報を※として追加。


F「というわけで、今回はアントマン、そしてハンク・ピムの紹介だ」

S「ああ! アントマン、ジャイアントマン、ゴライアス、帰ってきたイエロージャケット、新ワスプのハンク・ピムだな!」

F「マジで、ウルトラマンジャックレベルでややこしいよな、ハンク・ピム。名前が定まらなかったジャックと違って、全部本人が名乗った上にコスチュームも変えて、別個のヒーローとして存在しているからややこしい。ハンク・ピムのヒーロー名やコスチュームの変遷は後に回すとして。まずは、映画化も決まっているヒーローとしてのアントマンの解説からだ。アントマンが出来る事や、ハンク・ピムも含めた歴代アントマンについて、まず説明してみよう。原作におけるアベンジャーズの創設メンバーである以上、春のディスク・ウォーズにも、おそらく出てくるだろ」

S「え? でも、イメージイラストを見る限り、居ないんだけど」

F「分からんぞ。こっちに見えないくらい小さくなって、アイアンマンの指先やソーの兜やスパイダーマンの股間に乗ってるかもしれん」

S「マイティ・アベンジャーズ方式!?」

虫眼鏡必須

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2014年のテーマ

ふじい(以下F)「アベンジャーズを原作とした、日本産アニメディスク・ウォーズ:アベンジャーズが、予定通り行けば、今年の春に公開されるわけだ」

サイレン(以下S)「制作指揮がディズニー・ジャパンで、制作が東映アニメーション。キャラクター商品担当はバンダイで、地上波全国ネットと。改めて並べてみると、中々好待遇だね。出来いかんでは来そうな感じ?」

F「来てくれるとありがたいねえ。いっそ、今の器を引っ繰り返すぐらいに。どっちにしろ、春以降、今まで全く触れていない新規層や、久々に触れようかと思う回帰組が増えるのは確実。というわけで、今年の方針は、基本的な事をコツコツと。ずっと追いかけている人間にとっては分かり切っていることでも、それ以外から見たら立派な未知であり、眠っている面白さの鉱脈なわけで」

S「そういや、この間、ヴェノムの記事を書いてたな」

F「わりかし好評だったんでね。薄々感じてはいたけど、ヴェノムに触れることで、立ち返ることの大事さをしっかりと思い出せたよ。ベノム、もとい、ヴェノム」

S「Twitterに宣伝を上げる時、ヴェノム表記とベノム表記が混ざってたアレ、ワザとか」

F「ああ。今はVENOMの読みはヴェノムが主流だけど、マブカプの頃はベノムだったからな。パチンコ台やらなんやらでも、ベノム多かったし。姿形のようなイメージが崩れている上にヴェノム表記オンリーだと、過去席巻したベノムと繋がらない可能性もあったわけで」

S「過去の財産を使わんのは、勿体無いしねえ」

F「90年代、地上波でもやってたX−MENなんか過去の財産ザクザクだし、日本での映画の好調の下地の一つに、恐らくこの財産があるよ? あるべき物を把握し、使えるものは使い切る覚悟で使う。これがもう一つの、今年の基礎方針だね」

S「あるべき物を使って、基本に立ち返るって所か」

F「だいたい、そんな感じ。知っている人にとっては当たり前を、世間的な当たり前と思う危険さも、なんか分かって来たしね。例えば、当たり前のように使っているキャップや社長といった略称だって、知らない人にはこれ、キャプテン・アメリカやアイアンマンの略称だって下手すりゃ分からんよ?」

S「そりゃそうだわな」

F「なので、世間的なふわっとした疑問や、知っている人にとって当たり前なことにも、今年は挑んでいくつもりで。空港の入り口で客引きしている怪しげな現地ガイドみたいな人間にも、まだやることはあるわな」




日本人が知らなくてもいい真三大“アメコミのホリデースペシャル”

 様々な世界の三大を見つける。それが、真三大◯◯調査会。
 今回はクリスマスに因んだ海外コミックスの紹介。果たして、どんなものが選ばれるのか!?


 今日のテーマは題して日本人が知らなくてもいい真三大“アメコミのホリデースペシャル”です。
 アメリカンコミックスに脈々と繋がる伝統、ホリデースペシャル。主に、クリスマスを舞台とした短編で構成されており、クリスマスらしい明るい作品から時には嫌な読後感があるホラーまで。クリスマスというテーマ以外は自由という、多種多様なアンソロジーとなっております。


メリー・フリーキン・クリスマス

“サンタクロースVS変人!”
“シンプルながらも、強い、逞しい、良きオヤジなサンタ!”

 まず有権者の皆様に訴えたいのは、アメリカンコミックスにおけるサンタクロースはキャラとして存在しているという事実。多くの子供達の家に進入するためのスニーキング能力だけでなく、いざ障害に遭遇した時対応できるだけの戦闘力を持った存在なのです!
 クリスマスを目前とし、大忙しなサンタクロースハウス。トナカイを脅かし、妖精たちが騒ぐ隙にオモチャ工場に潜入するのは、我らがデッドプール。彼の目的は不明ながらも、華麗なスニーキングテクニックで、見事潜入に成功。しかし、彼の前に立ちふさがったのは、なんとサンタクロース本人!

サンタクロース参上

 リース状のモーニングスターやスティックヌンチャク、更には縮小化からのサンタクロースパンチで、超一流の傭兵を追い詰めるサンタクロース。だがしかし、その間隙を狙い、なんと狂暴な雪男が乱入。サンタクロースVS雪男のデスマッチの最中、デッドプールは雪男を殺害、サンタクロースとの和解に成功し、目的も達するのでした。

サンタ「ガハハハ!」

 そしてクリスマス当日、クリスマスを楽しもうとするマフィアの元に訪れたのは、煙突からサンタのふりをして現れたデッドプールだったのです!

クリスマスの亡霊が来たぜ!

 というわけでこの作品を、真三大“アメコミのホリデースペシャル”の一つとさせていただきます。

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