- 2012.10.31 Wednesday
- 小説
摩天楼の最上階に蝙蝠が飛び込んでからずっと、喧騒が止まなかった。
窓ガラスが割れ、飛び出した身体が空に投げ出される。落ちそうな男の胸ぐらを、遅れて出た手が捕まえた。
一本の手だけで支えられた男。動揺してしかるべきなのに、彼は無表情だった。なにせ彼には顔がない。
彼の顔は漆黒。黒い骸骨の面が顔に癒着した男。その名は、ブラックマスク。
「落とせよ。その手を放して、俺を落とせ! バットマン!」
ブラックマスクは、自らを支えるバットマンに、落とすことを強要する。しかしバットマンは、無言のまま動かなかった。
バットマンの背後、部屋の中には戦闘能力を失った手下達が転がっていた。
ひとしきり叫んだ後、ブラックマスクは落ち着いた声色で、バットマンに改めて尋ねた。
「俺は正気だぜ、バットマン。だから、ブラックゲート刑務所に送られるんだよな。……そうだよな?」
ぐっと手に込められる力、ブラックマスクの身体が引き寄せられる。髑髏の仮面と蝙蝠の覆面、その距離は肉薄となった。
「私は司法ではない。その判断を下すのは別の人間だ」
「なら、お前の予想でいい。さあ、言ってみろ」
バットマンに、一瞬だけ躊躇いが生まれた。
「アーカムだ。お前は、アーカム・アサイラムに送られる」
精神病院アーカム・アサイラム。精神に異常をきたしたフリークスが送られる、異常を閉じ込めたパンドラの箱。
異常の行き着く先にして、異常が唯一正常に暮らせる最後の地。
「そうか、ならば!」
隠していた拳銃を抜き放つブラックマスク。ブラックマスクは銃口を殺害には向けず、自殺に向けた。自らのコメカミに、銃口を押し当てる。
バットマンの拳がブラックマスクの顎を叩く。崩れ落ちるブラックマスクの手から拳銃を奪い取るバットマン。
前のめりに崩れ落ちたブラックマスクの口から恐怖と無念の声が漏れた。
「アーカムに入り、惨めな死が確約されるぐらいなら、俺はせめて、華々しく……」
こう言い残し、気絶するブラックマスク。嘗てアーカムに入った経験のある男が、アーカムを極端に恐れていた。
施設の警備や職員も、フリークスにとってはボロの錠前にすぎない。その気になれば、いつでも出て、ゴッサムで復活できる。
アーカムに入ることは敗北であっても、終わりではない。だがブラックマスクは、終わりであると嘆いていた。
駆けつけるアーカム市警。ブラックマスクと手下を確保し、現場検証を始める。
バットマンは既に部屋から消えていた。摩天楼の風を頼りに、闇を飛ぶ。
今のアーカムは、あり方として正しい。異常の棲み家ではなく、異常を封じる場所にまったくもって正しいあり方だ。
ただ、これは本当に正しいのだろうか。なにせ、アーカムの歪みを正したのは、正真正銘の歪んだ天才である。
一層歪んだのを、正しいと錯覚しているだけではないのか。バットマンの疑念は一層強くなっていた。
バットマンが会いに来た。アーカムの所長はその報告を受けた途端、治療中の患者をほっぽり出して、出迎えの準備を始めた。
治療はいつでも出来るが、蝙蝠は向こうが会う意思が無い限り、絶対に会えない。ならば当然、優先すべきは蝙蝠だ。
「いよいよか。いよいよ、ヤツが私に、頭を垂れる日が来たか」
画期的な治療法を編み出し、一躍総責任者の座についた新所長を、バットマンはずっと認めず顔も見せなかった。
だが今日、ついに彼が会いに来たのだ。傲慢で、正義という言葉を自慰の材料としている男が敗北を認めたのだ。
所長は眼鏡を外し、ワラのマスクを被る。彼を出迎えるにあたってこのマスクは、タキシード以上の正装である。
白衣もついでに着替えようとして思いとどまる。そこまでやってやる必要はない。むしろ、服は白衣のままにし、自分が所長であることを演出してやるべきだ。
ワラのマスクに白衣。これこそ、今のジョナサン・クレインが取るべき格好。
「ようこそ、バットマン! 我が象牙の塔へ! アーカム所長のスケアクロウ自ら出迎えようではないか!」
象牙の塔から転げ落ちたカカシは、歪んだ国へ辿りつき、ついに国王となった。
誇らしげなカカシの王を前に、蝙蝠は苦り切った顔を隠そうともしなかった
湧き出る自信が、弁舌を滑らかなものにしていた。
「アーカム・アサイラムは無意味な施設だった。無能な医者は患者を押え切れず、患者は堂々と正門からの出入を繰り返す。それはもはや病院ではない。狂人専用の別荘だ。キミにやられた思い出を噛み締め、ふつふつと怒りと狂気を煮え滾らせる別荘だったのだよ」
アーカムの薄暗い廊下を意気揚々と歩く、饒舌なスケアクロウ。後ろをついていくバットマンは終始無言だった。
「だがしかし、私の編み出した画期的な治療法により、アーカムは患者を治療出来る施設へと変貌した。聞こえるか? 看守の嘆きの声が。聞こえるか? 患者の笑い声が。何も、聞こえないだろう。この静寂こそ、まさに病院だ」
確かに、何も聞こえなかった。おかげで、スケアクロウの金切り声がキンキンと反射している。
「見給え、この新聞を。キミを差し置いて、私が一面だ」
スケアクロウが犯罪者から、救世主へと変貌した日の新聞。一面には“医学の歴史を塗り替える、画期的な心理療法!”との文字が踊っている。
スケアクロウはその栄えある新聞のコピーをバットマンに押し付けた。バットマンは無言で受け取る。
「せっかく来てくれたことだし、何人か例として治療済みの患者を見せようと思っているのだが……リクエストはあるかね? 無言、つまり誰でも良いということか。ならば、分かりやすい患者を、所長自らチョイスしてあげよう」
しばらく歩いた後、スケアクロウは唐突に足を止めた。独房の扉を開けると、後ろのバットマンに、中に入るよう促した。なんと中に囚人がいるのに、独房には鍵がかかっていなかった。
「どうせ開けておいても、彼女は出ない。例え、ここから正門までフリーパスでも、彼女はここにいることを望むのだよ」
開けっ放しとなった、独房の扉に寄りかかるスケアクロウ。扉に付いたネームプレイトが埃まみれなのに気づき、手でホコリをはらう。
ネームプレートには、ポイズン・アイビーと書いてあった。植物人間にして、変質的な植物愛好家。彼女の放つフェロモンに惑わされた男は星の数。
普段であれば、彼女の独房からは植物が放つ緑の匂いがする筈なのに、今日は無臭だった。本当に居るのかと疑いたくなるぐらいだ。なにせアイビーの放つ女の匂いは、おいそれと隠せるものではない。本人が隠そうと思っても、男が嗅げば否が応にも気付いてしまうのだ。
バットマンが疑いながら部屋を出ようとしたその時、彼はアイビーを発見した。彼女は部屋の隅でじっとしていた。毛布にくるまり、自らの腕で自らを抱きしめている。
植物、彼女にとっては他者である物への愛。他者への愛に満ちた彼女は見慣れているが、このように自己愛に満ちたアイビーを見るのは初めてだ。
「アイビー」
バットマンが名前を呼んでも、彼女は動かなかった。思わずバットマンは、アイビーへと手を伸ばす。
パシッ!と、良い勢いでバットマンの手が叩かれた。
「触らないで!」
ヒステリックに叫ぶアイビー。そうして再び、自らを愛惜しむ作業へと戻る。
「何があった」
重々しく、バットマンが問いかける。アイビーは小刻みに震えながら、言葉を搾り出した。
「みんな、みんないなくなってしまった」
「みんなとは、植物のことか?」
「ええそうよ! みんな、わたしを置いて、いなくなってしまった! だから守るの。最後の植物となってしまったわたしを! みんなが帰ってくるまで、わたしを守るの!」
いなくなる。つまり植物が根絶やしになる。生憎だがそんな事件は起こっていないし、もしも地球から植物が根絶やしになっていたら、人類は窒息死してしまう。
そんな絵空事をアイビーは信じきっていた。信じきって、唯一の生き残りの植物、つまり植物人間である自分を、必死に守ろうとしている。
バットマンは苔むした壁に指をやり、苔を取った。
「アイビー。これがなんだか分かるか?」
「知らない、知らない、知らない……」
アイビーはいっそう小さくなり、何も話さなくなってしまった。苔が植物であることを、アイビーが知らない筈もない。苔という植物と同衾しているのに、アイビーは植物は滅んだと主張している。
まるでアイビーの目に、植物の存在が入っていない様な。言うなれば、彼女の認識から、最も彼女が愛している存在である植物が消えているのだ。
「やめてやれよ、バットマン。女を虐めて、何が楽しい。無害な女を虐めて、何が楽しいんだい」
スケアクロウがやんわりと面会時間の終了を告げる。今のアイビーは、病んではいるものの、紛れもなく無害な女であった。バットマンは指示に従い、部屋を出た。
「アイビーの世界に、植物は無いのだよ。長年かけて編み出した特殊ガス。これを浴びた者は、自身のアイディンティティを失う。失った上で、受け入れる事も出来なくなる」
つまり、アイビーは自分の存在証明を剥奪され、ああなってしまったのだ。犯罪の動機も人としての活力も、全て奪われた姿が、あの姿なのだ。
「それはもはや、治療と呼ばない」
「言うなあ、バットマン。でも、世間は治療だと認めているのだよ。キミの長年のイタチごっこよりも、私のひと吹きの方が偉大だと。さあ、見学ルートにはまだまだ先がある。行こうじゃないか!」
スケアクロウはうやうやしく、バットマンに先に歩くよう促した。
カカシが案内する、アーカムの旅。一見、アーカムは病院としての清廉さや調和を取り戻したかのように見える。だがしかし、その美点は何処か歪んでいた。
ぶつぶつ言いながら、頭の禿げた男がメモ帳に数字を書いている。一枚につき数字一つ。書いては破り、書いては破りを繰り返している。
「カレンダーマンからは日付をいただいた。自分で日めくりカレンダーを作ろうとしているのかね」
カレンダーの日付に合わせて、衣装や反抗を見繕う怪紳士カレンダーマン。禿げた頭を苛立ちから掻いてるせいか、頭の各所で血が滲んでいる。
その先の部屋では、髭を蓄えた男が玩具の弓で遊んでいた。何度射っても、大きな的に当たらない。彼は悲しそうだった。
「彼の世界には銃器が無い。あの玩具の弓やゴムパチンコを足りないものの埋め合わせに使っているようなのだが。いかんせん、的に当たっているのを見たことがない。デッドショットの名が泣くぞ」
一発必中の狙撃手デッドショット。比較的、精神の落ち着いていた犯罪者であった筈なのに、今の彼は目を背けたくなる程に哀れだ。
壁を殴っている男がいた。イライラとして、何度も壁を殴っている。それしかストレスの発散法を知らないかのように、殴り続けている。綺麗な方の手も汚い方の手も、同じく血と傷に塗れていた。
「コインと言う名の二択。ならばそれをトゥーフェイスから奪ったらどうなるのか。トランプのような代替え品を一切与えず。そうしたら彼は、即断即決の人間となった。なんと言うか……安っぽいね」
トゥーフェイスと言えば、名前だけでチンピラを震え上がらせる大物なのだが。今の彼は即時開放しても、チンピラ並みの短慮で安い犯罪をおこして捕まりそうだ。それはそれで、平和なのかもしれないが。
「では改めて聞こう。他に気になるヤツはいるかね? リドルを失ったリドラー、鼠を求め口笛を鳴らし続けるラットキャッチャー、他者を失い変身不可能となったクレイフェイス。中々どれも、興味深い患者だよ」
「ジョーカーはどうした?」
バットマンにとって、避けられぬ相手であるジョーカー。請われて名前を出すのは、当然とも言える。
「やはりその名を出すかね。混沌である彼は、果たしてガスを嗅いで何を失うのか。愉悦を失えば狂気に走り、狂気を失えば快楽に走る。複数の主体性を持つ男はどうなるのか。それは興味深いことだ」
感慨深く語るスケアクロウ。突如スケアクロウは、指をバットマンに突きつけた。
「ひょっとしたら、ジョーカーが失うのはバットマンかもしれんぞ。ジョーカーという不確かな存在、唯一確立されているのはバットマンとの対立軸。バットマンを失えば、他の犯罪者以下に成り下がるかもしれん」
バットマンは何も答えなかった。スケアクロウは鼻でフフンと笑う。
「どうだい、バットマン。敗北を認めるかい? 私の治療により、犯罪者は牙を失い、皆が私を賞賛している。ブラックゲート刑務所からも、アーカムへ囚人が送られてくるぐらいだ」
「病気でない人間も、治療してしまう気か」
「医者にかかれば、精神の病気なんてどうとでもでっち上げられるさ。問題の要は、私がゴッサムの犯罪を減らしたことだろう。キミの長年の努力に、医者の理論が勝ったのだ。認めろよ、敗北を!」
スケアクロウは、バットマンに食って掛かる。普通のヒーローであれば、道理で反論してくるだろうが、バットマンは違う。たとえ過程が気に食わなくても、成果は成果で認めることが出来る男だ。それならば、例えこの場だけでも、敗北という言葉を口に出来る筈だ。
「負けたよ」
遂にバットマンの口から、敗北宣言が成された。
「そうか! キミも負けを認めたか! ささっ、キミはこれからJLAでも何処とでも行くといい。ゴッサムの病巣は私が治療させてもらうよ」
スケアクロウとて、立派なバットマンの対立軸である。宿敵の敗北宣言は、何処までも心地良かった。
「流石はヒューゴー・ストレンジ教授だ」
「……なんだと?」
最も心底心地良かったのは、数秒だけの話だったが。
スケアクロウは激怒し、バットマンに食って掛かる。
「いいか! 私はジョナサン・クレイン所長だ! まさか、ストレンジ教授が私に化けていたと言い出すのではあるまいな!?」
ヒューゴー・ストレンジ教授。高名な精神分析学者にして薬学や分析力にも長けた、天才。バットマンを、優れた頭脳で長らく苦しめてきた強敵だ。
「いいや。お前はジョサナン・クレインだ。ただし、お前のガスの製法や精神医療の理論は、彼の物だろう」
「何を馬鹿なことを。さっき新聞を渡しただろう、バットマン。読め、一行でも読め。読んで自分の浅はかさを理解しろ」
バットマンは、スケアクロウに新聞を手渡した。先程のスケアクロウ賞賛の新聞よりも、日付が新しい物だ。一面には、禿頭と髭と丸眼鏡。ストレンジ教授が満面の笑みで載っている。
スケアクロウはひったくるようにして、バットマンから新聞を奪い取る。
「なんということだ……!」
ワナワナと震えるスケアクロウ。自分の編み出した議論手法が、全てストレンジ教授の編み出した物となっていた。スケアクロウの名前なんて、新聞の何処にも載っていない。
「インチキだ! 捏造だ! 私の新聞こそ本物だ!」
「新聞とはコレのことか?」
「なっ!?」
スケアクロウが渡したであろう新聞は、汚れた白紙と化していた。
「ストレンジ教授のおかげで、ゴッサムは平和になるだろうな。今頃、彼は受賞の為に招かれたスウェーデンに到着したところだろう」
「ス、スウェーデン!? ふざけるな! これは私の理論だ!」
「臨床での実証も、大事な仕事だ。博士もお前を信用している」
「そんな仕事、小間使いでも出来る物だぞ! 私が編み出した理論、優れた研究成果! それなのに、手柄は全てストレンジの物だと!? ええい、認めろ、私を認めろ!」
ワイヤーガンが天井に発射される。バットマンはあっという間に消えてしまった。窓に縋りつくスケアクロウ。
月光が蝙蝠を照らす。バットマンは夜空を飛んでいた。そしてそのまま月に消える。
「バットマンでさえ、ストレンジを認め、私を認めていないのか。こんな所にいる場合ではない、行かなくては!」
行く先も決めずに、スケアクロウは何処かへ行こうとする。新聞社かカロリンスカ研究所か、とにかく、アーカムにいる場合ではなかった。
がっしと、無数の腕がスケアクロウを掴む。ポイズン・アイビー、カレンダーマン、デッドショット、トゥーフェイス……アーカムの囚人たちがスケアクロウを掴んでいる。なんと、護送中の筈のブラックマスクまで掴む中に居た。
囚人の身体を侵食する藁。藁は彼らに巻きつき、彼らは皆、スケアクロウと化した。様々なデザインのスケアクロウが、白衣のスケアクロウを掴まえている。
「うわああああ!?」
悲鳴を上げるスケアクロウ。マスクが取れ、彼はジョナサン・クレインの姿を晒す。それでも、スケアクロウ達の拘束は緩まない。
「まったくよお、恐怖を操る者が恐怖に支配されて、どうするんだか」
何者かが、落ちたスケアクロウのマスクを被る。新しくスケアクロウとなった男は、クレインに顔を近づけた。
「なるほど。認められることが大事だったのか。てっきり、恐怖を失って、恐れを知らぬビーストにでもなると思ったけどよお。学者先生としてはマシなのかな。でもお前さん、つまんねえ患者だな」
クレインの口から激しく息が漏れる。もはや、悲鳴を上げる余裕もなかった。声なき息が、静かなアーカムに響き渡った。
彼は己の殻に閉じこもり、自分だけの世界に生きていた。
「なんで誰も認めてくれないんだ……なんで……なんで……」
独房でブツブツと呟き続けるスケアクロウ、いや、素顔のジョナサン・クレイン。虚ろな目は、明らかにこの世界を直視していなかった。あの世界では院長でも、この世界では囚人にすぎない。
「いやー、このガスの効果はスゲエわ。制作者でさえ、一旦嗅いでしまえばバッドトリップ! ねえ先生、このガスを売る時のキャッチコピーに、こんなのどうしかしら?」
スケアクロウのカルテを外で書いているのは、ナース服のジョーカーだ。カルテと言っても、なんだかよく分からない文字と落書きのコラボレーションなのだが。
「アイディンティティを失うと、人間こうなっちゃうんだねえ。自分の世界に一名様ご案内〜。全く、オレも嗅がされていたら、こうなっていたのかな。もみ合いなんかして、よくも嗅がなかったモンよ」
囚人の身ながら、ガスを完成させたスケアクロウが第一の被験者に選んだのはジョーカーだった。混沌でどこに主体性があるのか分からぬ彼こそ、最もふさわしい実験対象。
そして、もみ合いの結果、スケアクロウはガスを吸い込んでしまった。それからずっと、このままだ。彼は今、自分の世界でアイディンティティを失う夢でも見ているのだろう。本人が間抜けでも、ガスの効果は本物だ。
「しかし妙だぜ。その後、トントン拍子でオレ様は再びアーカムを占拠。犯行声明文を出したのに、バッツの野郎、来やしねえ」
非合法でアーカム所長となったジョーカーは首を撚る。以前の敗北を参考にして作った罠や、一層凶悪なヴィランで満載となったアーカム・アサイラム。準備万端なのに、いくら待ってもバットマンは来なかった。
「JLAで忙しいのかねえ、それとも流行りに合わせて、猫ちゃんやベインやタリアの相手でもしてるのか。いやん、ジョーカー寂しい! あれ? ああそうか。そういうことか。やられたよ、カカシの王様」
ジョーカーは納得した。そして理解した。いくらこうしていても、バットマンは一生現れないということを。あのガスは、本当に優秀なガスだ。
アーカム・アサイラムは、今日も平穏だった。ずっとこれからも、歪んだままに平穏である。
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