邪神邂逅-第十話

 今まで色々な敵と戦ってきた。
 666の混沌の集合体であるネロ=カオス
 無限の転生者ミハイル・ロア・バルダムヨォンでもあり、自身も不死に近しい能力を持った遠野四季
 永い夢で出会ったまだ見ぬ宿敵、軋間紅摩
 悪夢の具現者タタリこと最狂の錬金術士ズェピア・エルトナム・オベローン
 しかし、
「で、どうすればいいんだろうな」
 いまだ戦ったわけでは無い、ただ目の前にその存在がいるだけ。
 なのに今までの敵とは違った絶望感が志貴へと襲い掛かる。
 いまだ下半身を魔法陣の中へと埋め、上半身しか現界していないが大きさは今までの敵の中で最大とも思えたネロの象をゆうに超える。
 渦巻く魔力は同じ場所で具現化したタタリに勝るとも劣らない。
 圧倒的な巨体に最悪な空気、悪条件を全て備えた神は志貴の目の前で咆哮を上げ続けていた。
 グルルルルル……
 地獄の底から響くような咆哮と共に這い上がってくる軍神テスカポリトカ。
 徐々に浮き上がってくる下半身が全て出た時、それは破滅の時。
 目の前の神の名前しか知らなくとも目の前の存在を直視すればそれ位の危機は解る。
 それにナイフ一本で立ち向かおうとする学生、狂ってるの一言では済まされない光景だ。
 だが自分にはこれしか武器がない、一本のナイフと全てを殺す可能性を持った眼と、過去の記憶に残る体術、この二つの武器で敵を殺してきた、ならばこの戦い  もそれで戦うのみ。
 しかし辺りはドンキホーテも利口に見えるような絶望感で覆われていた。

 ギロリと光るテスカポリトカの眼、それは殺気を放ちこちらを見据える志貴へと向けられた。
 見詰め合う両者、先に動いたのはテスカポリトカの方だった。
 グオオオオオオオ!!
 絶叫と共に振り下ろされる巨大な右腕、寸前で脇へ避ける志貴、外れた一撃は易々とコンクリートの地面を砕き巨大なクレーターを作り上げた。
 そのまま無造作に右腕をなぎ放つテスカポリトカ、空気を振動させる一撃は完成間近であった神殿状の建築物を見事に破壊する。
 圧倒的な破壊力を持ったバケモノ、しかしその自慢の右腕は神殿を破壊した直後、手首から先を切り落とされた。
 グワアアアアアアア!!
 怪物の口から漏れる絶叫、その眼前には七夜を振り上げ、胸の一点を穿とうとする志貴。
「これで終わりだ!!」
 テスカポリトカが反応する間もなく直死の魔眼により浮き出た死の点を突く。
 易々とテスカポリトカの体に吸い込まれる七夜、死の点を突く事による余りに呆気ないほどの幕切れ。
 しかしこの神はでかいだけの化け物としての幕切れを不服としたようだ。
 グオオオオオオオオ!!
 断末魔とは違う生命感溢れる咆哮、無事な左手で胸に七夜を突き刺す志貴を掴み、眼前高く上げる。
「!?」
 全ての生き物の急所である点、すなわち意味の崩壊点、それを突かれればどんな生物でも死せる。
 これは不死の代名詞である吸血鬼のトップにも言われた事でもあるし、元不死身の教会代行者にも言われた事でもある。
 しかしテスカポリトカはそんな定説など知った事ではないかのごとくに掴んだ左腕に力を込めて志貴を握り潰そうとしていた。
「く……!! 」
 悲鳴を上げる全身の骨格と圧縮される内臓の感触に耐え切れずに志貴の口からも嗚咽が溢れる。
 テスカポリトカはそれを断末魔と見定めたのか握っていた志貴の体をオーバースルーで投げ飛ばした。
 宙を舞い屋上を飛び越えて夜の闇へと投げ飛ばされる体、体に感じていた浮遊感はやがて落下感へと変わる。
 落下感は長い間続かずにやがて一瞬の破壊の感覚に、そして長き死の感覚へ続く――
 だが志貴の体が次に感じたものは暖かい人の感触だった。
「大丈夫? 志貴? 」
「……なんとか」
 体を包む優しい感触、そしていとおしげな声、宙舞う志貴を抱き止めたのはアルクェイドであった。

「五分間だけ時間を稼げる? 」
 屋上へ着地一番アルクェイドが発した台詞は希望と絶望が半々織り交じった物だった。
 希望は五分と言う時間制限を設けると言う事はそれを過ぎれば勝ち目が生まれるという事。
 そして絶望は点を突いても死なないと言う生命因果に真っ向から喧嘩を売っている様な怪物相手に五分持たせる事。
「五分か……」
 正直自信が無い、思わず言葉尻が弱弱しいものとなる。
「もしかして点を突いても死なない事を気にしてるの? 」
「ああ。夜のお前と違って線が見えないわけでも点が見えないわけでもなかった、間違いなく点を突いたのに……」
 ガアアアアアアアアアアアアアアア!!
 死する筈の存在はなおも力強く吼えまくる、そして絶叫の瞬間。
「光線!?」
「跳んで! 志貴! 」
 テスカポリトカの口から放たれる鈍い光を放つ極太の光線、あわてて避ける二人。
 光線はあさっての空へ外れ、やがて消えていくが光線が当たった地面はガチガチに凍りついていた。
 フシュゥゥゥと口から冷却音のようなか細い音を出しながら二人を睨み付けるテスカポリトカ、その眼に宿るは純粋なる狂気。
「アレは命の集合体、理は666の命を個々に内包するネロに近いけどアレの命はスープの様にドロドロに溶けた自身の贄数千以上の命で構成されている、点を破壊しても残りの千以上の命で補完される。死の概念を持たずに生まれた物に意味の死は無し、線を切られようが点を突かれようが粉々になろうが命の隙間を直ぐに埋め、破壊を続け血をすする。最も憎むべき存在にして悲しい存在」
「悲しい? 」
「だって戦う事しか知らないのよ? 永遠に戦い、殺す事が生きる証。そんなの悲しい以外の何物でもない……」
 憂いげな表情で狂気の産物を見つめるアルクェイド、自身もここで志貴に出会わずに死徒を滅するだけに生きていたら数百年後にはあんな存在になっていたのかも知れない、アレは自身の悲しい未来、もう行く事の無い未来。
「ああ、悲しいな。だったらここで終わりにしてやろう」
 上着を脱いで軽く体を慣らす志貴、その眼に写るは純粋な殺意、先程見せていた軽い怯えや躊躇など微塵も無い。
「志貴? 」
「もう迷わない。アレをみすみす復活させたら大変な事になるのはわかるし、それに……お前のそんな悲しげな顔は見たくない」
 わずかに頬を染めるアルクェイド、だがそれも一瞬、直ぐに真面目な表情に戻り作戦内容を告げる。
「ならお願い、時間を稼いで。アレは死を知らない存在、だけど自身が主神として崇められていたアステカ文明の衰退と共に生贄の供給量が減り力を失っていった。死することは無いが飢えれば力を失う、今は飢えた状態でむりやりアンリに呼び出されたもの、あの魔方陣の中に押し戻せば二度と現界する事は無いはず。
 いまからアレを押さえられるものを創るからその間奴の注意をひきつけて」
 千年後の朱い月が出るまでは無敵の存在だった筈のタタリ、しかし彼もまたこのシュライン屋上で空想具現化により創られた朱い月により実体化させられ滅んだ。
 彼女は再びこの屋上で何かを創り上げる気でいる。
「わかった」
 言葉は無用とばかりに一言それだけを言い残してテスカポリトカへあらん限りの殺気を当てる志貴、その殺気を受けてテスカポリトカの注意は完全に志貴へと向く。
 ウガアアアアアアアアアアアア!!
「来い」
 自身の体に秘められた第三の武器である殺人者としての感覚を全開にする。
 再びぶつかり合う怪物と青年。
 否、ここでぶつかり合っているのは不死身の破壊神と純粋なる殺人鬼。
 死と言う存在を否定する者と死を万人に知らしめる者。
 凶の極みへと達した戦いが口火を切った。

(点を突いても意味が無い、ならば……)
 先程の戦いと同じ様に拳を突き出すテスカポリトカ、先程はこの手を切り裂いて奴の体へ一撃を加えたが、それではさほど効果が無かった。
 再び炸裂する拳、しかし今度は受け止める事無く軽く上に跳ぶだけでその一撃を避けた。
 そのままテスカポリトカの巨木の如き腕を足場とし再び体近くへと到達する、すでに点も簡単に突ける位置。
 しかし七夜の刃は点では無く肩口の線に突き立てられる。
 そのまま下へ飛び降りる志貴、線をなぞっていく刃。
 志貴が地面に着地し、七夜の刃が抜けたと同時にテスカポリトカの極太な腕が地面へと落ちた。
 ウオオオオオオオオオオ!!
 怒りと共に放たれる冷凍光線、その一撃は胸下の志貴へ一直線へ向かっていく。
 しかし志貴はそれを避けようとせずにテスカポリトカへと一跳びで近づき腹の線を切った。
 ぐらりと揺れる巨体、その影響で志貴へ向けられていた光線はあらぬ地面を凍りつかせる。
 絶たれた片腕に臓物が見えるほど深く切られた腹、普通ならば再起不能の状態だが、
 ガア!!
 気合一閃、直ぐに再生を果し再び志貴へと襲い掛かる。
「殺しあおう、太古の邪神。俺が飽くまで切り刻まれ続けろ!! 」
 不敵な笑みを浮かべ迎え撃つ志貴、五分という時はいまだ半分も過ぎていなかった。

「…………」
「信じられないか? 」
 シュラインから少し離れたビルの屋上、男装の麗人と神父が遠目で行われている戦いをそれぞれ驚愕と興味が満ちた目で見つめる。
「ああ、あの少年は一体何なんだ? あんな邪気と魔力を纏わせた相手にあんな捨て身の戦いを……」
「わからん。ただあの戦い方では長くは無い」
 冷徹なまでの神父の分析、女性も無言でそれにうなずく。
「死を知らぬ神に致命傷を与えられる方法は無い、死と言う概念を認知せず学ぶ事も無い存在……ある意味素晴しいまでの存在だな」
「どうする? 援護に向かうか? 」
「いや、止めておこう。あそこには真祖がいる、我らが手伝う事さえおこがましい様な存在がな」
 そう言いながらなぜかその場を去ろうとする神父。
 女性が何か言いたげに止めようとするが、
「七位を探してくる、あのクラスの死徒と戦って流石に五体満足と言う訳には行かないだろうからな」
 そう言ってさっさとその場から消えてしまった。
 嘆息する女性、再び遠き屋上での死闘に眼をやる。
 そこでは再び片腕を切り落とされるも瞬時に再生する邪神の姿があった。

 次々と繰り出される破壊的な一撃をギリギリでかわしながらテスカポリトカの巨体に傷跡を刻んでいく志貴。
 それはまさに紙一重の回避の連続、しかしその紙は破れることの無い紙。
 両腕の直線的な打撃と口からの一直線の冷凍光線、パターンを把握してしまえば迫力はあれど回避するのは容易な事だ。
 ズビュ!!
 無言で跳び上がりテスカポリトカの喉の線を切る志貴、巨木の如き首に巨大な裂傷が刻まれ上に位置する頭がバランスを崩し揺れた。
 そのまま頭に蹴りを入れ、その反動で大きく距離を取ると同時に首のバランスを一層危うい物とする。
 慌てて首を押さえるテスカポリトカ、その首は一寸の差で切り落とされる事を拒んだ。
 再びテスカポリトカの口が開かれる、絶叫か光線の発射しか出来ぬ口、しかし此度放たれたものは今までとは違うものだった。
 チョウシニノルナア!! クソゴミガア!!
 明らかに言語と取れる咆哮、同時に周りの大気が振るえる。
 刹那――
 テスカポリトカの周りの空間が一瞬で凍りついた。
 寂しい空きスペースを埋めるためにあったような木々は風に流れ粉々に散っていく。
 ローマ彫刻風の石柱のモニュメントは永久凍土の遺跡のような風格を一瞬で纏う。
 アスファルトの地面は急激な温度変化に耐えられずに細かいひび割れが無数に走った。
「なに!?……体が……凍る……」
 徐々に凍り付いていく志貴の体、感覚が麻痺し脳が全ての思考を拒んで行く。
 コオレコオレコオレコオレコオレコオレコオレ……ニクキタイヨウトトモニコオリツイテシマエ!!
 常軌を逸した言葉遣いだが先程の絶叫に比べれば聞き取れる所がある以上知性が僅かに感じられる。
 いつの間にか足が見えそうなところまで這い上がってきた体に冷気の一斉放出に僅かに芽生えた知性、間違いなく目の前の存在は現世へと1歩づつ近づいていた。
 クダケロクダケロクダケチレエエエエエエ!!
 動きを凍らせた志貴に振り下ろされる巨大なる鉄槌、唸りをあげて振り下ろされる豪腕は誰にも止められる事無く一つの命を砕け散らせる
 急激に止まる豪腕、その腕はいつの間にか現れた派手な装飾の金色の巨人により止められていた。
 ウガ!? ……バカナ! ナゼオマエガココニイル! キサマハトオキウミヘトホウチクサレタハズ!!
 闇で輝く金色の巨人を見てテスカポリトカの口から初めて漏れる疑問の叫び、その叫びは段々と絶叫へ変わっていく。
 アリエン! アリエン! キサマハキサマハ……
「見苦しい物だな、太古の邪神」
 凍りついた志貴の体を後ろから優しく抱きしめるアルクェイド、暖かさで溶けていく氷、だが彼女の口調は対照的に恐ろしいまでに冷厳な物だった。
「天敵に出会っただけでそこまで怯えるとは。やはり一度勝ったとはいえ太陽と戦うのは苦痛か? 」 
 全てがいつぞやの夏と同じ
 無敵を誇る存在の前にルール違反のモノが現れ
 無敵の存在に綻びが生じ
 そしてルール違反の元凶である吸血鬼の王が尊大な口調で現れる
 全てが呪わしいまでのデジャヴ
「我が幻想により打ちのめされ黄泉路へと帰るがいい」
 おだやかな動作で腕を上げるアルクェイド、その動きと同時に金色の巨人は腰に差し込んである剣を引き抜きテスカポリトカの腕を一閃した。
 あっさりと絶たれる軍神の片腕、しかしテスカポリトカは痛みなど感じていないように残った片腕で思いっきり金色の巨人の顔面を殴りつける。
 膝を付く巨人、その隙に瞬時に片腕を再生させたテスカポリトカは立ち上がろうとする巨人に圧し掛かるように襲い掛かる。
 がっちりと組み合う両者、その力の拮抗はほぼ互角、ぶつかり合う力は周りの空気を振動させ空間に強烈な覇気を奔らせた。

「眼には眼を歯には歯を、ならば神には神を。テスカポリトカの天敵である太陽神ケツアルクアトルを創り上げるとは流石真祖」
「ハハハ……確かニ。だがアレではテスカポリトカには勝てませんヨ……アレは真祖が無理をして創ったフェイク、だがテスカポリトカは正真正銘のホンモノ……」
「そうだな、太陽と相反する月に属する真祖にはあの神を完全に創り出すことは出来ない。が……」
「ガ? 」
「魔方陣の底に押し戻すくらいは出来るだろう。単純な魔力勝負ならば夜の真祖は神にも匹敵する、できない事ではない」
「……そうですネ。ならば勝負は半々、真祖が負ける事を祈りますヨ……せめて勝たねば報われませン……」
 高きシュラインの袂、下半身と四肢が完全に粉砕され胸の一部と頭だけを残した敗残者が細々と哂った。

 押し合う二人の神々、その拮抗は徐々に崩れて行き、テスカポリトカの体が徐々に魔法陣の中へと押し戻されていく。
「還れ永久の闇へ」
 アルクェイドの台詞と共に力を増すケツアルクアトル、魔法陣に押し戻すのも時間の問題化と思われたが。
「……あ……くっ……はぁ!! 」
 急に苦悶の声を上げ始めるアルクェイド、その背後の空には鮮明な光を放つ朝日が浮かび上がっていた。
 幾ら自然に由来する神だとはいえ具現化した神の由来は苦手な太陽、そのうえその眩い光を浴びたうえでの能力行使は流石に限界。
 ノイズがかかった様に不鮮明になっていくケツアルクアトル、その隙を付きテスカポリトカは一気に体勢を立て直し冷凍光線を零距離で吐き出した。
 凍りつくケツアルクアトル、瞬時にテスカポリトカの豪腕が唸りを上げる。
 パリーンと言う甲高い音と共に砕け散るケツアルクアトル。
「あ……」
 それとほぼ同時にアルクェイドの口から僅かに赤い血が漏れた。
 ハハハハハ!! ブザマダナシンソ!! コレがタイヨウヲクチクシタモノトタイヨウトハンスルモノノサ!! ワレヲトメルモノハモハヤナシ!! キサマノ  マケダァ!!
 邪魔者が居なくなったところで一気に上半身を起こし現世へ這い上がろうとするテスカポリトカ。
 当然ではあるが彼の神にとっても太陽は天敵に属している、だが彼は遥か昔に太陽神を駆逐する事でその耐性を大幅にアップする事に成功した。
 ケツアルクアトル本人の攻撃ならともかく単なる太陽の光では彼の足を止める事さえ出来ない。
 正に絶望的な状況、しかしアルクェイドは口を拭い口元を軽く歪ませた。
「ねえ、テスカポリトカ。何かおかしくない? 貴方私が来る前は誰と戦ってた? 」
 いつもの気楽な口調
 ……ア?
 呆気にとられ邪神の体が一瞬止まる、アルクェイドの前に戦っていたモノ、その姿はとうにアルクェイドの腕から抜け出し姿を眩ませていた。
「志貴! 今よ!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 」
 テスカポリトカの頭上から聞こえる絶叫、その声は奇襲の位置を相手にわざわざ教えると言う一見愚か極まりない行為に見えた。
 バカガァ!!
 現に気付いたテスカポリトカは声が聞こえたほうに頭を向け冷凍光線を放とうとする。
 だがその視線の先に志貴は見えなかった、その方向は太陽が昇っている方向、膨大な光の中では人一人の姿なぞ視認できるはずも無い。
 グワァ!
 目がくらみ目標を定めずに放たれる光線、あさっての方向へ飛んだ光線は何も凍らさずに宙へと消えた。
 光線を撃ち完全に無防備な巨体の頭上に突き立てられる七ツ夜、そのまま下る様にテスカポリトカの線を真一文字に断ち切っていく。
 グギャァァァァーーーーーーー……
 無限の再生能力を誇る存在も流石に縦に真っ二つに裂かれての瞬時の再生は不可能、しかもケツアルクアトルとの小競り合いで力が弱まっている、這い上がりかけていた体が魔方陣へと一気に堕ちて行く。
 苦痛に悶える邪神、それを冷たい瞳で見つめる死神と姫君。
「急いで! 奴が這い上がれないうちに点を!! 」
「解ってる! 」
 言うや否や七ツ夜で魔方陣の一部を穿つ。
 テスカポリトカは点を突いても死なぬ存在、ならば現界へ這い上がるための縁となる魔方陣を殺す。
 ピシ……ピキピキ!!
 砕け散る音と共に徐々に崩壊していく魔方陣、中央から怨念の絶叫が響く。
 ゴゴゴオオオオオオオオオオオ!! カエレナイ!! ワレハマタヤミヘトオツルノカア!! 
「ええ、そしてもう貴方がこちらへ干渉する事は不可能。さようなら、もう会う事は無いわ」
 ウウウウウウウウウォ…………
 消えていく声に魔方陣、その邪気とともに邪神はこの世界から再び闇へ還っていった。
 残ったのは破壊の痕と疲れ果てた吸血鬼と学生。
 戦いの終わりを示すかのように朝日が辺りを優しく包んだ――

第九話/ NOVEL Epilogue