邪神邂逅-第九話

 女は昔、時の因果やらなんやらで不死だったらしい。
 しかし今は違う、ただの丈夫な人間であって決して不死ではない筈だ。
 だが彼女は致死となりえる一撃を全て受けて自身をここまで追い詰めた。
 左足首の再生は現時点では不可だ、流石にここまでの一撃を喰らってしまっては力がほぼ全開とはいえ再生も難しい。
 全開の力……あまりに懐かしい感触。
 数百年前と言う過去に無くしてしまった物。

 思えばアレは大航海時代だとか呼ばれる時代の事だったか、あの頃自分と教会は戦争になった。
 元々はどこぞの王侯貴族が私が当時自己栽培していた香辛料を略奪しようと考えた事から始まった愚かないざこざ。
 しかし教会は吸血鬼一匹に対し遂には代行者付きの軍勢を派遣するまで本気になった。
 軍隊が出てくれば戦争となる、戦争には報復が必要と考えた私はその軍隊を潰した後に教会の勢力が強い地域を重点的に狙い大規模な飢饉を起こした。
 西から東へ南から北へイナゴの大群を引き連れての大移動、そんな事をしているうちに一人の男と戦闘になった。
 魔道元帥ゼルレッチ、いわゆる魔法使いの一人である彼は私の報復のやり方が気に喰わないというだけで私と三日三晩にわたる凄まじい死闘を繰り広げた。
 彼が破壊的な魔術を周囲にばら撒けば私は自身の体術をフルに活用してそれを避け、私が曲を奏でれば病原菌に汚染された空間を彼は力で空間ごと弾き飛ばした。
 ある意味それは嗜好の快楽だった、しかしその快楽は長くは続かず……私の敗北と言う最低の味付けで幕を閉じた。
 そういえば私が五位と認定されたのはこの一戦が原因だったらしい。  つまりは四位と互角に戦ったが勝てなかったので五位という単純な理由で。
 しかしいくら五位に認定されようとメリットは何も無い。
 むしろ五位という箔が付いたせいで、ゼルレッチから命からがら逃げ延びた私に対しハイエナの様に襲い掛かる功名心剥き出しの愚者が増えただけだ。
 このままではいつか滅びる、今襲い掛かってくるのは雑魚ばかりだが教会の大物にでも出会ってしまったら確実に死ぬ。
 そう考えた私は有る事を思いついた。
 世間では昨今発見された西方の大陸への探検隊を募っている、聞く所によると西方の大陸には自然が色濃く残り未知の文明が存在するらしい。
 自然が色濃く残る=虫が大量に居る、つまり表向きは蟲使いである私自身の戦力アップに繋がる。
 しかも未開の地とあって教会の勢力など影も形も無い。
 そう聞いた私は直ぐに身分を詐称し、とある探検隊の船医として乗り込みヨーロッパを脱出した。
 その探検隊の隊長の名はエルナン・コルテス、征服者と呼ばれアステカ帝国を滅びへと導いた男だった。

 幾多の困難を乗り越え未開の地アステカへたどり着いた探検隊。
 アステカ帝国の皇帝は何を誤解したのか彼等を神の使いと歓迎し手厚く出迎えた。
 史実ではこの後、彼等は探検隊の衣を脱ぎ捨て侵略者としてアステカ帝国を滅ぼした。
 しかし私の歴史にこれは刻まれていない。
 なぜなら私はアステカに辿り着いた直後に死んだからだ――

 事の発端は到着直後の探検隊と帝国の蜜月期に地元の住民がなにげなく話した一言からだった。
『この土地には凶悪な蜘蛛が住んでいる』
 しかし周りには彼の言語を理解できるものは居なかった。
 しかし蜘蛛とは興味深い、私は覚えたての言語で彼等へと話し始めた。
『ホウ! それはどのような蜘蛛ですカ? 』
 ……私はどのような言語でも直ぐに理解する事は可能なのだが、どうやってもカタコトになってしまう。
 なぜか生まれた土地の言葉でさえカタコトだ。
 正直、情報を引き出す事でどんな言葉でも流暢に話せる真祖が羨ましい。
『でっかくて怖くて凶悪な蜘蛛だ、何人もの勇者達が奴に挑んで帰ってこなかった……あんた達は神様の使いなんだろ? だったらどうにかしてくれよ 』
『HAHAHA−! わかりましたその内落ち着いたら退治してあげましょウ!! 』
 そんなうちに私と地元民の話に興味を持ち始めてきた隊員達が周りに寄って来た。
「船医さん、彼は何と言っているんだ? 」
「ああ、たいしたことじゃありませン。彼のトモダチが病気で何か薬を持っていないか? との事でス」
「そうか、まあ出来るだけのことはしてやってくれ」
 そう言うと興味を失った隊員達は再び三々五々に散らばっていった。
 彼等に知らせるにはまだ早い、蜘蛛の化け物……もしかしたら私の新たなる使役昆虫として大きな戦力になるかもしれない。
『で、その蜘蛛はどこら辺に居るんですカ? 』
『ここから山奥に入ったところにある渓谷に身を隠していると聞くが』
 それを聞いた私は夜中の内にバケモノ蜘蛛を捕獲する為にその渓谷へと駆け出していた。
 長い船旅でゼルレニッチによりぐたぐたにされた体もほぼ回復した。
 その満足感から来るから来る慢心、それが間違いだったのかもしれない、谷に向うために疾走した事が私が全力で力を使えた最後の記憶なのだから。
 小一時間走って辿り着いた水晶に覆われた渓谷で私は出会った。
 ORTと言う吸血鬼最強のバケモノに――

「がああああああああああああ!! 」
 出会った瞬間に思わず出た絶叫。
 知覚と共に千切れ跳んで行く下半身、目の前の蜘蛛は睨み一つで私の足を粉砕した。
 楽器を取り出す間も、いや何もできないくらいの刹那の時に。
 シャギィィィィィィィィィィ……
 蜘蛛の口蓋より溢れる声はどの生物とも違う甲高い声、蜘蛛はそのまま半身を失い地面へと伏せる私に向かいずり寄って来る。
 牙のキラメキがやけに光って見える、間違いない、コイツは私を喰らう気だ。
 このままでは死を待つのみ、幸い半身ごと跳ばされたせいか体重は二分の一……
「ちぃ!! 」
 そのまま片手で後ろへと大きく跳び蜘蛛と距離を取る。
 直後、寸前まで私が居た場所に蜘蛛が巨大な牙を付きたてた。
 しかし蜘蛛はそのまま即行で振り向き再び私に向かい突き進んでくる。
 私は再び先程と同じ方法で距離を取ろうとし、片手を地面につけたその時。
 ビキビキビキビキ!!
 私の片手は地面の水晶に捕縛されてしまった。
 にっちもさっちも動かないどころか、そのまま水晶は私を喰らう様に体を着々に侵食していく。
「あ、あ……」
 思わず口から出る情けない悲鳴、蜘蛛の牙は今度こそ私の心臓に牙を付きたてた。
 薄れていく意志、首が千切れる感触、死と言う深い闇に堕ちていく感覚……全てが愚かしいほどに忌まわしかった。

 深い闇から抜け、気が付いたら奇妙な水に満たされた巨大な試験管の中にいた。
 宗教観によって地獄という物は千差万別に変わる、しかし試験管の中の地獄などは聞いたことが無い。
 自分の体を確認する、ああ、先程の蜘蛛との死闘は夢ではなかったらしい。
 私の体は下半身から下がスッパリと無かった、水晶に喰われた腕もきっちりと無くなっている。
『……気が付いたかね』
 よく見てみると試験管のガラスの向こうに疲れ果てた感じの老人が居た。
 格好は……確か神官服だ、帝国の首都で見たことがある。
『ココは街から離れた神殿……いや、神殿だった場所というのか』
 年季が入った石造りの壁に暗い内装、まあ荒廃した神殿というイメージにピッタリだ。
『我が神の国は滅びた。貴様ら侵攻者のせいでな、我が神も不信心者が増えたせいで力が弱まってたとはいえコレが決め手となって永い眠りに入ってしまった』
 滅びた? アステカ帝国が? 一体自分はどれくらい寝てたのだろう、幾らなんでも昨日の今日で国一つは滅ぼせない。
 ……まあ一晩で国一つをクレーターにできるような連中なら幾人か心当たりがあるが。
 死滅させるだけなら自分でもできるし。
『甦らせねばならん、我が神を』
 神、確かこの国は軍神テスカポリトカを信仰していた筈。
 血を好み戦に身を猛らすという宿命には吸血鬼に近いモノを感じたが……
 ちょっと待て、この神官の爺さんは神を復活させるといったか?
 神霊の召還……これに挑みし者は幾数人も居るが成功したものは五指で数えられるレベルだ。
 条件に魔力に触媒、一つでも欠ければ召還は不可能。
 どう考えても目の前の老人からは儀式施行に必要最低限の条件の保持魔力も無いように見える。
『だがワシは無理だ、もう老い過ぎた、仲間達も皆死んだ……だからお前に託す』
 はい?
『ワシら神官は国が滅びし時に第一級の賞金首として侵略者に追い立てられた……逃げて逃げて悪魔の渓谷に差し掛かったその時、お前の頭部を見つけた』
 ……やはり体はあの蜘蛛に喰われたのか、頭は好みに合わないから喰い残したのか、それとも運良く転がりでもして逃れる事ができたのか、今としてはもうわ か らない事だが。
『お前は頭部だけでも生きていた、ワシらはお前を蘇生させる事にした。人間では無い化け物なら侵略者達も殺せると思い』
 死人の蘇生、言うは簡単だが実質は神霊召還程ではないが多大な労力が必要。
いくら吸血鬼の生命力があっても施行は難しい。
この大陸はどうも魔術体系はたいした事は無いと思っていたが、呪術系の魔術文化は最高レベルを持っているようだ。
『しかしまにあわなんだ……お前が寝ている間に皆死に、ワシも老いた。なのでお前に託す、神を復活させると言う任を』
……What?
『貴様の魂に呪いをかけた、貴様は己が力を全力で使うことができん。魔力行使に身体能力……全てがな。この呪いを解く方法は一つ、我が神……テスカポリト カを己が復活させる事』
 気まぐれで復活させたとは最初から思わなかったがそう来たか、限定条件解除が由来の封印……ホントにこの大陸は呪いには長けている。
『意思が蘇れば体の復活には一ヶ月もかからんじゃろう……動けるようになったら其処に置かれた箱を開けると良い……服と我らの呪術全ての記録がある』
 そういうや否や老人は近くの石段に腰掛けて重い溜息を吐いた。
『だが資料には……神の復活の具体的な手段は書いておらん……お前が……自分で……編み出してくれ……たのん……だ』
 それを最後に老人は話に飽きたかのように眠りについてしまった。
 ……いや、彼は死んだのだ。
 最後の執念で侵略者への復讐用に飼っていた異国のバケモノに全てを託したのだ、藁に縋る想いで。
 思わず目を閉じる、私のまぶたに浮かんできたものは固定神霊の単独復活というあくなき挑戦への漠然とした不安だった。

四肢が復活し、体が動けるようになった瞬間から長い旅が始まった。
目的だけがはっきりとした手段を探す長い旅。
手段を編み出す事に数百年、手段を実行する素材を探すのに数百年……
そしてついに見つけた、血液を利する事による多大な触媒効果が見込める一卵性双子の感応者を。
しかし不幸な事にこの街はある意味どんな強者も裸足で逃げ出す魔窟と化していた。
視線だけで全てを焼き尽くす赤髪の少女。
得も知れぬ恐怖と殺戮性を体に秘めた青年。
そして、教会代行者第七位と吸血鬼のひとつの究極形である真祖。
しかし少女は一寸の夢へと落ち、代行者は私の足元で胸を抑え這いつくばっている。
唯一の不安は真祖と夢に落ちなかった青年だが……なに心配は要らない、私だけならともかく軍神も現世へと復活の楔をつけた。
南米最強の神と元二十七死徒第五位、二人がかりでなら勝つ要素は100%だ。
そして二人を片付けて私は奴に復讐をする。
現第五位ORT、単純な力なら死徒最強と呼ばれるバケモノに。
私一人ならともかくこの軍神がついていれば奴にも負けない、私の体を喰った駄賃は安くない事を教えてやる――

「う……う……」
 私の感動に水をさすうめき声が目の前の死に掛けの女性の口から漏れる。
 ……すっかり忘れていた。
 まだ代行者は生きている、数百年の悲願をとげた喜びであやうく忘れる所だった。
「HAHAHAーいけませんねシエルさン。勝負には諦めが肝心でス、大人しく死んでくださーイ」
 もはや勝負は決まった、しかしこの代行者はときたまらしくない突拍子も無い行動をとる。
 ここに放置していくわけにはいかない、もはや彼女は息絶え絶えで最終兵器らしいパイルバンカー型の武装も手から離れている。
 逆転の一手はもはや無い、片足でしか歩けない私でも止めをさす事は十分可能。
 再び自身の最高の武器であるヴァイオリンを取り出す、近寄るとなにがあるかわからない。
 しかし流石に超音波を発生させる退虫グッズも壊れたはずだ、ならばさっさと病死してもらおう。
 媒体である音楽を奏でるために目を伏せる、精神集中が大事だ、最初の一音符が全てを決める。
 ――ドス
「エ……? 」
 音符を奏でるはずがまず最初に響いたのは肉の炸裂音。
 慌てて目を開けてまず視線に飛び込んできたのは腹に刺さるパイルバンカーの野太い鉄針。
 ……なぜだ? 代行者はまだうずくまっている、彼女ではない。
 ならば第三者か? 否、近くに人の気配は無い。
 サイコキネシスでもあるまいし、まさか武器がひとりでに歩いて私の腹を突き刺すなど……
 ――百年越しのお願い  叶えましたよマスター
 うすらぼんやりとパイルバンカーの上に浮かんできた少女が悲しげに呟く。
 あの少女は……記憶の中に薄らぼんやりとある。
 ああ、そうだ。彼女は確か教会秘奥の最強兵器『第七聖典』とやらの精霊だ。
 昔、遥か昔に見た時には確かもっとスマートな武器だった。
 確かアレは教会とはじめて本格的に事を構えた時、相手の指揮官だった代行者が持っていて。
 しかし彼は教会の軍勢と共に私の音楽により腐って行き。
 だが彼は半身腐りながらも私の前に立ちふさがり。
 そうだ、自身の武器である第七聖典の精霊にこう言ったんだ。
『私はこの男には勝てない、このおぞましいまでの空間で生き延びられるのはお前だけ。だからお前は生きろ、そして後世にこの男の危険性を伝えて……覚えて  いたら後の世のマスターと共に敵でもとってくれ』
 直後に男は第七聖典を背後の暗闇に向かい投擲し腐れて死んだ。
 明かりの無い時代の暗中模索は不可だったのかめんどくさかったのか、はたまた男に哀悼の意を示したのか、確か私はその後第七聖典を探し破壊する事無くその  地を去った。
 まさか数百年後に後悔する時が来るとは。
「全てを終わりにしましょう、アンリ=カルロック!! 」
 ……まさかあそこまでやられて動けるのか!! 代行者!?
 気がつけば傷だらけの体で立ち上がった代行者が私に向け駆けながらコブシを振り上げている。
 しかし甘い、いくら片足が無かろうが腹に第七聖典が刺さってようが私にとってそのコブシを避ける事は用意。
「焦り過ぎですヨ! シエルさン!! 」
 ヴァイオリンの本体を投げ捨て残った弦で代行者の顔面めがけ突き立てる。
 リーチの差でコブシが私に届くより代行者が死ぬほうが早いはず……
「セブン、歯を食いしばってください」
 !?
 意味不明の発言をするや否や代行者はコブシの構えを下段に変え、振り上げるような形で第七聖典の柄を思いっきり殴りつけた。
 なるほど、これなら私の一撃よりそのコブシは早く目的を貫く。
 殴られた衝撃で腹に深く突き刺さる第七聖典、それ以上に危険なのは今の衝撃で撃鉄が暴発したこと……
 ――ボゴン!!
 凄まじいインパクトと共に打ち出される鉄芯、弾である第七聖典のページが風に乗り舞い散る。
「グハァ!! 」
 内臓が破壊されたことにより口から血が噴きだす。
 おもわず落とす弦、しかし武器は落としたものの皮肉なことに相手の武器である第七聖典は巨大な破壊痕を残し未だ深く腹に突き刺さっている。
 転生批判の最終兵器、その一撃は肉体だけでなく魂も霧散させると聞く。
 どうも噂は真実だったようだ、なにか心の奥底にある大事な物が砕け散ったような気がする。
 けんけん立ちで堪えていた体勢も限界だ、私はそのまま尻餅を付く様に倒れこみ……
「……まだ終わってはいませんよ、アンリ」
 代行者の冷徹な声が脳に響く、代行者はそのまま第七聖典を両手で持ち上げむりやり私の体を平行に立たせる。
 ……両手?
「な、なぜですカ? アナタの片腕は既にへし折れている筈……いや、残った片腕も今の一撃でコブシが砕けている筈……こんな重いものを持てるはずが……」
 どす黒い片腕に、血が滴るコブシ、私の見立ては間違っていない筈だ。
 いや、それ以前になぜ動ける? 第一使い魔単独で敵の腹にいくら浅くとも一撃を加えるなんて聞いた事が無い。
「アンリ、貴方は強い死徒です。体術は黒騎士や白騎士にも劣らぬレベル、そして能力の最悪さだけ問うなら死徒随一でしょう。正直私一人の手には余るレベルです」
 淡々と語りながらへし曲がった撃鉄をむりやりこじ上げる代行者、人を褒めながら殺そうとする辺りは本当にイイ性格だ。
「しかし……貴方は物事を理屈で考えすぎです。理屈などでは理解できないでしょう、私が立ち上がった事も、セブンが自力で貴方に一撃加えた事も。そこが貴方の――」
 腰を沈めて気合をためる代行者、何か必殺の一撃を出そうとしている事は考えるまでも無い。
「全てに対しての敗因!! ORTに対して、そして私に対して!! 」
 第七聖典を抱えたまま駆ける代行者、自然に鉄芯が腹に刺さったままの私の体は突き出される形で背後の壁へと叩きつけられる。
 本来ならばそこで壁に止められ代行者の猛進は止まるはずだった。
 しかし彼女の猛進はそんな駄牛の物ではない、壁はあっさりと破壊され、そのまま私の体は次の部屋の壁へと再び叩きつけられる。
 足が破壊されている事で踏ん張りが利かない、むしろ壁の破壊と共に腹に深く鉄芯が食い込み、もはやこの体勢では絶対に外せないレベル……
 ガシャン!!
 壁の破壊の音や感触とは違う物、直後に訪れる落下感。
 私と代行者の体は再び夜空へと投げ出された。
 いや、違う。
 同体で落ちた先程とは違い、胴を抜かれた私の体が一番下に、続くのは第七聖典の銃身にそれを抱えた代行者と見事な三段重ねになっている。
 縦一線のこの並びを地面に辿り着くまでに変えるのは、
「……流石に無理ですネ」
 思わず口から出た結論。
 その台詞の直後、一寸の間も無く私の体をバラバラにする様な衝撃が背中から、内臓を引き裂く爆発が腹に突き刺さった鉄芯から、二重の衝撃が私の体を再び暗  い闇へと誘う。

 最後に目に映ったものは
地面激突の衝撃によりごてごてとした外装が禿げ、懐かしいスマートな姿へと戻る第七聖典と
同じく衝撃で枯葉の様に宙を飛ぶ勇敢なる代行者の姿
それを目に焼きつけ、私は再び闇へと堕ちて行く
――死と言う忌わしい闇へ

あとがき

第八話/ NOVEL 第十話