ザ・サムライ＆アーチャー
自ら完璧を名乗る亡霊に乗っ取られたバーサーカーの狂った突進を静かに見つめるアーチャー、そして奴は何のためらいもなく自身の持つ大事なエモノである
東洋風の双剣の一本をバーサーカーの額めがけ投げつけた。
弾丸を超えるスピードで飛んでいく剣。
だがバーサーカーはそれを容易く一瞬で自身の手に出現させた竹刀で打ち払う。
って何故竹刀？ それが宝具だとしたら次回の聖杯戦争のセイバーが虎竹刀所持の藤ねえでも誰も文句が言えない。
「甘いわ！ 」
走ったままの勢いでアーチャーへ竹刀を振るうバーサーカー。
「ちィ！ 」
それを双剣で受け止めるアーチャー。
あれ？ 双剣？ アイツさっき一本バーサーカーに投げた筈なのに持ってるんだ？
「そうか、そう言う事だったのねアーチャー。だから貴方は士郎に……」
頼む遠坂、俺関連の事に一人で納得しないでくれ。
「ふはは、ワシの一撃にその華奢な体で良くぞ耐えたな。だがまだまだ続くぞ！ 」
それを皮切りにアーチャーに嵐のように襲い掛かる竹刀の乱打。
面に小手に胴……暴力的だがキングの動きはまさしく剣道そのもの、しかも妙に上手い、俯瞰だが藤ねえでも相手になるかどうかのレベルだ。
というか肉体一本のネプチューンマンよりむしろあいつの方がセイバーっぽく思えてきた、いや剣じゃなくて竹刀だけどさ。
ガキン！
嵐の乱打に耐え切れずに遂に空いてしまうアーチャーのガード、それと同時にキングが竹刀を引き自身も一歩引いた。
「武道突きぃ！ 」
早い踏み込みとともにアーチャーの喉めがけ竹刀が突き出される。
神速の一撃は見事と言える程に完璧にアーチャーの喉にめり込みその体ごと吹き飛ばす。
双剣を落として吹き飛ぶアーチャーの体は森の大木に叩き付けられることでようやく止まった。
「グロロロ……」
いななきを上げて突っ込んで行くバーサーカーの竹刀が再びアーチャーに振り下ろされた瞬間、竹刀は粉々に切り刻まれていた。
見ればアーチャーの手には細かい彩色が施された西洋風の剣が握られている。
その剣をバーサーカーの胸に突き刺し刃を引く、その傷口から血が噴水のように噴き出した。
「甘いわあ！ 」
キングの絶叫が響きバーサーカーの鉄拳がアーチャーめがけたたき下ろされるがアーチャーはそれを片手の手のひら一つで受け止めた。
よくよく見るとアーチャーの手に花びらが２〜３枚重なったようなオーラが浮かんでいる。
あれも宝具なのか？ 剣といい盾といいアイツいくつ宝具持ってるんだ？
「ローアイアス。どうやら甘いのはそっちだったようだな」
再び西洋剣でバーサーカーを突くアーチャー、剣がバーサーカーの足に刺さり肉の避ける音が辺りに聞こえた。
「グログログロ……貴様もしかしてワシに勝つ気なのか？ 愚かな、武器などと言うものに頼っている時点で貴様に勝利の二文字はないわあ！ 」
キングが笑い声を上げると同時にバーサーカーに突き刺さっていた剣が一瞬で抜けた。
そしてバーサーカーの体を覆う様に現れる妙なオーラ……アレは見た事がある、ライダー戦に謎の金ぴか戦でいやがおうに見せ付けられたあの力……
「元祖マグネットパワーの力を己が身で味わうが良い、マグネットパワープラス！！ 」
いつぞやの金ぴかのごとくキングの方へと引き寄せられるアーチャー。
それをバーサーカーは上方で大きく手を組みスレッジハンマーでアーチャーを体ごと叩き付ける。
「……グ」
今まで苦痛の声など上げたことのないアーチャーが思わず声を上げる、地面に叩き付けられた体がバウンドしている辺りとてつもなくデカイ一撃だったようだ。
そのままバーサーカーは衝撃で浮いたアーチャーの両腕を固め、そのまま宙高く飛んだ。
そして上空でバーサーカーはアーチャーを上手く体を動かすことで追い越し、自身の足の裏をアーチャーの足の裏にピッタリとあわせる。
その直後に上昇は止まり、まっさかさまに落ちるアーチャーとその足の裏に直立で乗るバーサーカーという奇妙なモニュメントが地面へとスゴイ速さ落下していく。
「な、なんなのよあの技は！？ 」
遠坂の叫びも解る、アレは人智とか物理法則とか完全に無視した必殺技だ。
「メガトンキング落としぃぃぃぃぃぃ！！ 」
衝撃で土煙が舞い上がり、地面に落下した二人を完全に覆い尽くす。
そして土煙が晴れて姿を表したのはこちらを悠然と見つめるバーサーカーと足だけ残し上半身を完全に地面に埋没させたアーチャーだった。
「グロロロロ……なかなかてこずらせてくれたがもはや立てまい、次は貴様らの番だ」
キングはいななきこちらへと足を向ける、だがその足は急にその動きを止めた。
「ぬう！ 貴様まだ動けるのか！ 」
バーサーカーの片足は地面から這い上がってきたアーチャーによりしっかりと握られていた。
「サ、サーヴァントをなめるな……主が死すまでは己の五体が微塵となろうと戦い続ける存在をな……」
「ならばこっぱみじんとなれい！ 」
足にまとわりつくアーチャーをはらい、その頭を叩き潰そうとバーサーカーは足を振りかぶる。
「ソードボンバァァァァァァ！！ 」
下に注意を向けて無防備となったバーサーカーの喉元にぶち込まれるネプチューンマンの左腕、その左腕には今までアーチャーが取り出し捨ててきた剣がびっ
しりと張り付いている。
アーチャーとセイバー（自称）の予期せぬ凶悪なコラボは容易く難攻不落のバーサーカーの喉を切り裂いた。
「グギャーーーーー！！ 」
喉から血を噴き出してのた打ち回るバーサーカーを尻目にネプチューンマンは腕に貼り付けていた剣を全て払い落とす。
「……我われ完璧超人は、いかなる場合でも己が肉体を駆使して戦うもの。人の体を乗っ取り己の肉体を傷つけずに戦うなど言語道断のはず――」
「時と場合によっては完璧超人も策をもちいて戦うわい」
「う、裏切られた……」
やっとこさ復活したのにキングに一言言われただけで膝を突き頭を抱えるネプチューンマン、いつもは自信家なのにすげえへこんでるよコイツ。
せっかくネプチューンマンが復活して二対一になったと思ったのにこれじゃあ戦力外だろ……
体は剣で出来ている
“I am the bone of my sword”
“Unknown to Death.Nor known to Life”
その体は きっと剣で。
“■■■―――unlimited blade works.”
完全に立ち上がったアーチャーの口から紡がれる何かのコトバ。
その呪文とも呪詛ともとれぬ言葉がどんどん広がっていき、森の緑と不可思議な黒に侵食された世界がどんどんと様変わりを――
「まさか固有結界……！？ アーチャー、貴方は――」
遠坂の言葉を最後に世界はセピア色の世界に呑まれていった。
気がつくと、俺は妙な所にいた。
後ろにいたはずの遠坂とイリヤの姿はなく、目の前で戦っていたはずのアーチャーもネプチューンマンもバーサーカーも居ない。
辺りは一面の荒野。
空に浮かぶは何のために動いているのか解らない巨大な歯車。
そして無数に突き刺さる数々の武器――
「イリヤとリンは外へ。そして衛宮士郎、ここがお前の終着駅。これを目に焼き付けておけ、この光景はお前の力となる。コレを見せるためにお前を残したのだから」
「アーチャー？ 」
いつの間にか姿を現したアーチャーは仁王立ちで背を向け俺に言葉を投げかける。
「お前の本質は強化魔術ではない、その本質は投影、私と同じ力だ」
投影？ 聞いたことがない魔術だがそれが俺の本質？ いやそれよりコイツは何で俺のことをそこまで……
「既に私とお前は違う道を歩んでいる、それは隣にいるセイバーをみればわかる事。この世界では私の悲願は意味がない。すでに私の心はあきらめに満ちてい
る。せめて衛宮士郎、コレを覚え皆を救うという馬鹿げた道を歩むための糧としろ――」
アーチャーは妙にむなしげな声で呟く、ヤツの悲願が何かは知らないが相当悔しいのだろう、背中が微妙に煤けて見える。
「グロロロロ、なんだここは？ 武器の丘だと？ 貴様一体何をした？ 」
丘の向こうからバーサーカーがゆっくりと姿を現す、その顔は仮面で隠れ深くは見えないが、動揺しているのがなんとなく感じられる。
「説明してもかまわんが……まあ多分お前の頭では理解できないな」
顔が見えないがアーチャーのニヤリとした笑いが手に取るようにわかる。
正直な話、正面から見てたら俺も殴ってたかもしれない。
「馬鹿にしおって！ だがな、ワシにマグネットパワーがある限りどんなに武器をかき集めようとも無駄よ！ 」
確かにそうだ、例に正体不明の金ぴかサーヴァントは無数の武器を持っていたが、マグネットパワーを駆使するネプチューンマンに手も足も出ずにやられた。
このままではあの時の二の舞になるのは確実。
「自信があるならやってみたらどうだ？ 」
何故そこまで自信に満ち溢れているんだ、アーチャー？ 金ぴかが手も足も出ずにやられたのは直接確認してるだろお前。
「全て吹き飛ばしてくれるわ！！ マグネットパワー全開！！ 」
「マグネットパワー全開！！ 」
「なにぃ！？ 」
バーサーカーの体から放たれる磁気のオーラは別の場所から放たれたもう一つのオーラによってかき消されてしまった、それを放つのは当然――
「流石にかつての師を殴り倒すのは気がひけるが、これくらいはさせてもらうぜ」
「ネプチューンマン！ またもワシを裏切るのかぁ！？ 」
「なに都合のいい事言ってやがる、アンタこそ俺を何回裏切った？ ここら辺でケジメつけとかないとキリがねえだろうが！ 」
同じマグネットパワーで引き合うネプチューンマンとバーサーカー、その隙を突きアーチャーが手近にあった剣を引き抜きながら跳ねあがった。
「お前はもう勝てない――」
冷酷な口調に合わせたかのように鋭く長剣はバーサーカーの肉を切り裂く。
そしてそのまま剣を引き戻さずに投げ捨てて、別の日本刀を引き抜き心臓の当たりめがけ突き刺した。
「グ……グオオオオオオオオオ！！ 」
キングの苦痛の声などまったく関係無しに次々と武器を替え品を替えアーチャーは思いつく限りの技を披露する。
バーサーカーはそれをいやがおうにも無防備に受け続けなければならない、なぜなら彼の脇にはマグネットパワーを放出するネプチューンマンが居るからだ。
マグネットパワーの打ち合いをやめればアーチャーの攻撃に対し多少の抵抗が出来るが、そうなるとネプチューンマンも攻撃に加わるため二対一というハンディを背負ってしまうこととなる。
すでにキングは袋小路にはまってしまった。
マグネットパワーを止めれば二対一に、このまま続ければアーチャーに無抵抗で斬られ続ける、確かに『お前はもう勝てない――』の言葉に偽りはない。
「こんな……こんな馬鹿な事があって……たまるかぁ！！ 」
喉にシミターを刺されたところで遂にキングは動くことを選んだ。
急にマグネットパワーを止めてアーチャーをショルダータックルで吹き飛ばすバーサーカー、そしてネプチューンマンの追撃が間に合わぬ速さで勢いをつけ跳び上がり――
「武道爆裂キック！！ 」
体に似合わぬ鋭い跳び蹴りが俺めがけ襲い掛かってきた。
その速度はとても速くて、気付いた時には回避不能の位置に……
「なっ、士郎避けろ――ッ！！ 」
ネプチューンマンの忠告がやけに遠くに聞こえる。
そうか、確かに俺を倒すほうがネプチューンマンと戦うより楽だよな。
そんな当たり前のことに何で気付かなかったんだ。
もう間に合わないと知るとやけに冷静に物事を考えられる
「あきらめてはいけません、貴方に期待をかけている人物も居るのだから」
いきなり俺の背後から聞こえる謎の女性の声、瞬間体が一気に後ろへと引かれる。
直後、俺の居た場所にバーサーカーの跳び蹴りが炸裂し全てを飲み込むと錯覚させるほどの砂埃を舞い起こした。
「だ、誰だ！？ 」
俺を助けてくれた人物を確認しようと後ろを振り向いた瞬間。
ガツ！
首筋に鋭い一撃が入れられて、俺の意識は一気に闇へと落ちていった。
「な、何者だ。貴様！ 」
「敵ですよ、あなたの」
あせるキングとは対照的に、その雰囲気にふさわしい冷徹な声で女性は答える。
マントのようなもので体を覆い隠しているが女性としてはかなりの長身だ、もっともサーヴァント最大の巨躯を誇るバーサーカーの前では子供同然だが。
「ハッ！ 馬鹿を言うな、どこの馬の骨かもわからぬヤツをこのワシが相手にするとおもうか！！ 」
「なら……この私が聖杯戦争に参加するサーヴァントの一人だとしたら？ 」
「！ 話は別だ。ワシの目的は聖杯の奪取！ だからサーヴァントは一人も生かしておけん！！ だが……」
激しく吼えるキングだが何かを思い出したのか急に冷静になる。
「？ 」
「貴様のクラスは何だ？ アサシンか？ それとも……」
暗殺者にふさわしい冷たい雰囲気からなんとなしに推測するが、
「救世主です」
女性の答えは予想の斜め下から返って来た。
「あん？ 」
「メシアと呼んでください」
とりあえず誰も聞いたことの無いクラスである。
「ふ、ふざけおってーー！！ 」
バッ
怒り狂い突っ込んで来るキングに向けて自分のマントを脱ぎ捨て視界を隠す、その隙にメシアは高く跳んで己の長い片足を振り切った。
「ぬお！？ 」
「レッグラリアット！ 」
動揺するキングを無視しカウンターで打ち込まれた膝は綺麗にシミターで傷つけられたバーサーカーの喉の傷口を打ち抜いていた。
「グホッ！……お、お前は……」
メシアがマントを脱いだことで長い紫の髪と素顔があらわになりキングもその正体に気がつく。
だが女性はその疑問に答えることなく、顔にかけた高そうなメガネを少し指で直すだけで黙殺する。
直後に前のめりに倒れるバーサーカーの巨体、そして晴れていく土煙、あたりが完全に視認できる様になったころにはメシアの姿は完全に消えていた。
やがて砂埃が晴れ、それと同時にうずくまり倒れていたバーサーカーが起き上がる
「グロロロ……あの女、生きていたのか。確かネプチューンマンに倒されたと聞いたが……」
そして辺りを見てみると、その正面には気絶して倒れている士郎の姿があった。
「コレは好都合、コイツを倒してしまえばネプチューンマンも存在意義を無くし消えるしかない運命よ」
無防備に眠る士郎に寄って行こうとするキングだが。
「そいつはさせねえぜキング！ アーチャーよ、さっき打ち合せしたアレで止めを刺すぞ！！ 」
「……アレの形は大体理解した。だがなぜ技の名前を叫ばなければ……」
「叫べば威力が２０％増しだぞ？ 」
「理屈がわからんぞ。まあこの技の元祖はお前らしいから従うがな」
自分の両サイドから駆け寄るネプチューンマンとぶつくさ言いながらも走るアーチャーの姿を見て自分の危機に気がついた。
士郎よりも自分が危険なのだと。
「日英……」
「クロスボンバァァァァァァァァ！！ 」
アーチャーの冷めた声に続いて放たれるネプチューンマンの絶叫。
そしてネプチューンマンとアーチャーの左腕のラリアットがバーサーカーの首を挟み込むように同時に炸裂した。
「グギャァァァァァァ――！！ 」
キングの断末魔と共に崩壊するセピア色の世界、辺りは再び黒に侵食された森へと場を移す。
追うようにバーサーカーの顔から弾け飛び、生まれでた黒い泥の中に落下し沈んでいくネプチューンキングのマスク。
そしてバーサーカーも仰向けに倒れ、背後に迫っていた泥に一気に呑まれてしまう。
もう時間はない、すでに辺りは黒で染まり森は森と呼べるモノではなくなっていた
グッ！
背中に鋭い痛みを感知し、失っていた意識を一気に取り戻す。
まず視界に入ってきたのは俺にカツを入れてくれたネプチューンマンと、それを冷静に見つめるアーチャーの姿。
そこには先ほどまで暴虐を誇っていたバーサーカーの姿は無い。
「おお、気がついたか」
「あ、ああ。バーサーカーは何処に？ 」
「それは俺達が倒したんだが……それよりも士郎、聞きたい事がある。お前さっきのキングの一撃をどうやって避けたんだ？ 気絶はしていたがアレをまともに喰らっていたとしたらそんなものではすまんだろ」
とりあえず状況をかいつまんで説明する、と言っても直ぐに気絶させられてしまったので覚えているのは何者かに助けられたということだけだ。
「ううむ、不可解な話だな……」
「考えても意味は無いだろう、それよりもうここを逃げた方がいいな」
アーチャーの一言で気がつくが既に森は黒い泥で覆われている、俺達のいるところは少しスペースが余っているがココが侵食されるのも時間の問題だろう。
「そうだな。士郎、捕まっていろよ」
ひょいと片手で俺を持ち上げて担ぐのは結構なんだがなぜか妙に悔しい。
「ぬ？ アーチャー、お前は行かんのか？ 」
アーチャーは仁王立ちで動こうともしない、この侵食の具合からしてあまり余裕はなさそうなのに。
「私はこの泥を少し調べてから行く。お前たちは先に行っていてくれ、森の入り口辺りにリンとイリヤもいる筈だ」
「そうか。なら先に行っているぞ」
そして俺を担いだままネプチューンマンは泥の侵食に侵されていない高い木々の枝をつたい森の出口へと向かっていく。
空から木々を通し漏れる光が戦いの終わりをなんとなしに感じさせた。
ネプチューンマンと士郎が完全に視界から消えたのをみはからいアーチャーが口を開く。
「さて、出てきたらどうだ」
なにげなく投げかけられた言葉に呼応し、大きな木の枝の影から白いローブを身に纏った正体不明の怪しい男が姿を現した。
「ククク……よくわかったな、俺が見ているのを」
「心眼持ちの弓兵から逃れられると思っていたのか？ ネプチューンマンといいキングといい何故にお前達はサーヴァントの理も知らずに戦争に参加する？ お前は誰だ、今度はケンダマンか？ それともスクリューキッドか？ 」
なぜかアーチャーは完璧超人の名前をつらつらと挙げていく、きっと暇つぶしにコミックスでも読んでいたのだろう。
「あんな雑魚達と一緒にされちゃあ困るな。とりあえず俺はミステリアスパートナー２号とでも呼べ」
「２号？ １号もいるのか？ 」
「いるにはいるんだが今回は来ていねえ、まあ替わりは居るから安心しろ」
その言葉が終った瞬間に別の木の枝からナニカが飛び降りてきた。
そしてソレが放った一閃はアーチャーの右腕を肩口から綺麗に切断した。
「駄目か……こうなったら教会に担ぎ込むしかないかもね」
もともと畑違いの分野ではあるが自分で何もせずにあきらめるほど遠坂凛と言う少女は楽な性格をしていなかった。
とりあえず設備も何もない森の入り口で出来る限りの治療をイリヤに施したが彼女は一向に目を覚まさない、こうなったら治療の専門職が居る教会へ行くしかないだろう。
「とりあえず決着はすんだのかしら？ 二人がかりなら勝算は十分なんだけどタチ悪そうな奴だから一筋縄では――」
急に言葉を止めて黒の侵食を受けた森の方を見やる、この気持ち悪い感覚は一体？
今まで感じたことのない感覚に動揺する凛。
近い感覚を強いて選ぶなら、それは喪失感――
片腕を断たれた上に片足まで断たれ満身創痍になったアーチャーの体を、一人の金の髪を持った一見華奢な騎士が軽々と抱える。
バイザーをかけて素顔は見えないが、その佇まいからは感情や熱気といった生の息吹が全く感じられない、黒い甲冑と相まってその姿は悪魔の騎士を連想させた。
そして騎士はアーチャーの体を泥の中へと投げ落とした、もはや意識もないのかアーチャーは呪詛の一つも残さずに無限の黒さをほこる泥へと飲み込まれていく。
その光景を樹上からミステリアスパートナー２号がその名の表すかのように妖しげに見つめていた。