邪神邂逅電波編〜ナイチチは世界を救う〜

 くだらないプライドなど投げ捨てた。
 目の前の男は敵、しかし聞かずには居られない。
 彼は魔道から錬金術まで多数の道を究めたと聞く、そのうえ病気と言った人体に大きく関わるジャンルに強い、この男なら幾多もの人物が失敗した領域に近づけるかもしれない。
 恐る恐る口を開きたずねる、すると男は、
「胸を大きくするクスリですカ? 有りますヨ」
 いとも簡単に答えやがりました。

「はい、コレですネ」
 アッサリと懐から2つ綴りのカプセル状の薬を出す怪しいメキシカンのカルロスことアンリ=カルロック、その仕草は余りにアッサリ過ぎて逆に不安を秋葉に 与える。
「一応聞いておきますが、身長体重がゴ○ラクラスになって胸囲が上がるとかそういうんじゃあないですよね」
「違いまース、信じていないんですカ?秋葉サン? もう動物実験は完了済み、コレを飲めばもはやカレー狂どころか真祖にも楽勝の至高の一品でース! 」
 秋葉の脳裏に浮かぶ数々の思い出
 数年ぶりに再会した愛しい義兄が投げかけた胸への哀れみの視線に泣いた春……
 不可能な事象に挑戦する錬金術師に恥を偲び相談、コンマ0・3秒で『無理です』といわれた夏……
 自身の使用人に胸を大きくする薬と騙され無意識に実験動物となっていた秋……
『寒いの? そりゃー確かに妹は脂肪が足りないからねえ』『一部が特にですがね』反則クラスの体の人外共にけなされた冬……

 全ては懐かしい、そして今この時!! 私は蝶になる!! ナイチチという忌まわしき衣を脱ぎ捨てて!!
「さあよこしなさい、金が必要というならば白紙の小切手を上げます、一刻も早く私にその薬を!!」
「その情熱に満ちた瞳だけで十分でス!! そこまで追い詰められていたとは知りませんでしタ!! ただであげまス、むしロ 」
 目頭を押さえ涙するアンリ、先ほどの秋葉の思わず口から出ていた独白は涙など流さぬ死徒に哀しみの感情を与えていた。
「お待ちなさい!」
 凛と響く女性の声、思わず涙を拭い視線を移す二人
 その先には先ほどの薬を求める秋葉並に眼を血走らせたイギリス製洗濯板が居た。
「その薬は私にこそふさわしい!! さあ、よこすのです!!」
 王の威厳を妙な方向に突き抜けさせたそのセリフは悲しみ以上に追い詰められた感を哀れなほどかもし出す。
「脇から来ていきなり何言ってるんですか!! この新参者のナイチチが!! 貴女にわかるのですか!? 誕生時のコンセプトがナイチチで数年間もその名を 背負った女の気持ちが!! 」
 怒涛の勢いで反撃を仕掛ける元祖和製洗濯板。
 しかし負けじと口を開くナイムネグレートブリテン代表。
「わかりますよ!! 私だって幾度屈辱を浴びせられてきたか……」
 脳裏に蘇る数々の王が浴びし屈辱の言葉。
『セイバーはなんでよく食べるのに成長しないんだろうなあ』(某食料供給者兼マスター)
『そりゃあ私も決して大きくないわよ、ただねえ……』(哀れみの視線を投げかける50歩100歩のレッドデビル)
『あーいいわあ、やっぱセイバーは♪ 体型が幼いから似合う似合うっ♪』(最近、某管理者の脳内ランキング一位に輝いたゴスロリ好き魔術師)
『なぜ見初めたかだと? は! それはただ一つ、我はぺッタン好きだからだ!! 』(この発言の直後に問答無用で吹き飛ばされた黄金聖闘士もどき)
「……どうです!? 耐えられますか? 仮にも王でありディズ○ー映画にもなっているのにこの扱いを受ける宿命に!!」
「ディ○ニーなんて関係ないでしょうが! 第一ED5ルート中1ルートしか生き残るEDがない正ヒロインもどきが大きな事を!! 」
「5人のヒロイン中一人だけGOODエンドが無いヒロインにそれを言う資格がありますか? 」
「くっ……つまりアレですか、引く気は無いと? 」
「ええ、当然です。何せここで引いた方がタイプムーン全作品中NO1ナイチチの称号を得てしまうのですから」
 何故か回りに響き渡る無数のタライやハリセンのスパーンといった思い切りのよい音、そんな事は気にせずに秋葉の髪が紅く輝き、対抗するようにセイバーの 手に握られる不可視の剣もオーラを増す。
「いいかげん気付いてくださいヨ……」
「「え? 」」
 薬の開発者の絶え絶えとした声に振り返る二人、その先には無数のハリセンやらタライに埋もれノックダウンするアンリの姿があった。その上、手に持ってい た薬は見事に何者かにかっぱわられている。
「や、やられましタ……ふ、不覚でス……なぜタライが……せめてキャスターのように串刺しのほうがまだヤラレがいガ……」
「情けない」
「そんな事だからオルトに瞬殺されるんです」
「……ぐはあ 」
 止めの二言を喰らい沈黙するアンリ、しかし御丁寧に指はダイイングメッセージとしてあらぬ方向を指している、その先には全力で背後を見せたハリセンを手 に持った白髪の着物野郎と金髪金ぴか野郎が仲良く併走していた。
「シキーー!! 」
「ギルガメーッシュ!! 」
 先ほど溜めていた力を一気に放つ、お約束のドクロの煙を上げてギャグキャラ二人は吹っ飛んだ。

――なんでこんな事をしたかって? ナイチチだから秋葉なんだ、一時の迷いでデカクなるなんてきっと後悔する……だから兄として止めたんだ
――もはやセイバーは我の物、その我の物が許しも無しに洗濯板が好きという我が意に反する、それが許せるか?
「地下牢で腐れ、馬鹿兄」
「ドルアーガーでも上ってろ、阿呆成金」
 熱い独白をしながらも同時に踏みつけられる黒焦げのシキとギルガメッシュ。
「うお! ……何だこの感覚は! まさか王である我がMだとでもいうのか! 」
「ふん、琥珀による地下牢陵辱の日々を受けた俺にとっちゃあこんな物オカズにもなりゃあしねえ。それはそうと秋葉、マジな話だ。志貴はデカイのより小さい 方が好きだぞ」
「え……?」
 ぶっきらぼうな物言いながら顔は快感で笑んでいるシキが秋葉に希望の一縷をもたらす。
「そのとおりだ、最近の世にはむしろ胸の大きい雌がはびこっている。むしろその矮小さは雑種の眼に止まり易いぞ」
「……! 」
 完全に快感に震えている金ぴかMも希望をセイバーへと与える。
「は? 何言ってるんですカ、志貴サンが好きなのは小さい胸じゃあなくテ、小さい娘でしょうガ? それに眼に止まりやすいって言い意味でなくて哀れみでで しょうガ、物には限度がありますシ」
 希望を一気に吹き飛ばす暴言を吐く復活したアンリ、結構それなりに気が立っているらしい。
「ああん? 何言ってるんだよ、限度なんてあるわけねえだろうが。むしろ小ささじゃあ秋葉は小学生の都古にも完敗してんだぞ」
「貴様、何処まで無礼なのだ。我もこの世の財全てを集めたがここまでの『無さ』を象徴したものは無かったぞ、むしろ雑種の眼に止まらせる事さえ勿体無い話 だ」
 えらいイイ顔で自説を展開するマニア共。
「ハン!! 何を言うかと思えば。私は千年単位の長き間に多種多様なものを極めてきましタ、その道には貧乳マーニア! も含まれます。しかし!! この二 人のレベルはマニアの範疇ではない!! その領域はフェチ、まさに禁断!! ビデオ店のAVコーナーに並ぶとしたらデブ専や獣姦の隣に並ぶレベル!! 」
 鼻で笑いながら原爆クラスのクレイモアをあっさり踏んだ虫マニア。
「馬鹿はテメエだ!! それがいいんじゃねえか!!」
「どんなジャンルだろうが全てを飲み込む、それが王よ。貴様は所詮自身の世界で叫んでいる哀れな虫でしかない」
 えらい素晴らしい顔で言い返すフェチ二人、『だが、それがいい』と爽やかに言い切った伝説のかぶき者が背後に見えるぐらい素晴らしい顔だ。
「全てを――奪いつくして差し上げます!! 」
「約束された勝利の――」
 限界を超え爆発を起こす核兵器、それぞれの超必殺がアホ三人の中心で爆発する。
「ナイチチに栄光有れー!! 」
「ああ、これぞ至高の快感――!!」
「メィィ……ニアッ!! 」
 吹き飛ぶ三人、アホ+1のためドクロ爆発のお約束を超え、髪型のアフロ進化という笑いの極みに達する、後に残されるは彼女達にとって至高の一品である2 枚綴りのカプセル薬のみだった。
「紆余曲折ありましたがコレで私達は救われるわけですね」
「いえ、ちょっと待って 」
 嬉々として薬の一つを呑もうとするセイバー、しかし秋葉は『騙されるか』といった感じの顔でそれを引き止める。
「なぜですか? 」
「今までこのパターンで何度騙されてきた事か……だいたいオチとしては『2つ同時に呑まないとダメだった』だの『ここまでの貧乳を直すまでの効果はありま せんでしたネー』だの……今まで数多くのSSやアンソロジーが有りましたが救われた事が一度も……」
 ここまでやっていらん事を思い出す秋葉、ここで引いてしまっては地面に倒れ伏せるアフラー達の激論が無駄になってしまう。
「大丈夫ですよ、なぜなら今ココで秋葉が口に出した事でそのオチは使用不可能になりましたから。もしそれでも不安ならココで寝ているメヒコアフロを起こせ ばいい」
 言うや否やメキシコアフロの胸筋を直接掴んで引き起こすセイバー、ちなみに他二人のアフラーたちの名前が『アフロジャパン』『アフロバビロン』と某バト ルフィーバー調の名前であるのは余談である。
「起きて下さい」
 疲れ果てた士郎を起こすときと同じ様に優しく語り掛けるセイバー、ただ体をがっくんがっくん洒落にならないレベルで揺らしているため、メヒコアフロの胸 から筋肉が千切れる音がブチブチと絶え間なく響いている。
「199X年……世界はアフロの炎に包まれた……」
「胸倉ドライバー!! 」
 起きようとしないメヒコアフロの胸倉を掴んだまま180度回転させ垂直に叩きつけるセイバー、胸から吹き出る血は鮮やかな赤から死と言う字が見え隠れす る どす黒い赤に変わっていた。
「う……私は一体……?」
 何事もなかったように起き上がるメヒコアフロ、クサヤの臭いが霞むほどに腐りきっていても流石は元死徒五位。
「この薬の服用方法を簡潔に答えなさい」
 事態を飲み込ませないうちにさっさと告げる、なにしろ自分の髪型がアフロに進化したことを思い出したら喜び勇んでブラジルに向ってしまいそうな漢だ。
「ああ、それの服用法ですカ? まず一錠のみます、その直後半日以内に男性とナニしてください」
「ナニ? 」
「HAHAHA!! ナニと言ったらナニですヨ、すると一ヵ月後ぐらいから薬の効果がでて胸が大きくなり始めまス」
「……えーと、一応聞きますが他に症状はでますか? 」
「お腹が大きくなって酸っぱい物が欲しくなって母乳が出ます」
「……薬の正式名称と本来の目的は? 」
「名前ですカ? 『一発必中アダム君!!』と言いまス。主な効果は薬を服用した女性を確実絶対な危険日ニ、妊娠確実!! しかも右の薬でお父さん似の男の 子、左の薬でお母さん似の女の子、二つ一緒で男の子と女の子の双子と言うスバラシイ効果!!その神の摂理に真っ向からケンカを売るような胸筋も妊娠と言う 一大行事にぶち当たれば流石に……」
 セリフを言い終わる前に車田ぶっとびで綺麗に吹き飛ぶメヒコアフロ、血を吹きながら吹き飛ぶアフロは微妙に美しい。
「ふう……やはり万能な薬などないんですね」
 某龍のクロスの人の必殺アッパーを打ち込んだ直後の姿勢で嘆息する秋葉。
「そうですね、やはり自力でどうにかするしかないのでしょう」
 爽やかに言い切るセイバー、両手が血に染まりブラックモードより凄惨な笑みを浮かべてる事に気付かないのが紳士としての気遣いだ。
 悲しみを背負い去っていく人間関東平野二人、後に残るのは風になびく三つのアフロだった。

エピローグ
「いくら胸が大きくなってもこの年で妊娠というのは……」
 遠野家のテラスで一人紅茶をすする秋葉、戦いを終えた女の顔はたとえどんな最低の戦いの後でも美しい。
「はぐはぐ……妊娠すると好きなものが食べられなくなると聞きます、そんな拷問を受けるぐらいならここまででいいです」
 対照的にお茶の間でデケエ煎餅をかじりながら一人ごちるセイバー、彼女を伝説視するイギリス人が見たらショックでくたばりそうな光景だ。
「大体妊娠したところで――
――兄さん見てください、可愛い男の子ですよ、兄さんに似た
――………………
――どうしたんですか、兄さん? 茫然として
――俺はとんでもないことをしてしまった……いくら愛してるとはいえ妹に……こんな……
――いまさらそんなことで悩まないで下さい!!
――秋葉?
――そんな事言ったらこの子の立場はどうなるんですか!? 私たちの愛の結晶のこの子は!? それに私達は元々血が繋がってない兄妹です! もはやこの子 が居れば気にすることはありません! いくら想いが伝わらないからってアーパー吸血鬼やカレー星人を相手にする必要が無くなったんですよ!?
――そうだな、俺はもう素直になっていいんだ。秋葉、これからはお前だけを見つめる。もう暗黒メイドや残虐超人候補の家政婦なんかに色目を使わない。俺は お前が好きだ、秋葉……
――兄さん! いや、志貴!!
――もしかして凄い幸せに? 」

「そこまでの苦行の末に得る物は――
――シロウ、私はもう戦場には立てません。この両手に眠る赤子達がいとおし過ぎる、この子達を置いて剣を取る事など出来ません……
――すまない、セイバー。俺はお前の生きがいを……
――いいんです。シロウは私の戦いと言う生きがいを奪った、しかしかわりにこの子達という新しい生きがいを与えてくれたのですから
――……セイバー
――いいんですよ。これでマスターとサーヴァントという枷から抜けることが出来たんですから……
――素晴らしいものじゃないですか! 」
 

 場所は違えど同じことを思い付く二人、きっと洗濯板同士で疎通できる第六感があるのだろう
 薬のスバラシイ可能性に気付き戻る二人、そこには……
「絶対に引けないのヨォォォォォ!! 私と志貴の為にもォォォォォ」
「ふふふ……何言ってるんですか? そんな思いなんて私と先輩の赤い糸に比べればクズみたいなもんですよ……」
 数多のヒロイン達の屍の上で最終決戦を行うワルクエイドと黒桜がいたそうな
〜了〜

予告

神が気まぐれで創ったような薬を狙い次々と参戦するヒロイン達
キャスター「既に愛すべき人は私の元へ……あとはこの薬さえあれば宗一郎様と私の絆は眼に見えて完璧に」
シオン「計算するまでもありません、どーせまた裏切られますよ」
キャスター「クソ錬金術師がぁ!! 」
新たに生まれる宿命……
知得瑠「断りも無しにゲームオーバー後の私のコーナーを乗っ取った上に『教師』というジャンルにまで手を、その罪は万死に値します 」
タイガー「知るかー!! つーわけで弟子一号!! 」
イリヤ「おっす師匠! お任せを、バーサーカー!! 」
バーサーカー「■■■■■■■■−!! 」
知得瑠「いや流石にちょっとソレはきついって言うか、あー! 」
遺恨のデスマッチ……
桜「やっと……これで先輩を手に入れることが 」
ライダー「桜、知っていますか? 今、作者がはまっているSSがライダー×士郎だ と言う事に」
桜「ライダー!! 裏切ったわね!? 」
裏切り……
志貴「こんな薬で運命を縛られる事は愚かだと思わないか? 」
士郎「ああ、これはこの世にあっちゃいけない薬だ」
凛「……あんた達そこまで責任取りたくないの? 」
自分の未来を掴むため参戦する主人公達……
全ての意思は一つ、薬を手に入れる事。
意思が加速しぶつかり合い、思いは暴走する。

次回

邪神邂逅電波編2〜降臨アフロ神〜
志貴「薬は殺した……これでもう心配する事は」
士郎「……終わったんだな」
 
メヒコアフロ「薬ですカ? あんなもん直ぐに量産できますヨ
 
志貴、士郎「「 !? 」」

INDEX NOVEL