世紀末的マリみて




「へへへ〜祐美ちゃ〜ん」

無垢な少女に迫る怪しい影。

「白薔薇様、ちょっと……い……いや……」

少女にはその力を振り払う力は無い、危機という言葉が空気に重くのしかかる。

彼女を救うものは誰も居ないのか?

――かーおはだーれだかしーらないけれど♪

闇夜の空間にいきなり響く、某国民的ヒーローのテーマ曲に酷似した曲。

「なんで月光○面のテーマが……?」

「其処までだ! ロサ・フリーク!! この私が居る限り学園内でそれ以上の蛮行は許さん!! 」

満月をバックに立つ女性の影、その姿はある意味幻想的なものをかもし出している。

――かーらだーはみーんなしってーいる♪

なんかもう目茶苦茶食い違ってきた曲の展開と共に少しずつ姿を現す女性のシルエット、その輪郭や表情や容姿が徐々に姿を現す……

「え? ま、まさか、月光じゃなくてけっこ……うわーーーーーーーーー!!」

白薔薇の悲鳴を最後に再び空気には平穏が戻っていった――



 「ねえ、祐美さん」

「あ、おはよう御座います。三奈子様」

静かな朝の授業前のくつろぎのひと時、昨日とは違い爽やかな顔で教科書の整理をする祐美にわざわざ2年の教室からやってきた新聞部のエースである築山三奈 子が声をかける。

「昨日の夜の事なんだけど……」

その一言を聞いた瞬間にビクリと浮く祐美の体、それはいかにもなにかありましたよーと言う素晴らしいリアクションだ。

「な、な、なんのこ、事ですか? 」

「いや、其処までわかりやすい反応を示してくれるのは新聞記者としてありがたいんだけどね」

「えーえっと……」

「いや、いい。大体の裏づけは取れてるから祐美さんは聞いてくれるだけでいいわ」

コクリと小さく頷く祐美、多少なりとも裏づけがあるのならばここで答えた方が面倒が無いと判断する。

「えーと、昨日は生徒会の仕事が遅くて下校時間ギリギリまで残った祐美さん。他のお姉様たちや由乃さん達は少し早めに館の外へ、一人残った祐美さん……そ こで襲い掛かるロサ・ギガンティアの魔手!! 」

「あのー裏づけってどこから? その情報元はなぜ昨日の薔薇の館の下校状況まで知ってるんですか? 」

芝居がかった口調にとりあえず突っ込んでみるが、

「其処に現われた謎のヒロイン!! 」

無駄だった。

しかしここで語りのネタが尽きたのか口調が普通に戻る。

「どうよコレ? 新聞の記事としてココまで購買意欲をそそるものってある? 」

白薔薇様が後輩を襲ったと言うだけでも十分な記事になるとは思うが、もはや日常と化した儀式には記事としての新鮮さは無いのでダメらしい。

それより疑問なのはここまで詳細を把握したニュースソースはどこから来たのだろうか?

「でもさ、そのヒロインの姿形が全くわからないのよ。それじゃあ記事としての信憑性が落ちるからさ、ヒーローの外見だけでも教えてくれない? 」

「まあ……なんか隠してるのが馬鹿らしくなってきました」

もうなんか全てがどうでも良くなったのかあっさりと口を開こうとする祐美、それを予想していたのか三奈子は既に紙を取り出し謎のヒーローをスケッチしよう とペンも取り出す。

「えーとまず顔は? 」

「覆面を被っていました、眼だけ出るようなゴムっぽいやつです。あ、両耳の位置に少したるみがあって額には羽が挿してありました」

「ふーん、なるほどね。他に装飾品は? 」

「確か首に長くて赤いマフラーをしていました」

「マフラーね……」

カリカリと白紙に描かれていく謎のヒロイン、今のところ中々カッコいい仕上がりになっている。

「で、体はどんなの着てたの? 」

「全裸でした」

「なるほど全裸ね……え? 」

とりあえず耳をほじくってもう一度聞きなおす。

「で、体はどんなの着てたの? 」

「だから全裸です」

……自分の聞き間違えでは無かったようだ、目の前の癒し系の後輩の眼は嘘を言っていない。

むしろ嘘であって欲しいが。

「えーとアレだ、その全裸の人は……もしかしてヌンチャク持ってなかった? 」

「え? なんで知ってるんですか? 」

間違いない、ヤツだ。

三奈子の頭の中には十八歳未満お断りの伝説のヒロインの姿が浮かんでいた。

キーンコーンカーンコーン……SHRの始まりを告げるチャイムの音がやけに遠く聞こえる。

「三奈子様? 」

「あー……ありがとね祐美ちゃん、参考になったわ」

ふらふらとした足取りで一年の教室を後にする三奈子、彼女に襲い掛かったショックは計り知れないものだった。

ネタを聞いてある程度の確信が取れた時には一面はいただきだ、と思った。

しかし今の情報でそんな気持ちはあっさり吹き飛んだ。

『乙女の園に伝説の全裸ヒロイン復活!! 』

確かにいばらの森やらイエローローズ騒動も十分危なかったが……

桁が違うからさ、コレ。

発禁くらうっちゅーねん。



 「あれさあ、蓉子だ」

「はあ? 」

ヌンチャクで叩かれた頭のコブを氷嚢で抑えながら呟いた白薔薇こと佐藤聖の一言を正気? という表情で返す黄薔薇こと鳥居江利子。

「だから蓉子」

「……つまりアレね、貴女はそのコブを作った全裸のヒロインが蓉子だと言うのね? 」

「そうだって」

「ありえないわね」

一言で切り捨てる江利子。

紅薔薇である水野蓉子、人呼んでリリアンの完璧超人、おふざけはもちろん下ネタなど不倶戴天の敵の様に見そうな彼女に限ってそれはありえない。

「間違いないって!! 声が同じだったし!! 」

「まあ……確かにCVは一緒だけど」

「そーじゃなくって! あの腰、あの胸、あの視線、全てが私の愛する蓉子だ!! 」

「……祐美ちゃん一筋じゃなかったの? 」

「祐美ちゃんはぬいぐるみだ! ペットだ! 」

拳を振り上げながら力説するその姿は微妙に白薔薇としてのカリスマ性が感じられてタチが悪い。

なら志摩子やカニや栞はどうなのか聞いてみようかと思ったがキリが無さそうなのでとりあえずやめて置く。

「まあいいわ。で、どうしたいの? まさか何も目的が無くて私に情報を漏らしたわけじゃないでしょ。そうねヒロインが本当に蓉子なのかどうか確かめるのに 手を貸せといったところかしら? 」

「ふふふ、さすが我が朋友、そうこなくっちゃあ面白くない」



「貴女が仕事を手伝ってくれなんて珍しい事もあるものね、明日は雨かしら? 」

軽く笑みを浮かべる蓉子に心の中で謝りながら書類を適当に片付けていく江利子。

事の段取りは江利子が蓉子を引き付け、同時に聖が再び例のヒロインをおびき出す。

ヒロインが再びテーマ曲と共に現われれば蓉子はシロ。

現われなければ蓉子はクロ。

正に2択のわかりやすく簡単な判別法だが、

(なにかを忘れているような……)

喉に魚の骨が引っかかるような気持ち悪い感覚を江利子は味わっていた。

(なにか作戦に不備が? いやでもこんな簡単な作戦に穴なんて)

「どうしたの、江利子? おでこのてかりが……もとい、顔色が悪いわよ? 」

「いや……大丈夫」

さらっと毒を加えた蓉子の突っ込みも思考の海にはまってしまった江利子には全く効かないらしい。

(私が引き付ける、いやコレには問題が無い。聖がおびき出すにも……? おびきだす?)

「ミスったー!! 」

今までの段取りなど無視して思わず絶叫する江利子。

おびきだす? どうやって?

普通そういう場合、前回に習う行動をとる。

そう、聖は裕美ちゃんを再び襲う。

そう言われて見れば何処におびき出すとか細かい段取りを全く聞いていない、聖は正体暴きと共に裕美ちゃんをゲットして――

「ギャー!! 」

「何事!? 」

中庭から響く聖の絶叫に素早く反応する蓉子、しかし江利子はそれ以上に素早く中庭へと駆け出していた。


 江利子が中庭にたどり着いた時、その場にあった物は……

呆然として遠くを見つめる裕美とうつ伏せに倒れる聖の姿だった。

「聖!? 」

慌てて聖を抱き起こす江利子、聖の顔はなにか強烈な打撃を喰らったかのように赤くなっていた。

「来たの!? 来たのね!? 」

がっくんがっくん揺すって聖に問いかける江利子、その衝撃で目覚めた聖は開口一番、

「……お、おっぴろげジャンプ」

ワケの解らない単語を口走った。

「はあ? 」

「今野先生ごめんなさい……」

ガクリ

そう言い残し再び意識が跳ぶ聖。

「ちょっと!! おい、アメリカ人!! 起きろ、全ての問題の火種!! 」

先程とは比べ物にならない勢いでブンブンと思いっきり聖の体を揺らす江利子。

そろそろ首の骨が折れるんじゃないかなーと思える勢いになったその時、急に江利子の手が止まった。

止めたついでに地面に聖の頭も落としてしまったが大した問題ではない、ゴンというヤバイ音も多分空耳だろう。

「で? これは一体どういう事なのかしら? 」

江利子の背後には冷ややかに辺りを見回す蓉子の姿があった。

「……ああ!! 聖!! 誰が一体こんな事を!? とにかく早く保健室へ行かなければ!! 」

凄まじい芝居口調で聖の体を抱き上げて凄まじい勢いで走り去っていく江利子、女性一人を抱きかかえているにしては凄まじいスピードだ、命の危機に直面した 人間はここまでやれるという良いサンプルだろう。

「まったく……祐美ちゃん大丈夫? 一体何があったの? 」

茫然自失の祐美に近寄り優しく声をかける蓉子、穏やかに包み込むような仕草は祐美に僅かな自意識を取り戻させるに十分な効果があった。

「白薔薇様がまた今日も私に襲いかかろうとして……それで困っていたら……あの覆面の全裸の人がまた現われて……白薔薇様を一撃で……」

たどたどしく自身が遭遇した現場の状況を語る祐美。

それを聞いた蓉子は遠い目で祐美を見つめて優しく口を開いた。

「知ってる、祐美ちゃん? 昔、学園の自由と平和を守る為にその身一つで闘った女性が居た事を……」

「え? 」

「その魂は今でも生き続けてる……か弱い女性がピンチになったその時に疾風のように現われる」

「紅薔薇様はあのお方の名前を知っているんですか!? 」

「ええ、彼女の名前は――」

名前を言い残しその場を去っていく蓉子、後に残された祐美はその名をいとおしげに呟く。

「……けっこう仮面」

かつてスパルタ学園で一騎当千のおしおき教師達に一人立ち向かった伝説のヒロイン。

その魂が半世紀近い時を超えて、ここリリアン学園に甦った――


〜続く〜


おまけ

蓉子「ご苦労様、祥子。お陰で正体がばれずに済んだわ」

祥子「……お姉様、やはり私には無理です」

蓉子「無理じゃない、貴女は立派に祐美ちゃんを守ったじゃない」

祥子「でも! 」

蓉子「私はあと少しで卒業、その後に学園の平和を守るのは貴女しかいないのよ」

祥子「……」

蓉子「やがて来るドリルや女アンドレの手から真弓ちゃん……もとい祐美ちゃんを守るためには誰かがやらなければ」

祥子「喜んで継ぎます!! 祐美のためならなんだって……」

蓉子(……ここまで簡単にOKするとは思わなかった)


おまけ2

封印指定のプロトタイプとの違い

1、プロトタイプ版の敵はロサ・フェティダ改めロサ・フェチダという感じで逝こうかと(以下削除)

2、プロトタイプには生々しい戦闘シーンがあった

3、プロトタイプは書いているうちに泣きそうになった、壊れすぎてw


おまけ3

けっこう仮面

永井豪原作のセクシーヒロイン(笑)

スパルタ学園のおしおき教師達の手から生徒を守る為にヌンチャクを振り回し日夜闘う全裸の人。

必殺技は開脚して相手の顔面に飛び掛る『おっぴろげジャンプ』

ちなみにお仕置き教師達は名作漫画のキャラをパロっておリ、例としては

鉄椀オツム=鉄腕アトム

裁縫部009=サイボーグ009

てな感じでやりたい放題でしたw


ちなみに解りにくいネタの補足

1、そりゃあCVは同じだけど

アニメ版のけっこう仮面の声は紅薔薇様でした


2、今野先生ごめんなさい……

おしおき教師達は大体やられた後に元ネタの作家たちに謝る。

前例の鉄椀オツムの場合

「手塚先生ごめんなさい……」

てな感じで、あんまりフォローになってないが(爆)


3、真弓ちゃん

本名は高橋真弓、いつもお仕置き教師に目を付けられる不遇の生徒。

ちなみに彼女はけっこう仮面の事をお姉様と呼んでいた、マリ見てのはしり(自殺)




後書き


続きなんて書けるわけねーし(爆)



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