琥珀のお料理天国

 「あら、誰でしょうかこんな夜中に?」

 1日の仕事を終え、自室に帰る途中であった琥珀は台所の明かりが消えていない事に気が付いた。先程自らが消したのにもかかわらずである。

 「……?」

 不審に思った彼女は懐から取り出した注射器に、これまた別途どす黒い色をしたアンプルを取り出し注射器に吸わせる。念には念を入れておくのだ。

 そして彼女は音も立てずに台所に侵入する。

 「!?」

 その時、その『人物』がこちらを振り返った。

 「……あ、あはー♪ どうしたの翡翠ちゃん、こんな夜更けに?」

 「…………とにかく、その注射器をしまって下さい、姉さん。」

 自分の首筋に注射器が向かっているのを確認し、翡翠はいつもの無表情な顔で話す。

 「……料理の練習をしていたのね、志貴様のために。」

 手にした注射器を仕舞いながら琥珀は翡翠に話す。

 「え、あ…… 何で分かったのですか姉さん……?」

 「ええ、その手を見れば分かりますよ♪」

 笑いながら翡翠の両手を見る琥珀。

 ものの見事に梅干まみれであった。




 『琥珀のお料理天国』




 「……そう、それで深夜に特訓をしていたのね。」

 「ええ……」

 翡翠の手を一緒に洗う最中に、琥珀は事の顛末を彼女から聞いていた。

 「そう、偉いのね翡翠ちゃん。」

 「そんな…… 私はただ志貴様のために……」

 顔を赤くして俯いてしまう翡翠。

 「そうだ、翡翠ちゃん!」

 「!?」

 「志貴様が大好きな食材が、梅干以外にもあるわ!」

 「本当ですか、姉さん?」

 「ええ、ちょっと待っててね。直ぐに持ってくるわね☆」

 なんだかんだ言っても妹に幸せになって欲しい琥珀は急いで自室に戻って『とあるもの』を持ってくる。

 「確か先日有彦さまがお持ちになった…… これで。」

 先日の『かくれんぼ』の折に彼が

 「志貴の奴の好物だから、今度食べさせてみたら?」

 と貰った『ブツ』を手に台所へ戻る琥珀。

 (そういえば、この間見たビデオでこれの『調理方法』をやっていたわ。)

 先日TUTAY○で借りたビデオの光景が琥珀の脳裏で再生される。

 「さあ、翡翠ちゃん。明日の朝食は任せるわ。『コレ』を使って頑張ってみてね☆ もちろん、私も協力するから。」

 「姉さん……」

 目の端に涙を浮かべて翡翠は姉を見る。

 「さあ、はじめましょ。」

 「はい……!」

 姉妹による夢のタッグがここに誕生した。




 数時間後、仕込みを終えた翡翠は姉に感謝の言葉を捧げつつ、自室に帰った。

 『志貴様へ 明日はこの服を着て朝食にいらしてくださいね☆』

 一方琥珀は志貴の部屋の前にメモと風呂敷包みをそっと置いた。そして自分も部屋に戻る。

 「明日が楽しみですね☆」

 翡翠は失念している。

 自分の姉が、先日当主たる秋葉に何をしたかを。

 これが真面目な作品である訳がないことを……




 そして朝が来た。

 「ちょっと琥珀、朝食はまだなのかしら?」

 食堂には秋葉の苛立った声が響いている。そこへ琥珀が入ってきた。

 「朝食が出来たのかしら?」

 「いえ、秋葉様。今朝の朝食は以下のメニューから翡翠ちゃんが調理します。どうぞお選び下さい。」

 「……翡翠が、何故?」

 「彼女たっての希望です。もちろん、私も手伝いますからご安心下さい。」

 「……そう。ならメニューを見せてもらおうかしら?」
 
 「はい、コレになります。」

 ウメサンドの一件を知らない秋葉は、素直に琥珀からメニューを受け取る。琥珀が手伝うという点も信頼できる点であるし、たまたま早起きした彼女には時間的余裕があった。

 「……」

 秋葉は黙ってメニューを眺める。そこには

「梅干・ベーコン」
「梅干・ソーセージ・ベーコン」
「梅干・スパム」
「梅干・ベーコン・スパム」
「スパム・梅干・ソーセージ・スパム」
「スパム・ベーコン・ソーセージ・スパム」
「スパム・梅干・スパム・スパム・ベーコン・スパム」
「スパム・スパム・スパム・エッグ・スパム」
「スパム・スパム・スパム・スパム・スパム・スパム・ベイクドビーンズ・スパム・スパム・スパ・スパム」
「モルネー・ソースのロブスター・テルミドールと子海老、トリュフ・パテとフライド・梅干とスパム添え」


 見事なまでのスパム尽くしのメニューであった。


 「……梅干とスパムが入っていないメニューは無いの? 」

 少しだけ殺気を纏いつつ、秋葉は琥珀に尋ねる。彼女は少し考えた後に

 「そうですね…… それでは『スパム・梅干・ソーセージ・スパム』ですね。これなら梅干もスパムもそんなに入ってないですよ♪」

 そう口にした。

 「……梅干とスパムなんて、これっぽっちも欲しくないのだけれど?」

 殺気を通常の30%増しで発しだす秋葉さン。そこへ……!

 「良いではないか秋葉殿。『梅・ベーコン・スパム・ソーセージ』で?」

 「兄さん…… その格好は……!」

 何故か紋付袴姿で志貴が入ってきた。

 見事なヒゲが、その威容を誇っている。

 「馬鹿者! 私を兄さんなどと呼ぶな!」

 「は?」

 「『味皇様』と呼べい!」

 「………………」

 愕然として秋葉は言葉を失った。だが直ぐにその状態から回復し、

 「兄さんはスパムと梅干が入った料理が食べたいのですかっ!」

 毅然と兄に異を唱える秋葉。

 「だから『味皇様』と呼べい!」

 「それはいいですから!」

 「今の私は『味皇様』だ! それ以上でも以下でもない!」

 「だから……!」

 「今日の料理は翡翠が担当か。ふふふ…… 精進せえよ……!」

 だめだこりゃ。

 秋葉は言葉のデッドボール合戦を諦め、琥珀に向き直る。殺気はもはや通常の3倍だ。

 「……私には『梅干・ベーコン・スパム・ソーセージ』をちょうだい。ただし、梅干とスパム抜きで。」

 「その注文はお受けしかねます、秋葉様」

 「どういうことよ。私は梅干もスパムも食べたくないのっ!」

 「秋葉様、私達にはそれぞれに『属性』が設定されてます。」

 「!?」

 唐突に訳のワカラナイ(秋葉視点)ことを話しだす琥珀。

 「秋葉様は『妹』。私と翡翠ちゃんには『メイド』という属性があるのです。加えて翡翠ちゃんには『梅サンド』という彼女の個性をアピールする重要なファクターがあるのです……!」

 「……」

 なンだか琥珀さンに圧倒されつつある秋葉さン。

 「それを無視するなど、この私には出来ません……! 秋葉様はご自身の萌えポイントである『ナイムネ』という貴重な萌えポイントをお捨てになることが出来ますか……!」

 「だからそーいう問題では……!」

 そう秋葉が叫んだ瞬間

 「「「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!」」」

 ガシャーン!

 食堂の窓ガラスをぶち破り、3人の人影が入ってきた。

 「!?」

 その3人、ネロ・カオス、さつき、シオンは身体に付着したガラスの破片を無視しながら歌いだす。

♪スパム、スパム、スパム、スパム、スパム、スパム…… 大好きスパム、ステキなスパム、ラブリー・スパム、ワンダフル・スパム〜。

 「貴方達、一体どういうつもりで……!」

 「そんなに騒ぐモノではない。お前さんのスパムは私が食べよう。……良いものだ、スパムは。」

♪私はスパム・スパム・スパム・スパム・スパム……!

 目の前の異常事態に突っ込もうとする秋葉を遮るように、『味皇様』も歌いだす。

 「もうっ! ならば私は今日は朝食抜きで構いません! 兄さん…… じゃなくて味皇! 貴方だけ食べれば良いでしょう……!」

 「うむ、ならばスパム・スパム・ベイクドビーンズ・スパムを貰うとするか。」

 平然と琥珀にオーダーする味皇様。

 「申し訳ございません味皇様。ベイクド・ビーンズは品切れなのです。」

 深々と頭を下げつつ謝罪する琥珀。それに落胆することなく彼は

 「それなら、代わりにスパムを頼む。」

 そう口にした。
 
 「ということは『スパム・スパム・スパム・スパム・スパム・スパム・スパム・スパム・スパム・スパム・スパム』で宜しいですね?」。

 平然と確認する琥珀。それに付随するかのごとく

♪スパム、スパム、スパム、スパム、スパム、スパム……

 歌いだす3人の闖入者。そのテンションは更に高まり……!

♪大好きスパム、ステキなスパム、ラブリー・スパム、ワンダフル・スパム〜。

 もう歌い放題である。

 「うるさい、黙りなさいっ!」

 その秋葉の叫びで闖入者たちは歌うのをやめた。そこへ、スパム(以下略)を持った翡翠が現れる。

 「どうぞお召し上がり下さい。」

 「うむ、翡翠の努力の結晶。味わうとしよう……!」

 翡翠と味皇様。

 この二人だけの『世界(ザ・ワールド)』が展開される……! 周囲の皆様は時が止まったかの如く動かない……!

 「…………むう! こ、これはっ!」

 味皇様が一口食べた時点でそう口にする。二口、三口と食べ、ブルブルと震えだす味皇様。そして……!


 「う………… うー! まー! いー! ぞー!」


 そう言うなり、口から強烈なビームを吐く味皇様。そのまま


 「うがああああああああ!!!!!!!」

 そう叫ぶ味皇様。そして……!。

 「ああっ! 味皇様が巨大化した?! コレは私の『回路』でも計算が……!」

 シオンが叫び、

 「目と口からビームを乱射しているぅ!」

 さつきが驚く。

 「この屋敷が壊れるか…… コレも滅びの美学か……!」

 ネロさンが淡々と呟く。そして……!


 『G秋○』に匹敵する巨大化を遂げた味皇様によって破壊された屋敷は


 大爆発


 無論、全員、アフロだ。


 「……マリア様、私が何かしましたでしょうか……!?」

 廃墟と化した屋敷から秋葉(アフロ)が這い出てきてソレだけを口にした。そして彼女は再び瓦礫の上に倒れ付した、口から煙を吐きながら。




原案・脚本・スパム出演

 パイソンズ

 ナイツ・スパム・ベイクド・ビーンズ・スパム

 翡翠・スパム・エッグ・チップス・アンド・シンガース

 琥珀・エッグ・ベイクド・ビーンズ・ソーセージ

 遠野秋葉・スパム・ソーセージ・エッグ・トマト

 遠野(梅干載せ)志貴

トースト共演

 ザ・フレッド・ネロ・カオス

 弓塚(スパムは売り切れ)さつき

 シオン(グリル盛り合わせ)エルトナム 7シリング6ペンス

メイクアップ・特殊効果・スペシャル・サンクス

 ペニー・ペニー・ペニー・WRENCH・ノートン



Action・スパム・テレビ

サービス料は含まれません



(『END』と書いて『ギャフン』と読む)


 はじめまして。文章の95%以上がネタで構成された文章を書く似非SS作家のナイツと申します。ふじいさん氏が投稿されているActionにアホネタを書いてますです。この度はふじいさん氏が無事に東京に転居されたということなので、記念に投稿させて頂きました。……大半の人が知らないであろうネタメインで恐縮ですが(滝汗)。色んな意味でゴメンナサイです(爆)。 WRENCH師匠にもスミマセン。

 解説しますと

(1)モンティ・パイソンは、1969年から1974年にかけてイギリスBBC放送で放映されたトンでもない番組「空飛ぶモンティ・パイソン」(Monty Python's Flying Circus)のことです。大きなレンタルビデオ屋に行けば置いてあると思います。ビデオだと全14巻ですな。

(2)「スパム」とは、米国産の豚肉加工缶詰デス。昨年の某所オフ会で配りまくったものの、私は未だ食べてないです(切腹)。ところで、大量の広告メールやゴミメールを「スパム・メール」と呼びますが、その語源は今回ネタにしたスパムが語源になっているとか?

(3)『味皇様』は『ミスター味っ子』というギャグアニメ……ではなく料理アニメです。漫画もあります。彼のことは是非ネットでお調べ下さいw。



INDEX NOVEL