デジャヴ艦内時間深夜のナデシコC、オペレーター席で一人の少年が一心不乱にコントロールパネルに向かっている。 他に誰もいない中、キーボードを叩く音だけがブリッジに木霊する 直後ドアが開き一人の女性が入ってきた、ナデシコCの躁舵手ハルカ=ミナトである。 「ふぁ〜・・・いくらシフトとはいえこの時間って言うのはね・・・・ん?」 人がいないはずのブリッジに一人の少年がいることに気付いたミナト、少年と言う事で正体は1人に絞られる。 「ハーリー君?何してるのこんな時間に?」 ミナトの声に気付き、オペレ−タ席に座っているハーリーが振り向いた。 「あ、ミナトさん。」 「『あ、ミナトさん』じゃないわよ、こんな時間に・・・?」 ミナトがオペレーター席のウインドウを覗き込むと、そこには古今東西の戦艦を含めた宇宙戦が映っていた、なかには初代ナデシコ対カンナヅキ等の見覚えある懐かしい戦闘も映っている。 「なにこれ?」 「過去の有名な近代戦闘のデータ集を作っていたんですよ。」 「なんで?」 すると、ハーリーが少し顔を赤くして答えた。 「いや・・・少しでも知識を深めて・・艦長の手助けになるようにと・・」 「ふ〜ん・・・ルリルリのねぇ・・でもこんな時間にやらなくても・・」 「何しろ勤務中にやるわけには行きませんから深夜にちょっとずつ、でも三日かけてやっと形になってきましたよ。」 それを聞いた瞬間、ミナトの顔が真剣なものになった。 「ハーリー君、貴方近頃どれぐらい寝てる?」 「え、う〜ん・・・平均二時間ってとこですかね。」 「!?ほとんど寝てないじゃないの!」 改めてハーリーの顔を観察する。 眼の下のクマ、ツヤのない肌、なんとなく無理をして作っている表情… 体調が悪い事は明白だった。 「そんなに無理して体を壊したらどうするのよ!?」 ミナトが驚いて声を張り上げると、ハーリーが言いにくそうに言葉を続ける。 「いや、でも・・早く艦長に・・追い付きたいんです」 確かに当時のルリに比べると正直言ってハーリーの能力は落ちる、しかしそれほど気にするほどの差ではないのだが・・ 「なんで?そんなにあせらなくても・・・」 「・・・・いや、でも・・・」 何か言いたそうにしながらも、ハーリーは顔を赤くしてうつむいてしまった。 ミナトがそれを見て、ハーリーの意図を理解し、優しげな顔で呟く。 「そんなにあせらなくても・・・ルリルリ、いえ、艦長は逃げないわよ?」 「!な、なにいってんですか!な!何でルリさん・・いや、艦長が・・」 いきなりルリの名前を出され、ハーリーがわかりやすく慌てる。それを見たミナトが言葉を続けた。 「確かにルリルリはアキト君を必死になって探しているけど・・それは隣に立つためじゃない・・」 嫉妬からの焦り、それがハーリーを駆り立てている要因である事をミナトはいとも簡単に察知した。 現職高校教師は伊達ではない。 「・・・・・・・」 「大事な人の笑顔を見るため、全てを取り戻すため・・・だからアキト君に対抗して背伸びしなくてもいいのよ?」 「・・背伸びですか?」 嫉妬とは違った軟らかい表現にハーリーが怪訝そうな顔で呟く。 「背伸びして隣に立っても疲れる・・だったら自然に隣に立てばいい、ゆっくりでもね。いそがなくていいの。」 「はい・・」 不承不承なハーリーの返事を聞いて、ミナトが溜息とともに表情を固くする。 「それにこのままじゃハーリー君いつか倒れるわよ?そうするとルリルリに逆に負担が、いえそれ以上にハーリー君のことを心配するわよ。」 「!」 まるで天啓を受けたかのようにハーリーの表情が一変する。 直後、ミナトがふたたびいつもの優しい穏やかな顔へもどった。 「わかったら早く寝なさい、明日も早いんでしょ?」 ポン・・ミナトが軽くハーリーの背を叩く。 「・・・わかりました!ありがとうございますミナトさん。それじゃあおやすみなさい!」 心のつかえが取れたのか、ハーリーは晴れやかな顔で元気に自室へと帰っていく。 それを眼で追うミナトの脳裏には懐かしいセピア色の思い出が蘇っていた。 『ふぁ〜・・・いくらシフトとはいえこの時間って言うのはね・・・・ん?』 『ルリルリ?こんな遅くに何やってるの?』 『エステのバックアップのデータ?』 『いくらアキト君の為とはいえ・・こんな遅くまで・・・』 『ほとんど寝てないじゃない!?あせって体を壊しちゃ何にもならないわよ?』 『背伸びしなくてもいいのよ。』 『無理したら逆にアキト君が心配するわ、そういう人だもの・・・』 次の日、ブリッジメンバーがそろったブリッジ・・・ 「?どうしたんですかミナトさん?私の顔見てニコニコして・・・」 ルリが不思議そうに、優しい顔をしているミナトにたずねる。 「ん?いやね、私が年取るわけだな〜っと思ってね・・」 ミナトがやけに嬉しそうに答える。 「はあ・・・」 ルリが怪訝そうな顔をする。 「あ、わかんなくてもいいのよ。別にね・・・・」 思わずにやけてしまう顔を何とか抑える。 その時、ドアが開きハーリーがブリッジに入ってきた。昨日に比べいい顔色をしている、 「おはようございます!」 声も張りがあるしクマもない。それを見たルリが、 「おはようございます・・ハーリー君、顔色いいですね。近頃顔色が悪くて心配してたんですけど・・よかったです。」 穏やかに、嬉しそうにハーリに微笑む。 「あ、ありがとうございます!」 顔を紅潮させてハーリーが返す・・・・・ 再び蘇るセピア色の思い出。 『おはようございます。』 『おはよう、ルリちゃん。顔色よさそうだね・・・よかった、近頃顔色悪いから心配してたんだよ・・』 『あ、ありがとうございます・・』 『?顔が赤いけどどうかしたの?』 『!いえ、なんでもありませんから・・心配しないでください。』 「懐かしいわね・・・・・・昨日は想い人、今日は思われる人、時の流れは巡る物ってとこかしら?」 初々しいカップルを見つめながらミナトが誰ともなしに呟いた。 時は静かに、そして穏やかに流れ続けていた・・・・ 〜終わり〜 後書き これはアクションに投稿した物に加筆した物です。 ジャンルとしては純粋な劇場版二次、ほのぼのモノです。 精神的に書いてて疲れたのを記憶しています(爆) INDEX NOVEL |