東方大魔境 血戦 幻想郷~4~

ゲタに案内されたのは、人里と森の境目にある倉庫であった。
「洋館、お屋敷二回に神社と来て、今度はこのボロい倉庫ねえ。どうもたいしたヤツがいそうにないわ」
「巫女殿静かに。敵に見つかってしまうぞい」
目玉の親父と霊夢は屋根に陣取り天窓からこっそり工場の中を覗いている。ゲタは大人しくなったので、とりあえず霊夢が持っている。現在工場はゆっくりと稼働中であった。
「ねえねえマネージャー」
ノルマをこなしヒマそうなチルノがネズミ男に声をかける。
「あんだい」
「アタイ、もっと外の妖怪とやりあいたいんだけど。そうすれば外の世界でも、アタイのさいきょーさが有名になるじゃない。この間のきたろーってゆうのも弱かったし」
「我慢しろい。アイツを倒したら、子泣きや砂かけが押しかけてくるのがお約束。待てばそのうち来るさ」
鬼太郎がやられて仲間が押しかけてくるのは王道であった。
「くぅ、まさか鬼太郎がやられているとは」
天窓に張り付いている親父が嘆く。
「やられたって、あの工場に居るのはチルノとリグルとミスティアとルーミアと雑魚軍団と、それにネズミ男ってやつだけなんだけど。ネズミ男って強いの? ウチのネズミとは、随分タイプが違うみたいだけど」
「んにゃ。妖怪未満人間未満のダメなヤツじゃが」
「あのバカルテットも所詮前座のボスなんだけど……。いや、けっこう強いって聞いてたのに、アレに負ける鬼太郎さんって」
ハードならともかく、イージーで彼女らに負けるシューターは余程シューティングが苦手だ。それはさておき。
「あせっちゃダメだよ、チルノ」
「そうそう、それにまだ大事な奴を忘れているわ」
「……そうだよ」
リグル、ミスティア、ルーミアの三人もヒマなのか話に参加してくるが、どうもルーミアの様子がおかしい。
「ちょっと、大丈夫なのルーミア? なんかアンタ元気ないわよ」
いつもは食物連鎖の下に居るミスティアも、ルーミアを心配する。
「うん、だいじょうぶだよ、みすちー。なんならその翼をひとくちで」
「ああ、それだけ元気があれば大丈夫ね! てーか元気でも何でもヒトの翼を食おうとするな! 絶対に食おうとしないでよ!」
「えーと、ネタフリなのか?」
「違うー!」
「アレは置いていて、なんだよリグル。もしかして、幻想郷にも正義の妖怪がいるのかよ」
やいのやいの始めた二人を放っておいて、ネズミ男が正義への煙たさを隠さず。リグルに尋ねる。
「妖怪じゃないけど、幻想郷にもトラブルの解決屋がいてね。霊夢って巫女だよ」
「巫女? まさかヒ一族じゃねえだろうな」
ヒ一族とは、妖怪の天敵と呼ばれる一族の事だ。一時外の妖怪は彼らに絶滅寸前まで追い込まれた。
「たぶん違うと思うけど、なんかトラブルがあると首を突っ込んできて、よけいに騒動を大きくするんだ。私たちなんか騒動と関係ないのに、巫女の通り道にいたってだけで、ボコボコにされたし」
「カーッ、そりゃまたロクでもねえのがいるなあ。それじゃ正義の味方どころか通り魔ヨ」
ピシリと、天窓のガラスにヒビが入った。
「待て巫女どの、落ち着くんじゃ!」
「ふふふ、リグルきゅんもずいぶん言うようになったわねぇ……」
ビシビシと妖気をこえる殺気が空気を震わしている。どうやれば人間がこんな気を出せるのか。
「まーつまりレイムは、空気が読めないバカなのさ」
チルノが霊夢をバカにした途端、工場の屋根が爆風と共にはじけとんだ。
「な、ななななななぁ!?」
逃げ惑うネズミ男の視線に入ってきたのは、まさに鬼。屋根の残骸の上にゆっくりと降り立つ霊夢が彼にはそうとしか見えなかった。
「よりによって⑨にバカにされちゃあ、さすがに黙っていられないわよねぇ?」
瓦礫を蹴り飛ばし、ゆっくりと霊夢が降りてくる。バカルテットとネズミ男にできる事は怯える事のみだった。
「なんなんだよコイツは、ヒ一族よりヒデえ……」
「オイ、ネズミ男! おぬし鬼太郎をどうした!」
霊夢の巫女服にある脇の切れ目から、目玉の親父が這い出て来た。
「ああん? 親父も来てんのかよ。ああ、そうだよ、鬼太郎はな、ここにいる四人の先生方に氷漬けにされて川に流されたよ。そうだよな、ルーミアよ」
「う、うん」
ネズミ男の問いかけに、未だに様子のおかしままのルーミアはなんとか首を縦に振る。
そんなおかしいルーミアを見逃さないモノが居た。
鬼太郎のゲタが、突如勢いを取り戻しルーミアめがけ襲い掛かる、不意打ちの一撃は、ルーミアの腹に直撃した。痛みのせいか、ルーミアが腹を抑えうずくまる。
「ちょ、ルーミア!? 霊夢、あんた相変わらず極悪非道の巫女ね!」
「ちょっと待った、今のは私じゃないわ。ゲタが勝手に」
「このばかー! ゲタがかってに動くわけないだろ、このバーカ!」
どさくさまぎれにエラくチルノが調子に乗っている。
うずくまったままのルーミアは本当に苦しそうだ。うずくまったまま、痙攣している。
「ちょ、これ本気でやばいよ!」
「ルーミア、大丈夫!? 何処が痛い!?」
「お腹が、お腹がいたいよぉ……」
すぅっと、ルーミアの口から白色の気体が漏れてきた。気体は途切れることなく続き、やがて集まり人型を象っていく。
少女の痛みは、下駄の外傷ではなく、腹の内部にあった。
「ちょ、ルーミア。あんたなに食ったのよ!?」
それは所謂、食あたり。
「まさか! オメエひょっとして、氷の鬼太郎を食ったな!?」
白色の気体に色がつく。それは、黄色と黒の縞模様。続いて肌色に青色と、気体はどんどん人らしくなっていく。最後にゲタが、久しい主の下へ嬉々として戻った。
「助かったよ、その子の食い意地がはっていて。カキ氷機に身体をかけられたときは死ぬかと思ったけど」
ゲゲゲの鬼太郎は易く復活を遂げた。
様々な特殊能力が鬼太郎にはあるが、まず恐ろしいのは、この殺しても死なない生命力だ。
「鬼太郎―!」
親父はすばしっこく鬼太郎の身体を駆け上がり、頭の上のいつもの定位置へと着いた
「あっ、父さん。あれ? そこの巫女さんは?」
「うむこの方は博麗霊夢と言ってな、カクカクシカジカ」
親父から霊夢や現状に関してのだいたいの説明を受けた鬼太郎は、まず霊夢に一礼した。
「ありがとうございます。父さんをここに連れてきてもらって」
「どういたしまして」
「ついでにもう一つお願いがあるんですが」
「いいわよ。もう何か分かっているから、譲るわよ」
まあ、たぶん前評判からいってやりすぎる事はないだろう。わざわざ彼にスペルカードルールを教えるのも面倒だなと、霊夢は判断した。スポーツライクにスペルカードで争ってもらうのが一番だとしても、飛べないんじゃしょうがない。
あっさりと霊夢は退き、代わりに鬼太郎が五人の妖怪の前に立ちはだかる。いや直ぐに四人の妖怪になった。ネズミ男は既に逃げ出している。逃げ足だけで言うなら、幻想郷のネズミより上かもしれない。
「さて四人とも、もう一回僕と勝負してもらおうか」
鬼太郎は、高らかにそう宣言した。
「ふっ、さっきあそこまでギタンギタンにやられていて、いいどきょーだ。リグル、みすちー、また痛めつけてやろうよ」
「そうだね、一度勝ったんだから、二度はあるよね」
「ルーミアはちょっと休んでなさい。まだお腹痛いでしょ」
「ごめんみすちー……」
とりあえずルーミアが下がって、残りの三人が鬼太郎に立ちはだかる。
幻想郷の妖怪VS外の妖怪の血戦が、再び始まろうとしていた。

 

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