一日一アメコミ~14~

パニシャー・ウォージャーナル:シビル・ウォー

※ヴィレッジブックスではPunisherの読み方がパニシャーなのですが、本記事では耳慣れたパニッシャーを使わせてもらいます。

《あらすじ》
 超人登録法により、袂を分かったヒーローたち。推進派であるアイアンマンについた者、反対派であるキャプテン・アメリカについた者。ヒーロー同士の内戦とも呼べる戦いは、かつての南北戦争になぞらえてシビル・ウォーと呼ばれた。
 様々なヒーローやヴィランが名を連ねる中、最も異彩と呼べる男。ヒーローでもヴィランでもなく、集団に属することすら無いと思われていた男。男の名はパニッシャー。いったい何故彼が、ヒーロー同士の戦いに身を投じたのか。何故彼は、キャプテン・アメリカの陣営についたのか。何故彼は、キャプテン・アメリカの目の前で悪党を射殺してしまったのか。これは、一人の処刑人から見たシビル・ウォー。大戦は、数多の人の意志により作られているのだ。

 

 ヒーローを法で縛り、秩序正しく管理しようとする超人登録法。この登録法への賛否を切っ掛けに巻き起こった、ヒーロー同士の大戦。それが、シビル・ウォー。シビル・ウォー本編におけるパニッシャーの動きは、かいつまむと以下のようになっております。

 推進派所属のヴィランに襲われていた、元推進派のスパイダーマンを救出→スパイダーマンと共に反対派に合流→反対派との同盟を持ちかけてきたヴィランを独断で殺害→反対派を追い出される。

 ここで注目すべきはヴィランの存在。ヒーロー同士の内戦ということもあり、シビル・ウォーではヴィランは蚊帳の外だった。そんなイメージがありますが、実際本編やタイアップ誌を読むと、推進派に雇われ参戦する者、シビル・ウォーを隠れ蓑に陰謀を練っていた者と、それなりにシビル・ウォーに関わっております。この状況で静かに出来るなら、悪党やってないわな。

 上記の出来事の前後でパニッシャーは何をしていたのか。どのような心理状況でスパイダーマンの救出や、反対派と組もうとしたヴィランを殺害したのか。それがわかるのが、この作品。パニッシャーは大事件に自分から関わるタイプのキャラではないものの、超人登録法の切っ掛けとなったスタンフォード事件に「ヒーローが敵を殺さなかったことで多くの無辜の市民が命を失った」との側面もある以上、敵を殺せる男の存在は物語を深く切り開くために必要だったということでしょう。

 
 かつて兵士としてキャプテン・アメリカに接したこともあり、反対派から半ば追放半ば離脱したパニッシャー。その視点から見るキャップは、おそらく従来のキャプテン・アメリカのイメージとは大きく違うものかと。永久不滅の理想でありつつ、その行為と行動には徐々にヒビが入っているとわかる姿。そもそも、パニッシャーの横槍がなければ、キャップはヴィランと組んでたわけで。先にヴィランを手を組んだのはアイアンマンだったとしても、目には目を歯には歯をだったとしても、それはやってはいかんことであり、見境のない破廉恥なおこない。
 反体制派かつ戦後に命を失ったこともあり、シビル・ウォーにおけるキャップは善玉って思っている人も多いのですが、時折見せる戦争ならではの見境の無さや、戦後のビジョンが無かった点と、やはりシビル・ウォーのキャップは褒められたものではないですな。だいたい、シビル・ウォー本編のエンディングが自ら過ちを認め投降するキャップである以上、当人がシビル・ウォー作中で掲げてきた正しさを否定してしまったわけで。シビル・ウォーにおけるキャップを正しいものとして扱うのは、物語のテーマからも外れてしまっていると言っても過言ではないかと。
 だいたい、アイアンマンがいいも、キャップがいいもないだろ。シビル・ウォー本編のライターはマークミラーやぞ?

 たとえ周りが全員敵でも、己の理想を汚さず、最後まで意地を貫いてみせる。キャプテン・アメリカが頑なになったことで浮き出てきた、パニッシャーとの共通点。二人はネガなのか、それとも同じ兵士なのか。この極限下で見えてきたものは、やはり深い。

 なお、このパニシャー・ウォージャーナル:シビル・ウォーは全4話であり、反対派への所属と離脱は1~3話まで。じゃあ残り1話となる4話はなんの話なのかというと、本作第1話でパニッシャーに殺されたヴィラン、スティルトマンの葬式回。足が伸びるだけのB級ヴィランのスティルトマンを弔うために、葬儀場となったバーに集まるヴィランたち。端的に言ってしまうと、全員シビル・ウォーに絡めないクラスのヴィランです。昔はよかったと思い出話にふけり、スーパーパワーを持つもの同士だからいいだろうと喧嘩を楽しむ。なんとも荒っぽさと哀愁が同居した話ですわ。
 ……まあこれが、あくまでパニッシャーの1話というだけで、大量のヴィランが集まった葬式がどうなるかってのは予想できると思うのですが。救いは……ヴィランに救いはねえのか!?