追跡、アントマン!~後編~

ふじい(以下F)「今となっては2年前に始まったこの企画、追跡、アントマン!~前編~では歴代三人のアントマンを通して、まずアントマンとは何かということを取り上げ、追跡、アントマン!~中編~では初代アントマンであり難しい経歴を持つハンク・ピムについて語ったわけだが」

サイレン(以下S)「始めた頃は、エドガー・ライトが監督に決まったよ! って段階だったんだよな。まさかその後、降板するとは……」

F「結果自体は残念なことになったものの、完成した映画アントマンにもエドガー・ライトが考えだしたアイディアが、結構残っていたらしいぜ? まあ、というわけで後編なんだが……もう、終わりでよくない?」

S「諦めるなよ! 頑張れよ!」

F「だってさー、実は後編の構想としては、映画アベンジャーズ:エイジ・オブ・ウルトロンの紹介も込みで、アントマン=ハンク・ピムに連なるキャラクターであるウルトロンを取り上げよう! と思ってたんだけど」

S「ああ。ウルトロンの紹介、別の機会にやっちゃったのか……」

F「ディスク・ウォーズ:アベンジャーズなコラムの37回でな……エイジ・オブ・ウルトロン上映後、真面目に書いたテキストもあるし、この時一緒に取り上げようとしたジョカスタも、コラムの41回で紹介しちまったし」

結婚おめでとうございます

F「延ばし延ばしにしていた俺が悪いんだけど、これもう初期構想通りの後編はいらんかなあって」

S「しれっとジョカスタが可哀想すぎる画像を挟み込むなよ!? しかし、お前、自分で自分の首を絞めるどころか、一から首つり台を作っている感じだな」

F「首つり台からうたってあげるか!? 首つり台から笑ってみせるか!? 映画アントマンの感想も書いてしまったから、この方向性もアウトだ。でも幸い、当時はまだ無かったアントマンの邦訳ってもんが刊行されたからね」

S「えーと、アントマン誕生物語を再構築したアントマン:シーズンワン。スコット・ラングを主人公とした近年開始の新シリーズのアントマン:セカンド・チャンスマン。映画の前日譚や補足となるアントマン:プレリュードの三冊か」

アントマン・シーズンワン表紙

アントマン:セカンド・チャンスマン表紙

アントマン:プレリュード表紙

F「関連書籍としては映画のアート集となるアート・オブ・アントマンもあるけど、これはコミックスとは毛色が違うだろ。しかしアントマンの話題で取り上げているからとの贔屓目抜きで、この三冊のアントマンコミックスはレベル高いぞ。俺好みだ」

S「シーズンワンは、ハンク・ピムを主人公として誕生秘話を再編。アントマンだけでなく、ジャイアントマンやゴライアスのような後に繋がるネタをふんだんに盛り込み済み。アントマン:セカンド・チャンスマンは、正史で死んでいたスコット・ラングが、パッとしない自分自身と向き合いつつ第二の機会を模索する物語。アイアンマンやタスクマスターを筆頭に、色々なキャラが物語を彩る。プレリュードは映画における冷戦時代のアントマン、ハンク・ピムのエピソード。アベンジャーズが居ない時代、間隙のヒーローとなった男の活躍を描く……確かにお前、むっちゃ好きそうだわ」

F「ピリッと小ネタが効いた入門作、ボンクラが前に進もうとする物語、本編を厚くする前日譚やミニエピソード。みんな、大好物でごぜえますよ。それに、どの本にも詳細な解説が付いていたりするからね。そして本日、映画アントマンもソフト化されて発売……さあ、買うかレンタルにGOだ!」

映画アントマン パッケージ

S「あー、もう出たのか。気軽に楽しめる映画だから、多くの人に見てほしいな」

F「仕方ないこととはいえ、本家アベンジャーズも含めて連作しているヒーローは、どんどん前作や世界観に関する知識を求められる流れになるからね。まあ、アベンジャーズ系の映画は、かなりココに気を使って作られてはいるけど……そんな中、投じられた新たな一石、アントマン。新進気鋭の小さなビジュアル体験に、若き父親と老いた父親が失いかけていた物を取り戻すストーリー。もうちょっとしたら、アメコミ映画における地上波放送の鉄板な、アイアンマンに替わる存在になるかもしれん」

S「キャプテン・アメリカ:シビル・ウォーへの出演や、次回作アントマン2となるアントマン&ワスプの製作決定と、アントマン自体の見通しも明るいな!」

F「まさか、アントマンやスコット・ラングがここまでの存在になるとは。コミックスはともかく、現実では間違いなくセカンド・チャンスをゲットしてるぜ……」

映画アントマン感想

 映像の進化により、今まででは想像もできなかった巨大な怪物や広大な戦場を撮れるようになった昨今。でもこの技術を、全く別の発想。ミクロの決死圏を始めとする、小さな世界への描写につぎ込んでみたらどうなるのか? 結果は、大きな世界に劣らぬどころか、大きな世界では決して出せぬ迫力やアイディアがてんこ盛りの映像の完成でした。そしてその答えこそ、映画アントマンです。
 アイアンマンより始まり数々の作品を経て、アベンジャーズを総決算とするマーベル・シネマティック・ユニバース。アントマンもまたその一遍でありながら、非常にバランス感覚に優れた一作。繋がる世界の旨味を残しつつ、壮大になり過ぎないよう、上手く調整済み。気楽に今まで観たことのない映像と、親と娘にテーマを据えた物語を楽しめます。未知の映像+スコット的には1から始まるヒーローのオリジンとして、映画第一作のアイアンマンに通ずるところもあるんじゃないかな。
 書きたいことは幾つもあるのですが、今日は一先ず、二人のセカンド・チャンスマンとクロス・ダーレンの正体と、他のマーベル・シネマティック・ユニバースでない映画も関わってくる小話を書いてみます。

 なお、今回はネタバレ無しなので、フルオープンでいかせていただきます。

 過ちを犯さない人なんていない。そして人間は誰でもやり直す機会、“セカンド・チャンス”を持っているんだ――
 刑務所から出所後、職すらマトモに就けない元犯罪者。離婚した結果、愛する娘とは離れ離れ。にっちもさっちもいかなくなった男、スコット・ラングがこの映画の主人公なのですが……彼を支える先代のアントマンであるハンク・ピムもまた、彼に似た男でした。様々なところから追い出される形で世捨て人となり、自身で作り出してしまった物に戦々恐々とする天才科学者。妻の死を経た結果、愛する娘と心は離れ。にっちもさっちもいかない状況だったのは、ピムもまた同じ。自身と似た状況にあり欲する才能を持っている男をピムは求め、追い詰められていたスコットは自分が使い捨て同然だと知りつつ受け入れる。スコットと出会うことで、ピムもまた最後のやり直す機会を得たのです。
 偏屈な老人と短慮な若者。二人のアントマンの元に訪れる、セカンド・チャンス。彼らがその機会をどう活かして、やり直していくか。それがこの映画のテーマの一つだったのではないかと。

 今回ヴィランとして選出されたのは、ダレン・クロス。率直に言って、マイナーなヴィランです。そもそも二代目アントマンであるスコット自体、かなりのマイナー寄りなのですが。原作のダレン・クロスと映画のダレン・クロスは、ビジネスマンという下地は同じでも、能力や動機は全く別で……完璧超人な新世界の神と、ドルオタになった新世界の神レベルで違います。映画の下地の一つである、コミックスにおけるスコット・ラングVSダレン・クロス。これはその決戦回の表紙ですが、アントマンと対峙しているこの男こそがダレン・クロス。一目見ただけで、その違いがわかるかと思います。

スコット・ラングVSダレン・クロス

 そんな彼が選ばれた理由があるとしたら、ダレンはスコットが二代目アントマンになった切っ掛けとなる男であったこと。二代目アントマンの数少ないライバルヴィランであること。今までの映画のヒーローとは違い、スコットのライバルは少なめです。ライバル駄々余りでローグスギャラリーもマンモス化しているバットマンやスパイダーマンと比べると、本当に少ないです。消去法でダレンが選ばれたというと、元も子もないのですが。
 ただ、ダレン・クロスの名はあくまで一要素でしかなく。この映画のダレン・クロス、イエロージャケットは原作で形作られたアントマンという存在に対抗できる要素を一纏めにした結晶です。まず名前であるイエロージャケットは、初代ハンク・ピムが追いつめられた際に生み出したもう一人の人格にしてヒーロー。そして、破綻や暴走の象徴ともなった存在。そのスーツのハイテクさと攻撃的なデザインは三代目アントマンであるエリック・オグレディのスーツのライン。

映画版イエロージャケット

アントマン3(エリック・オグレディ)

 二代目アントマンのヴィランであるダレン・クロス+ハンク・ピムの破綻の象徴としてのイエロージャケット+今までのアントマンの性能を超える三代目アントマンのスーツ=映画のダレン・クロス(イエロージャケット)
 こうやって数式っぽくしてみると、ただのダレン・クロスの実写化でないことが、わかっていただけるかと。マーベル映画には複数の原作要素を組み合わせたキャラが多数出てきましたが、ダレンの設計思想と映画ヴィランとしての完成度は、五指にいれたいところです。
 
 アントマンがとっつきのよい作品というのは先程述べましたが、このアントマンに期待されているもう一つの役割は、新たな入り口なのだと思うのですよ。アイコン化しているアイアンマンやキャプテン・アメリカとは違う、別の全く新しい入り口。コミックスでの知名度に頼っていない入り口。おそらく同じカテゴリーに入るのは、数年前まで無名キャラだったスターロードをリーダーに再編成したガーディアンズ・オブ・ギャラクシー。マイナーチーム止まりであったビッグヒーロー6(ベイマックス)辺りです。
 実のところ、本国のアメコミ業界も新規参入層の不足やファン層の高齢化に先鋭化と、規模は大きいながらも、日本と同じ悩みを抱えているんですよね……いやなんか向こうでスゲエ流行っているイメージありますが、市場規模は徐々に下がり気味かつどんどんマニア化しているのが現実です。そもそも日本みたいに、老若男女がみんな漫画を読む国のほうが珍しく。メインの客層は、子供かマニアです。そもそもコミックスの人気を映画に持ってくる流れだとしたら、主人公はハンク・ピムでしたでしょうしね。スコット・ラング、確かアントマン制作第一報の時点で、原作だと絶賛死亡中でしたし。これもすごいし不遇な話だ。
 コミックスで不遇気味だったキャラの抜擢は、この現状を打破するための映画側の挑戦なんじゃないかと。コミックス側としては、優良顧客を切り捨てるのは難しいでしょうが、広い層に訴えかけていかないと詰み確定の映画側としては四の五の言ってられないですからね。有名キャラを使ってめんどくさいことになるよりは、手垢のついていないキャラを使って新鮮味を演出、そして今まで引っかからなかった層の掘り出しにかかる。
 これからしばらく、マーベル・シネマティック・ユニバースは有名キャラの映画が続くのですが……そのうちまた、こういう覚悟を決めた入り口を改めて作ってほしいところです。正統派もいいけど、やはり破天荒なキャラの映画も……あ。来年は、マーベルの核弾頭にして映画X-MENシリーズの最終兵器デッドプールがあったわ。よし! まだこういう予想だにしない面白い入り口、たんとあるぞ!

日々雑談~1936~

 昨日は更新出来ず、すみませんでした。技術的な都合で、管理ページへのアクセスから不可に。原状回復したので、最近の抑え気味ペースなものの、通常営業開始です。いやしかし、告知も出せない事の、もどかしさを知りました。不具合、超怖い。

 ウェブ漫画サイトのマンガボックスにて、アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン エピソード0のマガジン連載時に告知されていた、新連載マーベルゾンビーズについての発表が。名づけてアベンジャーズ/ゾンビ・アセンブル。ディスクウォーズと同じ、日本発のマーベル作品! 作者は、エピソード0と同じ小宮山優作先生。こりゃあ、最高に面白い展開だな! 邦訳もいいけど、こういう日本制作の作品には、なんとも言えないドキワク感があるし! アベンジャーズが新たに直面するゾンビ騒動。映画準拠のメンツで推し進められたら、それはそれで新しいドラマが見れそうな。元祖は世界観が広い都合上、個々のドラマが薄めだったというか、もう開始時点でゾンビだったしなあ……。さあて、ネットの上のボールは、底なしの絶望と光ある絶望の、どっちに転がるかなー。

 昨日のアルティメット・スパイダーマン:ウェブウォーリアーズはアントマン回。映画連動とするには、(日本的に)少し早めの登場となりました。アントマンによるミクロの決死圏、ディスクウォーズでも登場しなかったので、非常にわかりやすい能力のデモンストレーションだったのではないでしょうか。中の人に関しての描写は薄めでしたが、アルスパのテンポだと、そのへんの取捨択一は仕方ないかなと。直球なヒーローらしさから観て、映画に出る、二代目アントマンことスコット・ラングだとは思うのですが。つーか、ピムやエリックは若干ひねくれてますしねえ。
 こんなこともあろうかと!で大活躍だった、アマデウス・チョー。何気に彼もまた、アントマンに縁のあるヒーロー。本人がアントマンになったわけではないですが、当時遺品であったスコットのヘルメットを装備し、テレパシー能力を使用していた時期が。アニメでもテレパシー用のヘルメットを渡していた辺り、この辺を加味してのチョー大活躍でもあったのでしょう。だとしたら、芸細かいなあ!

アマデウス・チョーとヘルメット

 

日々雑談~1864~

Marvel’s Ant-Man UK trailer 1 OFFICIAL

 驚き桃の木山椒の木、一気に時を渡りきり、ついに出た出たやっと出た! 地球のアイドル、アントマン! 試作映像で見せていた自由自在の縮小アクションを、更に高めたような映像の数々。ホント、監督降板の時はどうなるかと思ってましたからね!
 それにしても、映画アントマンのイエロージャケット。ハンク・ピムのイエロージャケットより、全体的なラインは三代目アントマンのエリック・オグレディに似ているね。背中のアームランチャーなんか特に。

イエロージャケット

アントマン3(エリック・オグレディ)

 ヒーローサイドはアントマンとなるスコット・ラングにハンク・ピム。ヴィランサイドではスコット・ラングの敵であったダーレン・クロスが三代目アントマンに似たイエロージャケットと称されるスーツを着る。原作アントマンの要素、目白押しですな。なんつーか、ヒーローとしては問題点のあった三代目アントマンや、精神分裂の結果生まれたイエロージャケットがヴィラン側というのが深く……いやまあ、三代目もイエロージャケットも、そこまで全力全開でひどくはないし、良いところもあるけどさ!
 しかし映像は文句なしに凄いけど、このある種ワンオフなアクション、上手くアベンジャーズに合流できるのかしら……。