2011年1月24日
/ 最終更新日 : 2011年1月24日
fujii
小説
孤島の屋敷で、男が殺されていた。自室に篭っていた男は、頭を撃たれて死亡。床に巨大な血溜まりを作っていた。後頭部から額を貫いた銃痕に、この出血量。確認せずとも、男が死んでいるのは明白だった。
「さ、殺人事件だと!? 嵐で島が封鎖された状況でか!?」
「まるで小説か漫画のようですわ……」
メイドの叫びを聞きつけてやってきた、屋敷の人びとがそれぞれ呟く。
「この男は、一番最後に島にやってきた男ではないですかな。ずっと怪しい覆面を被っていた、あの」
「確かに見覚えがない顔ですなあ。いやはやそれにしても、酷い素顔だ。これならば、覆面を脱がなかったのも納得です。確か、食事の時も脱いでませんでしたな?」
大火事にでもあったのか、薬品でも被ったのか。とにかく、男の素顔は醜いものだった。自室だから、気を抜いて素顔でいたのだろう。まさか彼も生前、その素顔をこうやって衆目に晒すハメになるとは、思ってもいなかったに違いない。
「とにかく皆様、一度ロビーに戻りましょう。ひょっとしたら、彼を殺した殺人鬼が、まだうろついているかもしれません」
「殺人鬼だなんて、恐ろしい!」
屋敷の支配人が提案し、全員ロビーへと向かう。
「殺人鬼だなんて……わたしたちも早く行かないと」
発見のショックで気絶していたメイドを介抱していた少女が、最期まで残っていた少年を促す。だがしかし、少年は動かなかった。
「どうしたの? 早く行こうよ」
「殺人鬼なんて、ホラー映画の存在がいるわけない。これは殺人事件だ」
「……それってつまり!?」
「ああ。犯人は、あの中にいる!」
正体不明の殺人鬼などではない。もっと狡猾で残酷な犯人は今、リビングで一般人の皮を被って震えたフリをしているのだ――。
探偵役の少年と少女も立ち去り、被害者以外無人となった部屋。
むくりと、唐突に起き上がる死んだ筈の被害者。血で汚れた服を脱ぎ捨て、シャワーを浴びる被害者。シャワーを浴びた後、パンツ一丁の格好で冷蔵庫のコーラを飲む被害者。一息ついてから、部屋を見渡す被害者。とりあえず、本当に殺人鬼が歩き回っていると危ないので、ドアや窓の鍵をきっちり締め直す被害者。すっかり忘れてたと、脱いでいたマスクをかぶり直す被害者。
「いやー、孤島で殺人事件だってさ。なんとなく空気を壊しちゃいけないなって、思わず死んだふりをしちゃったぜ! しかしアレだなあ。一体オレは、誰に殺されたんだ?」
被害者のウェイド・ウィルソン氏、すなわちデッドプールはコーラを飲み干し、率直な感想を述べた。
「この事件こそが、後に名探偵デッドプールと呼ばれる男にとって、900番目の事件だった……」
後々不安になるようなナレーションを、わざわざ自分で付け加えて。
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