Deadpool&TaskMaster~伝統芸能総本家~

 街を歩く彼を見て、誰もが振り返る。それは決して、彼が外人だからという訳ではない。
「デッドプール、INニッポーン! リターンズ!」
 中身が日本人だろうとなんだろうと、変な赤タイツを着たオッサンがハイテンションでスキップして、時折バレエのようにくるくる回りつつ移動してたら、誰だってちら見するし道を開ける。先程は、ヤクザもそそくさと避けてくれた。
「ニッポンの皆さん、コンニチワ。好きな食べ物はオスシ、ニンジャとゲイシャに会いたいデス。もうこーんなハリウッドアッピール!もいらない昨今。だってオレちゃん、日本デビューしちゃったからね。地上波で! 動画配信で! さあ見ろ見ろ、ニッポンよ! コレが、デッドプールだ!」
 かけられたタスキに金字で書かれているのは、“ディスクウォーズ 人気ナンバーワンヒーロー!”の称号。まるで宴会部長か今日の主役か、デッドプールは三次会の大学生レベルで浮かれ狂っていた。
「ディスクウォーズで1億5千万人のファンが増えた以上、今後露出は増やして行くべきだと思うんですよ。なんなら脱ぐことも厭わないので、コロコロは近日中にヌードピンナップのスペース開けとけよ!?」
 出版不況の荒波を乗り越えてきた、児童漫画雑誌潰す気か馬鹿野郎。
「ああん!? ヒップとかシットとか、子供にバカ受けなシモネタお下品なんでもありな雑誌に、全裸載ったっていいだろうがよ!? いや待て待て、全裸でオレちゃんがピシっとポーズを取ったら、その裸身はシモネタではなく芸術? おいおい、ありがとうな地の文。オマエのお陰で間違いを犯さずにすんだよ」
 極楽な勘違いをしているデッドプールは、ええじゃないかばりに踊り狂ったまま、目的地に到着する。
「この間、かのディスクウォーズも放映している大放送局テレビ東京にて日本の職人ピックアップな番組やってたんだけどさ、ハポネスの凝り性というか職人技すげえわホントーって事で、せっかく日本にいることだし、オレちゃんもそれを体感したくなりました!ということで、コンニチワー」
 ガラガラと引き戸を開け、中に入るデッドプール。やってきたのは、包丁やナイフがショーケースに飾られている、刃物の専門店だった。
「いらっしゃいませ……!?」
 一歩間違えれば強盗の格好をしたデッドプールにおののく店主、思わず机の下の警報ボタンに指が伸びかける。
「ワーオ! リッパーパラダイス! ちょっと聞きたいんだけどさ、ここって刃物研いでもくれるんだよね? 最近、使っている物の切れ味が落ちまくっててさー。だからメンテのついでに、職人技を体感してみたくてね」
「はあ、当店でも研磨請け負っておりますが、あまり特殊な物は対応できないので、一先ず品をお見せしていただけますか?」
「オーライ! 頼んだよーチミ」
 デッドプールの背中やタイツの下にベルトのポケットから、出るわ出るわの刃物類。日本刀、ナイフ、手裏剣、クナイ、サイ、ポケットモンキー……は間違いだったのでポケットに戻す。形大きさ、特殊すぎる刃物類。唯一ある共通点は、どれも使い込まれていて、凶器として扱われた痕跡があることぐらいだ。
「最近、出番が多いせいで、手入れ怠っちゃってさー。ダメなら新しいの買ってもいいから。でもこの日本刀は大丈夫だよね? 血がついてるとは言っても、デケえサメとナチス残党ぐらいしか斬ってないし。ああ、こっちのナイフはボブの膝に」
 デッドプールの言葉を遮り、鳴り始める警報。這々の体で逃げ出す店主。近づいてくるパトカーのサイレン。
「おいおい、いくら自分のところで請け負えないからって、店の自爆スイッチ押すコタぁ無いだろ? パラメーター“恥”が70以上になったら、HARAKIRIする民族なだけあるわー……」
 やって来た二人組の警察官に両手を引きずられ連行されても、デッドプールの口は止まらなかった。

 雪が残る山奥の道を、一人歩くデッドプール。人気はないもののアスファルトで舗装された、真新しい道。いかにも、近年における田舎の幹線道路だ。
「というわけでオレちゃんは、飛騨山中だか大雪山だか富士山麓オウム鳴くだか、まあとにかく山奥に来ております。この自然の中では、野暮な横槍などありえるはずもなく……」
 ガードレールに貼り付けられていた、真新しい指名手配犯のポスターを剥ぎ取る。謎の赤覆面の逃亡犯が描かれたポスターを、くしゃくしゃに潰しておいた。
「実はこの山奥に、その筋では知れた伝説的研師が居ると聞き、やって来たわけですよ。不法逮捕から逃れた後、改めて包丁屋に誠心誠意込めて聞いたのだから間違いない! いや店が吹っ飛んでなくて、一安心ですよ。あと、この国の警察の捜査力、ハンパねえわ」
 道から逸れ、獣道同然の山道に足を踏み入れるデッドプール。山を越え谷を越え、僕らの街にはやってこない。数時間の山道を踏破したデッドプールは、山間にひっそり佇む藁葺き屋根の家を発見した。脇にある畑を迂回し、井戸からバケツ一杯水を頂戴しがぶ飲みした後、デッドプールは家の木戸をゴンゴンと叩く。
「突撃! 隣の晩御飯! 研師サン、ドーモハジメマシテ、デッドプール=サンです!」
 ドンドンドドン、ダダドドン! 出ないうちにだんだんとリズム良くなっていくノック。いい加減にしろとばかりに、戸が勢い良く開いた。
 出てきたのは、デッドプールと同じ外国人であった。茶色い髪を軽く固めた、渋みのある中年の男。青い作務衣を着て出迎える姿は、職人というより弟子に見える。
「んん?」
「ゲッ!?」
 デッドプールもその男も互いの顔に見覚えがある様子だった。
「アンタ、何処かでーっていうか、タイトル読めばオレちゃんも読者も分かるんですけどね」
「相も変わらず、ワケのわからん事を……何故、貴様がココに!? 帰れ! 邪魔をするな!」
 コツーンと、後ろから飛んできた竹筒が、扉を締めようとする男の頭に当たる。
「ここまで直に足を運んでくれた客を、返そうとするな。山から降りてワシに来いという客モドキより、数倍マシな男じゃ」
 中にある囲炉裏の前に居たのは小柄な老人であった。背を丸めているため更に小さく見えるが、その小さな身体からは言い知れぬモノが溢れ出ていた。
「えーと、アンタが研師さん?」
「そうでないと言ったら、どうするかね?」
「そうでなかったら、この獲物を担いで憂さ晴らしにクマを退治しに出かけて姥捨山のババアと出会う、デンデラルート突入開始」
 家に入ったデッドプールは、再び武器を土間にぶちまける。血糊のついた武器の大披露、だが研師は、慄くことなく武器を見つめていた。
「なるほど。そういう客か……。よかろう、ワシの得手である日本刀以外も、面倒を見てやろう」
「話が分かる老人! 尊敬して神棚に祭りあげたい!」
「よしてくれ。ワシは死ぬまで働きたい。お前の武器のように、使われ続け果てたいんじゃ。だがいかんせん量が多い、しばらく時間がかかろう。この家に泊まっていくが良い。トニー、奥の一部屋を開けてこい」
「ですが、こいつは」
 反論しようとする男、トニーを老人は眼光で黙らせる。トニーはしずしずと、部屋の準備に向かった。
「頑張れよ! トニー・マスターズ! 研師さん、アイツ弟子?」
「一応はな、数日前貴様と同じように山を登ってきて、ワシの技術を学ばせてくれと言ってきおった。なので、内弟子としてあつかっておる。ところで貴様、今やつの苗字を呼んだな? 知り合いか?」
「まあねー。結構長い付き合いの、同業者ですよ。ぶっちゃけタイトルの時点で、ネタバレなんですけどね」
 デッドプールは、身体を振った後、タイツの下、股間の方にまだ残っていた小太刀を研師に渡す。
「危ないしまい方しとるのう」
 研師は小太刀の縮れ毛を嫌そうに指で弾くと、武器を抱え作業場らしき場所へと向かった。 

 しばらく部屋で待っていろ。研師にそう言われたデッドプールは、素直に言われた部屋へと向かう。入口となる木戸を開けた途端、首に押し当てられたのは両刃の剣の刃だった。
「お客様にやることじゃあ無いだろうよ」
「お客様でなければ、とうに首を掻き切っている」
 部屋の中で待ち構えていた、髑髏が喋る。青いボディースーツに、髑髏の仮面と白ケープ。装備している剣と盾だけではない。身体のあちこちに暗器が、それ以上に身体には多彩な技巧が染み付いていた。
 タスクマスター。一度見ただけで、相手の技能を盗める、技の狩人。覚えた技は強力な武器となり、更にはその卓越した指導力による伝授で、他者の武器ともなる。教官にして傭兵、彼にとってデッドプールは仇敵であり旧知であり、教師であり教え子であり。端的に言えば、腐れ縁であった。
「掻き切っても、オレちゃん一行待たずに復活よ? ゆうていみやおうきむこうほりいゆうじとりやまあきらぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ! もょもともビックリな復活具合!」
「流石に斬った頭を、サッカー選手のキックで飛ばせば、おいそれとは甦れんだろうが。まあいい、どうせもう我輩は出て行くつもりで居たからな」
 タスクマスターは、自ら剣を引いた。
「とっころでタスキーなにしてるん♪」
「なぜリズム良く聞いてくるのか。我輩の目的など、一つしか無いだろう?」
「金儲け?」
「……それが第一なのは認めるが、違う。すまん、こっちが悪かった。目的といえば当然、技を盗むこと」
「それで住み込みの弟子になってたのかよ。でも、なんで?」
「一つ聞くが。お前は例えば、長期の任務で砂漠や密林、おいそれと補給が受けられない場所で、一番何に困る?」
「うーん。留守中にレコーダーがちゃんと動いているかどうかかな。連続ドラマってさ、一回見逃すとよく分からなくなるし。MARVELドラマのエージェント・オブ・シールド、派生キャラが超大人気なデスストロークが出てくるArrow。絶賛好評……放映とかレンタルとか! とにかく日本でも色々やってます!」
 このデッドプールの勤勉な宣伝力。とにかくまあ、ガツガツしている。
「そうだな、武器の維持だな」
 付き合っててもしょうがないと、スルーなタスクマスター。
「お互い、刃を武器とする者。切れ味の維持が難しい事はわかるだろう?」
「そうだなー最近は、紫ゲージでないとキツいから、匠必須だよなあ。でも、白ゲージが素で長い武器なら、業物もとっぱらっての攻撃仕様にした方が、意外と早く狩れたりするぜ? 砥石高速化を保険で付けておくのはアリだけど」
 噛み合っているようで、全く噛み合っていない会話だ。
「汎用武器であるナイフ、それを使う生徒たちへの必修。そして自分用の技術として、日本の精密な研ぎの技術が欲しかった。まあ既にだいたい、いただいたがな! 貴様が来たのがちょうど良い機会だ。我輩、帰らせてもらおう」
 デッドプールの脇を通り、部屋の外に出ようとするタスクマスター。
「技を盗んだってオメーその、勝手にだろ? もっとほら、こうさあ、魂の伝授?みたいな教え、受けなくていいの?」
「そんなセンチメンタルは必要無いな。技術だけあれば良いに決まっている」
「ですよねー」
 打算的であり現実的、タスクマスターとはこういう男である。デッドプールもそれは十分にわかっていた。わかっていても、こういう魂とか伝授とか、カッコイイ台詞は言ってみたかった。
「そうそう。最後に教えといてやろう」
「タダで?」
「それ以上言うと、有料にするぞ。この研師、血に慣れていたのを見れば分かるように。それなりの組織に属していた人間だ。腕前はまだ上等、なのに山奥。組織は必死で探している。騒がしい男である貴様が来てしまった以上、近い内に追手が殺到するだろうな」
「ほーーーふーん」
 忠告に対し、やけに気のないデッドプールの返事。
「もしその場に居たら、守ってやるといい。感謝ぐらいはされるだろうよ」
 餞の言葉を言い残し、立ち去ろうとするタスクマスター。その眼前に、突如手裏剣が迫ってきていた。
「なぁ!?」
 咄嗟に盾で手裏剣を受け止めるタスクマスター。続けざまに天井を突き破り、忍者が落ちてきた。忍者の顎を砕く踵。真上に突き出されたタスクマスターの蹴りが、忍者を破砕した。この動きは、アイアンフィストから学んだ、カンフーの技である。
「いやさあ、山登っている最中から、怪しい気配はしてたんだわ。近い内? 違う、今でしょ!」
 近接武器を研ぎに出しても、まだ銃がある。廊下の先から手裏剣を投げてくる忍者に、デッドプールは銃弾で対抗する。
「やっぱり巻き込まれた! 貴様と会うと、いつもコレである! ええい! 師は無事か!?」
 勝手に頂戴したものの、一応研師を師と呼ぶくらいの敬意は持っているらしい。まあ、敬意はいくら抱いても無料、懐は傷まない。
「もしその場に居たら、守ってやるといい。感謝ぐらいはされるだろうよ」
 どっかで聞いたような、デッドプールの台詞だ。
「ああ分かった! 行き掛けの駄賃だ! ロハでやってやる!」
「いけしゃあしゃあとよく言いやがるぜ。技術、盗んだくせに」
 再び現れた忍者の首根っこを掴み、外に飛び出すデッドプール。タスクマスターはその場で剣を振るい始める。
 敵の総数が分からない現状、多少のダメージは気にしないデッドプールが宵闇の外を担当し、多彩な技巧で狭い室内でも対応できるタスクマスターが室内に留まる。一流の傭兵同士なのか、無駄に長い縁のおかげか。とにかく、それなりのチームワークはある、コンビだった。

 大半の武器を渡してしまった上、あまり弾を持ってきておらず、銃火器すら満足に使えないデッドプール。いわばほぼ無手の状態だが、それでも彼は十分以上に、謎の忍者軍団とやりあっていた。
「下にまいりま~す!」
 腹を刺しに来た忍者の攻撃をそのまま受け止め、胸ぐらを掴んで近くの井戸に突き落とす。続けざまに落とす、赤子の大きさぐらいの石。ゴチン!と派手な音がして、その後井戸からは物音一つしなかった。
 腹に刺さっていた忍者刀を引き抜くと、追撃してきた別の忍者を胴より両断する。荒い使い方だったせいか、忍者刀はそのまま折れてしまった。
「よく頑張った! 感動した!ぐらいに働いてくれよなあ」
 そう言いつつ、折れた刀を忍者の首筋に刺している。少なくとも使い手は、刀を使い潰そうと頑張っていた。
「おいおい、使い潰すぐらい甘いぜ? 真の達人は、武器を……選ばない!」
 真の達人を自称するデッドプールが選んだ武器は、畑から引きぬいた長ネギであった。お前は、何処のボーカロイドだと言うしかない武器である。
「うぉぉぉぉぉ! オレちゃんの戦いは、これからだあ!」
 自分から向かっていく勢いで、ネギで次々と忍者を殴り倒すデッドプール。ネギと言いつつ、殴っている部分は拳だが。それでも、折れてしまうネギ。移動先に居た忍者の腹に膝蹴りをぶち込むと、折れたネギでむりやり忍者の首を絞める。
「風邪予防にはネギ! 暗殺予防にもネギィィィィィ!」
 ネギで絞め落とされる忍者。たとえ無手でも、武器はまだまだある。次にデッドプールが握ったのは、大根であった。

 神速の斬撃が、忍者を数人纏めて切り捨てる。家の中を移動しつつ、忍者の相手をしていたタスクマスター。実験用として、自らで研いでいた結果、今宵の剣はよく斬れた。
 今彼が居るのは、作業場に直結している居間であった。
「ザ・ハンドとも違う。流石は日本、未知の忍者軍団の産地か!」
 盾で直接忍者を殴るタスクマスター。しかしこの位置は、危険であった。
「やかましいぞい! 何を騒いでおる!」
 研師が、作業場より出てきてしまう。居間に居た三人の忍者が、目的の研師めがけ殺到した。
 タスクマスターは、まず一人に剣を突き立てる。だがしかし、その忍者は、自らその体に刃を押し付けた。自らの命を使い、タスクマスターの動きを、剣ごと止めるつもりだ。
 思惑を見切ったタスクマスターは、剣を自ら捨て、忍者を蹴り飛ばす。投擲される、シールド。キャプテン・アメリカ仕込みの投てき術は、円を書く機動で、二人の忍者を撃破した。だが代償として、シールドが壁に突き刺さってしまった。
「お前、トニーか!?」
「その話は後で! だがコレはマズいな……」
 タスクマスターは、研師を背でかばう位置に立つ。室内に再び侵入してくる、新たな忍者。剣と盾を失ったタスクマスター。現在、室内に合う武器が手元に無い。弓矢も徒手空拳も、室内で複数との戦いを強いられている状況への適性があまり無かった。しかも、立場上研師を守らねばならない。
「!? コイツがあったか!」
  天啓は、作業場に置いてあった大きな金槌よりの物であった。大ぶりの金槌を拾ったタスクマスターは、力強い動きで、殺到する忍者を撲殺していく。
 残り一名までなった段階で、いよいよ逃げ出す忍者。その背に投げつけられた金槌は、正確無比に忍者の背骨に直撃した。
「流石にムジョルニアのようには戻っては来ない。念のため、マイティ・ソーの動きを覚えておいて、助かったのである」
 戦神にして雷神マイティ・ソー。神として剛力をふるう彼との相性はあまり良くないが、対策となることも含め、タスクマスターはソーの動きを記憶していた。
「なるほど。奴らが着たのか。ありがとうよ、トニー。して、お前のその格好は?」
「話せば長いことだが、話さぬワケには行かぬだろうな」
「長い話の前に、一先ずコレを受け取ってくれ。最低限の、研ぎはしておいた」
 研師は、タスクマスターにデッドプールの刀を一振りだけ手渡した。

 デッドプール初めての苦戦。原因は、鎧兜で身を固めた、襲撃犯の首魁らしい男であった。
 腹に刺さった槍のせいで、いいように振り回され叩きつけられるデッドプール。腹から必死で槍を引きぬくが、結局不利な状況は変わらなかった。相手の技術は優れているが、デッドプール程ではない。一番の問題は、現在手元に鎧兜を貫く手段が無い事だった。
「畜生めえ! こういうの、一番悔しい! くやしー! でもまあ、そろそろ起死回生の手段が飛んでくるはずだよね! そろそろ終わりが見えてくるタイミングだし!」
 デッドプールの期待通り、飛んできた愛用の刀。タスクマスターが投げた刀は、デッドプールの脳天にスコーンと突き刺さった。
「デッドプール、新しい顔よ!って!? 日本のアニメ、分かってるねータスキー」
 全然気にも留めず、デッドプールは頭に刺さった刀を抜く。
「さあてお立ち会い。今現在眼の前に居るのは、試し切りの標的でございます。ささ、日本の匠の力が、今ここに!」
 突き出される槍を踏みつけ、デッドプールは跳ぶ。振りかざした刀が狙うのは、敵の正中線。刃は、鎧兜をすうっと通り、地面に突き刺さって止まった。
「おいおい。恐るべき、バーチカルなギロチン。小説だからって、ディスクウォーズじゃないからって、大人向けにぶっ飛び過ぎじゃあないですか!?」
 鎧兜どころではなく、背骨を初めとした硬い人体まで寸断してしまった。難敵が、真っ二つとなって絶命している。本物の研師の力に、流石のデッドプールも呆れるしかなかった。

 忍者軍団を完全に退けた後、居間にて改めて話す、デッドプールとタスクマスターと研師。デッドプールが居たせいで、横道にそれまくったものの、なんとかタスクマスターの狙いと能力に関して、研師に説明することが出来た。
「話は分かった。世の中を知っているつもりだったが、そんな能力を持つ男がいたとはなあ」
「で、どうします? 秘伝を盗んだ相手、目を潰したり、腕を切るぐらいはありなんじゃないかと。なあに、オレちゃんだったら、すぐ元通り。バツとしてのハードルは低いよね!」
「待て。そのハードルの低さは、お前にとってだけだ」
「まあよかろう。目で見て盗んだだけの相手に、目くじらを立てても仕方ない」
 研師は、存外大らかであった。元より、こういう仕事は目で覚えてきた物。そして、複製能力があったとしても、タスクマスターは目と脳以外使っていない。こう考えれば、怒る筋合いはなかった。
「だがしかし、もし罪悪感があるならば、付き合って欲しい場所がある」
「特に無いな」
 言い切りやがる、タスクマスター。
「言い方が悪かったな。お前の得となる話がある」
「ほう。それなら聞くぞ」
「打算的な話になると、タスキーってオレちゃんよりヒッドいよね」
「もっと言ってしまえば、こっちにも得になる話だ。一先ず、山を降りよう」
 研師は、身支度をするため立ち上がった。

 十数時間後、タスクマスターの目の前にいたのは、研師と同年代に見える老人であった。下山した研師の連絡を受け、レンタル式の会議室に集まった彼らは、皆期待に満ちた目でタスクマスターを見ている。
「これは一体!?」
「皆、ワシと同じ職人じゃよ」
 鍛冶職人、飴細工師、染め物職人……様々な日本の文化文明の職人たち。彼らは誰もが、その道で一流と呼ばれる職人であった。
「貴様のコピー能力で、彼らの動きを覚えてほしい」
「正気か?」
 それはつまり、長年の経験で培ってきた技巧を売り渡すような話である。
「正気も正気、大正気よ。人間いつか死ぬ。そして、ワシらも死ぬ。鍛えぬいてきた技術と一緒に。だがな、先人もそうだが……技術というのは継がせる事で、永遠に生きる。不幸にも後継者が見つからない昨今、一先ずお前に、我らの技術をコピーしておいて貰いたい」
「……やはり、こういうことには技術だけではない。魂が必要なのではないでしょうか」
 すっげえ面倒くさそうだと、タスクマスターは逃げに入る。
「魂なんぞ、やってる内に宿ってくるわ。幸い貴様には、優れた指導力があるとか。我らの技術を、他人に譲っても一向に構わん」
「だがしかし」
「ちなみに、ここにいる職人の中には無形文化財レベルも居る。もし何か不幸があった場合、同じ技術を持つ人間は重宝され、言い値でいくらでも払うぞ!となる人間も盛り沢山じゃろうて」
「不詳タスクマスター! 皆様の技術を、安全確実に保管させていただきます!」
 タスクマスターは、ビシッ!と敬礼までして請け負ったことをアピールする。手のひらのネジがぶっ壊れているどころか、完全に抜けていてグルグル回っているような状態である。
 やいのやいのとタスクマスターの周りに集まる職人たち。継承と伝授の光景が、今ここで複数、一人の男を中心に繰り広げられようとしていた。

「一旦待って!? オレちゃんの、オレちゃんの出番ないよ!? このまま締めってえのは、許されないでしょう!? Deadpool&TaskMaster! 分かる、先に来ているのはオレちゃんなのよ!?」
 大団円に終わりそうな空気に、口出ししてくるデッドプール。なんとなく付いてきてしまったが、完全に出る幕がない。こうなったら、会場ごと吹き飛ばしての全滅爆発オチしか無いか? デッドプールがありったけの爆弾を取り出そうとしたその時、
「ほれ。専門外の物も、なんとかやっておいたぞい」
 研師から、預けておいた武器が返って来た。どれも皆、血や錆が落ち、純粋に輝きが増した、素晴らしい研ぎ具合だ。
「わーサンキュー研師さん! 爆発オチじゃなくて、惨殺エンドへのフラグ立っちゃったよ!?」
「惨殺も悪くはない。ただし、外にいる連中を相手にしてくれ」
「外!?」
 窓に駆け寄るデッドプール。窓の外には、山で撃退した忍者だけでなく、刺青に黒服に戦闘服と、様々な組織の連中が待ち構えていた。
「脛に傷持つワシの知り合い、当然脛に傷持つ連中が多い。皆について回っているこの傷を、是非とも取り除いて欲しい」
 研師に言われるより早く、デッドプールは窓より飛び出していた。
「タスキーに、全部やられちゃしょうがない。さあ来い、テメエら! デッドプールの冒険はこれからだ! 応援ありがとう!」
 いかにも打ち切りな台詞を吐いているデッドプール。書いている人間としては、勝手に最終回にされても困るというのが、本音であった。