クラスはアサシン、名は佐々木小次郎と意味づけられたサーヴァントの役割は主の本拠の門を守る事。今日も一人、侵入者が石段の下に現れた。侵入者はバイクに乗ってこちらを伺っている。侵入者はやけにゴテゴテと飾りをつけたバイクに乗っていた。フロントの両脇についた二つのスクリューにはどんな意味があるのだろうか。
　石段はバイクでは登れない、そう小次郎も決め付けていた。だが、侵入者は石段をまるで平地を走るがごときスピードで駆け上がってくる。坂としてみても、この柳堂寺の階段は急だと言うのにだ。バイクはすぐに山門の直前にさしかかる、小次郎の愛刀の鞘が地面に落ちた。
　不可視であり、不可避であるという都合の良すぎる魔剣燕返し。三重の刃が疾走するバイクに向け放たれた。一つ目の刃はバイクの前輪、二つ目の刃は運転手の両腕、三つ目の刃は運転手の首。それぞれが受け側にとって致命傷である部位。己が剣技の集大成を放った小次郎が、皮肉げに笑った。
「さて。バイクという乗り物が、飛ぶ物だとは知らなんだ」
　バイクは直前で宙に飛んでいた。高速のバイクと小次郎の狙いのズレが生んだ不可避の歪み、歪みを山門ごと飛び越えたバイクは柳堂寺の境内に着地した。

「なるほど、確かに妙な雰囲気だな」
　己の愛車であるクルーザーから降り、神啓介は境内を一望する。いっけんなんの変哲も無いそこそこ大きな寺院。しかし、人の気配が無さ過ぎる。聞いた話ではこの寺には何人もの修行僧と住職の家族が住んでいるというに。そして山門に居た謎の侍。なんとかまく事ができたが、恐ろしいまでの剣の冴えだった。まともに対峙していたらどうなっていたか。あれほどのつわものが門を守っていたのだ、やはりここには何かが有る。
　カタカタ、カタカタ……
「ん！？」
　物音に啓介が気付いたときには、既に囲まれていた。大きな牙を顔面に備えた白骨の兵士達が周りを取り囲んでいる。手にはそれぞれ大刀を携えていた。
「貴様ら、何者だ！？」
　白骨の兵士は答えようともせず襲い掛かってくる、啓介は逃げずに真正面から彼らを迎え撃った。恐ろしい外見をしているが、実力は所詮人より少し上。啓介は素手でどんどんと彼らを打ち砕いていく。最後の一匹を打ち倒した瞬間、巨大なレーザーが啓介を飲み込んだ。
「まったく、ここまで突破してくるから何者かと思えば、サーヴァントじゃないじゃない。てっきりバイクであんな突破の仕方をするからライダーかと思ったのに」
　焼け焦げた啓介を、フードを目深に被った女性が見下ろす。威厳や風格に言い草からして、この女がここの指揮官に違いない。しかもライダーに対して警戒している、やはりここは奴らの基地だったのだ。
「いや、お前の見立ては間違っていない」
　啓介は一瞬で飛び起き、間合いを取る。女は少し驚いていた。
「俺は間違いなくライダーだからな」
「……なに言ってるの？　ウソも大概にしなさい、今回のライダーが女である事は私自身の目で確認してるわよ」
「そちらこそ見え見えの嘘を。俺以外に四人先輩のライダーがいるがみんな男だ。女のライダーなんているものか」
　ワザとらしい嘘でこちらを混乱させようとする。こんな稚拙な策しか立てられない司令官を使うとは、ＧＯＤもヤキが回ったものだ。
「貴様に本物のライダーを見せてやる。セターップ！」
　セタップの掛け声と同時に、啓介の体を銀色のスーツが包む。ベルトに備え付けられたレッドアイザーとパーフェクターを取り外し、それぞれ両手で掲げる。右手に掲げたレッドアイザーはＸマスクの素体に、左手に掲げたパーフェクターを口蓋に取り付けることで変身は完全となる。仮面ライダーＸへの。
　仮面ライダーＸ。暗黒組織ＧＯＤが作り出した、ギリシャ神話の神々を模した神話怪人軍団と戦う銀色の仮面ライダーだ。
「行くぞＧＯＤ神話怪人魔女メディア！」
「なんで私の真名知ってるの！？　って、何よこの展開はー！！」
　ベルトから万能スティックライドルを引き抜き、怪人メディアと対峙するＸライダー。彼はまだ知らない、彼がつかんだ柳堂寺にＧＯＤの影有りと言う情報自体が、ＧＯＤがしくんだ罠であると言う事を――
「ちょっと！　私はどうなるのよ！？」
　とりあえず頑張れ、怪人メディア。

そして数日後――

　相変わらず陰鬱な間桐邸の、桜の部屋にて。
「ライダー。その、疲れてる？」
「……わかりますか、やはり」
　疲労の色がありありと見えるライダーを桜が心配する。現在、ライダーは真のマスターである桜から仮マスターの慎二に賃借されているが、こうして時たま顔を合わせる事がある。別に不仲どころか二人の仲はむしろ親密、顔を合わせるたびにどんどんと疲労を溜めているライダーを見れば心配にもなろう。
「魔力の供給が上手くいっていないとか？　それとも兄さんが無茶をさせすぎるとか」
「慎二に関してなら大丈夫です。最近、キャスターが何者かに倒されたりランサーとアーチャーが相討ちとなったりで膠着状態ですから。慎二も警戒して引きこもってますし、そちらの心配はありません」
　キャスターは柳堂寺に潜伏していたらしいが、何者かに撃破された。よって彼女がマスターであるアサシンも自動的に消滅。巷ではライダーがやったという情報が流れているが、ライダーの身に覚えはないので誤報だろう。アーチャーとランサーはテキストにしたら丸々一話潰すぐらいの死闘の末、お互い相討ちになった。お互いの全てを出し切った死闘だったが、本題から外れるので割愛。
　ちなみに慎二は『主の許可も出ていないのに勝手に敵を倒すサーヴァントなんかと一緒に居られるかよ！　僕は自分の部屋に戻るぞ！　部屋に入ってきたらぶっ殺してやる！』と実に死亡フラグなセリフを残しずっと部屋に篭もっている。一週間ばかし篭もったままで姿を見ていないが、多分確認したら別の話が始まる。密室殺人の探偵モノとか。
「じゃあなんでそこまで疲れてるの？」
「いや、なんといいますかその……変な連中に目をつけられてまして」
「変な連中？」
　ライダー自身も事情がよく分かっていないのか、困惑気味に桜に詳細な事情を説明し始めた。

「なるほど、貴様が新しいライダーか。俺はＧＯＤ神話軍団が一人ネプチューン！　え？　その名は忌々しいって、俺はあくまでネプチューンであって決してポセイドンでは。話せば分かる、話せば……ネプゥ～！！」
ドガーン！！

「ふふふ、俺は鉄腕アトラス。喰らえ、アトラス小地球！　そして中地球、ラストの大地球ー！！　ふふ、グロッキーのようだな。俺様の鼻息式吹き矢で死ぬがよい！　ば、馬鹿な何故動ける？　なに？　鼻毛で死んでたまるかだと？　違う！　あくまで鼻息で飛ばしているだけで決して鼻毛では……ＧＯＤに栄光あれー！！」
ドガーン！！

「まさか俺様を引っ張り出すとはな。俺の名はマッハアキレス！　この俺のジェット機並の神速について来れるかな？　！？　貴様何故俺の弱点がカカトのローラースケートだと分かった！　改名しろだと？　俺の名前のどこに不備があるというのだ。グェー！！」
ドガーン！！

「なんというかこんな感じでぞろぞろと昔なじみの名前を模した敵が……」
　たまにオカルトスだのキャッティウスだの聞いた覚えの無い名のヤツもいたが、基本ＧＯＤ神話怪人を名乗る連中はギリシャの神々の名を語っていた。ヘラクレスなんてのも居たが、バーサーカーが彼を見たらどう思うのだろうか。
「ライダー、そのＧＯＤとかいう人達になにか恨まれることでもしたの……？」
「いえ。全く身に覚えが無いのですが」
「ホホホ、お前のそのライダーという名がいけないのさ」
「桜！　私の背後に！」
　突如窓から聞こえてくる怪しい女の声。ライダーは桜を背に回し、窓を真正面に捉える。窓から侵入して来た毒蛇は、発光すると一気に醜悪な怪人へと変貌を遂げた。言葉遣いからして女、そして怪人の髪は全てが毒蛇。この特徴から見出せるギリシャ神話の人物は……
「この私の石化光線でお前たちを石像に」
「元祖ブレイカーゴルゴーン！」
「クィー！？」
　ライダーの宝具により一瞬で石化する謎の怪人、彼女は名乗るヒマもなくやられてしまった。
「ねえライダーひょっとして今の怪人の名前ってメドー」
「倒してしまった相手の名前などどうでもいいではないですか」
「いやでも多分ライダーをモデルにしたメ」
「と、こんな感じで様々な敵が私を狙ってくるのです。しばらく私は囮になりながら首謀者を探るので、しばし姿を消します。桜も身辺に注意を、それでは」
　石化した謎の怪人を担ぎ上げ、ライダーは窓から退散した。
　ライダーが何処を探るのかは分からないが、聖杯戦争に乱入してくるような組織だ。並大抵の事では尻尾もつかめないだろう。桜は己のサーヴァントの無事を真摯に願った。

同時刻、間桐家の客間では。
「流石は蟲使いがマキリ。よくぞギリシャ古代のくるい虫を養殖してくれた」
「カカカ、なんのこちらも良い経験になったわい。孫の桜が良く見てくれましてのう。最も、なんに使うかは言ってないがのう」
　臓硯は礼金を受け取り、養育を委託されたギリシャくるい虫を白スーツの男に手渡す。
　この白スーツの男の正体こそＧＯＤ秘密警察第一室長、太陽神の幻影アポロガイスト。とりあえず現場範囲でならＧＯＤで一番偉い幹部である。灯台なんとやら。

その頃、ＧＯＤと戦うために冬木市にやってきたＸライダーこと神啓介は。
「どうしたのバーサーカー！？　そんな棒切れ一つ曲げられないだなんて！！」
「■■■■■――」
「せっかく強化再生したのに、やはりライドルは曲げられないか。無様だなＧＯＤ怪人ヘラクレス！！」
「ＧＯＤって何！？」
　やはり何か勘違いしていた。