アメコミカタツキ4 予告

アメコミカタツキ4表紙

 

※予告として、本作収録のプロローグを掲載します。その後、予告です。

 

衛宮士郎。特徴的なのは、ブラウンがかった髪くらいな、お人好しの高校生。彼は今、後輩と共に、市内を散策していた。
「うーん。虎柄は無いとしても、この青色か紫色かで、悩みます。先輩はどっちが良いと思います? ……先輩?」
新しいエプロンを買いたいから、相談に乗って欲しい。その申し出の通り、店の軒先にかけられたエプロンを見ている、後輩の間桐桜。一方、快く引き受けた先輩は、心ここにあらずで空を眺めていた。
「ああ。ゴメン、桜。ちょっとあの雲がさ、気になって」
青空に浮かぶ、二筋の飛行機雲。細長い雲が、風以上の速さで青空に白を描いていた。
「速いですね」
「ああ。まるでジェット機だ。機影なんて、見えないけど」
「……それで先輩は、どちらの柄が良いと思います?」
「あ。うん。そうだな、青かな」
「私的には紫なんですけど」
「俺が自分で着るんだったら、赤なんだけどさ」
士郎の興味は、あっさりと本来の物、可愛らしい後輩が求めているエプロンへと移る。
もし彼が、飛行機雲の正体を知っていたら、エプロンどころでは無かっただろうに。
飛行機雲の一つが、妹だと知っていたら。

 

 

空を飛ぶ、桃色の少女。白い羽が風に流され、真横になびく。魔法のステッキを手に、空をとぶ少女はすなわち、魔法少女であった。
『えーと、そろそろ音速突破ですけど、壁をぶち壊す覚悟と準備はできてますか? いわゆる、音の壁ですけど』
「そ、そにっくぶーむ!?」
だがその速度は、もはや生きる弾丸であり、魔法少女のファンシーさが入る隙間も無い。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。短く纏めて、イリヤ。冬木市に住む、妖精の如き可愛らしさと、少しのマニアックさと逃げ足の早さを持つ、普通の、色々あるが普通の少女である。
そんな一応普通の少女を襲った災難、自称愛と正義のマジカルステッキに見出され、若干ポンコツ気味の一流魔術師に奴隷とされたイリヤは、なし崩しに魔法少女カレイドルビー・プリズマイリヤとされ、冬木市に眠る危険なカードを巡る戦いに巻き込まれてしまった。カードから出る黒き英霊との戦い、親友と呼べる少女との出会い。やがて一連の戦いは終わり、イリヤに残ったのは魔法少女としての力のみ、と思われたのだが……。
「い、いまパシーンて! 耳が!」
『むむむ。あっさりと、壁をやぶっちゃいましたね。制御と防御に、魔力を割きすぎましたか』
「あっさりでいいんだよ!?」
『前人未到の偉業を、ぜひ我がマスターであるイリヤさんに体感して欲しかった。従者の主を思う心でございます』
いけしゃあしゃあと喋るステッキ。人工精霊マジカルルビー。愉快型魔術礼装にして、イリヤを魔法少女の世界に引きずり込んだ張本人(?)は性格破綻のドSであった。
兎に角、戦いは終わっていなかった。新たな敵が、イリヤに迫っている。音速で逃げる少女に負けぬ、速さで。
ガクンと、イリヤのスピードが、いきなり重りを乗せられたかのように落ちる。
「魔力切れー!?」
『あははーそんな心配はいりません。このルビーちゃんの魔力は無限供給可!ですので。スピードが落ちた原因は、敵の妨害です』
イリヤの胴を、白色のリングが囲んでいた。手で触れないが、ずっと身体から離れない、そのくせずっしりとした重さを感じる。まるで幽霊に取り憑かれた気分だ。
『コレ。超電磁のリングみたいです。魔力の妨害ならどんと来いですけど、科学の、しかも肉体に作用するリングとなりますとー……』
ずんずんと、どんどん身体が重くなっていく。重くなる度に、リングの数は増していた。
「ふ、ふせげないってコト?」
『はい。ですからここは、もう覚悟を決めるべきかと』
後ろを見るイリヤ。敵は、飛行していた。魔力ではなく、ジェット噴射で空をとぶ、緑色の巨人。対象の動きを鈍化させる超電磁のリングを操り、時折目からのレーザーで牽制してくる彼は、どう見ても今までの敵、イリヤが戦ってきた英霊達とは異質であった。
『あのチタン製のアーマーを倒しましょう』
チタニウム製の鉄巨人、これが今イリヤを猛追する何者かだ。イリヤは一瞬だけ目を瞑ると、
「分かった。やるしか、ないんだよね」
力強く決意した。幼さによる混乱と、逃げの一手を打ってしまう、少女らしいイリヤ。それでも彼女には、多少なりの経験があった。戦いの記憶と後悔が、勇気を後押しする。
横の動きから、縦の動きに。天めがけ真上に飛ぶイリヤを、巨人も同じ軌道で追撃する。
しばし飛ぶ内に、空の色が段々と青から赤へと変わっていく。このまま行けば、やがて黒になるだろう。
『理論的には、カレイドステッキがあれば宇宙でも行けます! でもまだ、人体実験はやったことがないので、出来れば凛さんで済ませてからの方が』
「そこまで行く気はないよ!? でも、もういいかな。なにせ、重いし」
身体を囲むリングは、既に十を越えていた。鉄巨人との距離も縮まっている。
ふっと、イリヤの身体から力が抜けた。
『飛行用の魔力、全部攻撃に回しますねー』
主の意図を察したステッキは、言葉通りに、飛行用の魔力を断った。
当然、自由落下となるイリヤ。下にいる巨人は、大きく手を広げ待ち構える。巨人の手の平は、レーザーによる熱で揺らめいていた。
ぶつかる寸前、カレイドステッキから、イリヤのイメージ通りの魔力弾が放たれる。
散弾状の魔力弾は、巨人の視界を殺した。無数の弾が直撃し、よろめく巨人の脇を、イリヤはそのまますり抜けた。
体勢を立て直し、落ちたイリヤを追おうとする巨人。無骨な鉄巨人が目にしたのは、ステッキを自らめがけ掲げる、魔法少女の姿だった。
「いっけえっ!」
収束された一撃が、巨人の両足に着けられた、ジェット噴射口の一つを破壊する。二つであった物が一つとなった結果、バランスを失った巨人はグルグルと不規則に回った後、どこかへすっ飛んでいって爆発した。
『お見事です!』
「でも、大丈夫かな、あの人……ちゃんと、無事に地面まで行けるといいんだけど」
『イリヤさんは、お優しいですね。でも、あまり人の心配をしている場合じゃないと言いますか……』
「え? いやいや、もう相手いないんだし、飛行に全部回そうよ」
勝利しても、イリヤは落ちたままだった。
『ところがですね、どうも魔力伝達が上手くいかないんですよ。どうやらこのリング、最高速以上に加速を阻害するものだったみたいですね』
倒した途端、消えるものではなく。イリヤの重石となっている超電磁リングは、未だに彼女を包んだままだった。
『幸い、物理保護は生きています。グットラックです!』
「……えー!」
『サファイアちゃんと美遊さんのコンビは、ヘリから落とされても、なんとか耐え切って見せました』
「こ、この高さ、ヘリで到達できるトコ、超えちゃってるよ!? むーりー! たーすけーてー!」
魔法少女とステッキは、自由落下を続けていた。

 

「決めました。この黒と赤の、ストラップなエプロンにしちゃいます。先輩? また、雲ですか?」
「いや。なんか、イリヤの声が聞こえたような……でも、この辺りには居ないみたいだし、気のせい……かな?」
気のせいなのか、本当に聞こえたのか。後者であれば、兄弟の絆が起こした奇跡だ。ただ、気付いたからといって、どうとなる問題でないのが悲しい。事態に気づくには遙かなる上空を見渡せる目が、義妹を救うには魔法少女ばりのとんでもない力が必要だ。
ざわざわと、周りがざわめき始める。彼らの目は、皆上に向けられていた。
「先輩、アレ!」
先に上を向いた桜が、士郎をせかす。空には、三本目の飛行機雲が浮かんでいた。
「鳥かな?」
「いや、飛行機じゃないか?」
しかし、今度の飛行機雲は、先ほどの雲より近く見えた。正体不明の飛行物体の姿が、薄っすらと見える。だから皆、ざわめいている。
「違う、アレは……」
比較的、目の良い士郎は、飛行物体の正体を理解した。
赤色と金色、派手な色彩を輝かせる、人型の飛行物体。派手なアーマーを纏い、ジェット噴射で飛ぶ人は、自力で空を飛べる超人ではなく、
「鉄人だ――!」
困惑と憧れが入り混じった瞳で、士郎は飛行物の正体を看過した。

 

赤子が眠る籠の外で、二人の若き男女が話している。深刻そうに見えて、希望を秘めた会話。話が進む度、ノイズは酷くなっていく。二人は、自分の父母に、良く似ていた。ああこれは、きっと記憶なのだ。ならば、あの赤ちゃんは、おそらくきっと。
『マスター? 走馬灯している場合じゃないと思うんですけど』
「だってもう、覚悟を決めるしかないじゃない。だったら、走馬灯の一つぐらい許してよ」
だんだん、地面が近くなってきた。涙ながらに覚悟を決めるイリヤ。若干余裕があるようにみえるのは、自由落下から生還した魔法少女を知っているからか。
『でも、その走馬灯、無駄みたいですよ? だってほら、助けが来ましたし』
下から横へ、イリヤは吊り下げられたまま空を飛ぶ。少女を両脇から支えるのは、鋼鉄の腕であった。
「すまない。遅くなった。こちらも少し、手こずってね」
救ったのは、魔法少女でも魔術師でもなく、むしろこれらの反対に立つべき、科学の申し子。
イリヤを助けたのは、アメリカでその名を馳せる、鋼鉄の戦士にして正義の味方、アイアンマンであった。
「し、死ぬかと思った……」
アイアンマンもそうだが、イリヤも慣れた様子で話している。この時点において、二人は既知であった。
「まさかタイタニウムマンを一人で退けるとは思っていなかったよ。でもそれ以上に、こんな無茶をするとは思っていなかった。なんて命知らずの少女なんだ、君は」
先ほどイリヤが退けた鉄巨人の名はタイタニウムマン。アイアンマンを倒すため、ロシアの科学者ボリス・ブルスキが造り上げたアーマーである。
「何処かへ飛んでいっちゃったみたいだけど、大丈夫かな」
「なに、気にすることはない。パワーや装甲以上に、あのアーマーの特製はタフさだ。あの程度なら中の人は、きっと無事さ。中の人が、いるのならね」
アイアンマンの正体は天才的科学者にして優れた技師にして大富豪のトニー・スタークである。そしてタイタニウムマンの正体はボリス・ブルスキ、と言いたいところであるが、既に彼は亡くなっている。別の誰かが、タイタニウムマンのアーマーを着込んでいたのだろう。アーマーの強さとは、貸与継承できる強さでもある。
『アイアンマンも、トニー様以外に中の人が複数人いますしねえ。一途なルビーちゃんとは真逆ですよ』
「ルビーって前のマスター、派手に見限らなかったっけ……?」
『記憶に一切ございません』
「人工精霊だっけ? なんとも、AIに比べて自由すぎるというか。私が作るのなら、もっと主に忠実な執事のようなサポートAIを……とにかくだ、私は魔術について不得手だが、君もまだ経験が足りない少女だ。お互い、欠けている所を補っていこう。でなければ、君の大事な人達は、救えない」
「うん……」
もしかしたら、助けに来てくれるかもしれない。そう思っていたが、助けに来たのは魔術や魔法と全く関係のない、ブリキ缶の如きヒーローだった。美遊・エーデルフェルト、遠坂凛、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト。何時も共にあった人たちは、この世界から消えていた。
「僕にも、救いたい人がいるんでね。そのために、ここに来たんだ」
少しだけ、飛行速度が速くなる。トニー・スタークもまた、何らかの意志を持ち、本来フィールドではない日本、未知の街である冬木市を訪れていた。
魔法少女と鋼鉄の紳士。相反する属性でありながらも、二人は同じ空を飛び、同じ方を見つめていた。

―了―

 

「世界がバラバラにされるヴィジョンを見ました。そして無理に繋ぎ合わせるような。そんな無茶苦茶さに背筋が冷たくなった所で、目が覚めました」

 

「どうも。トニー・スタークです」
『ああ! あの、アイアンマンの!? わたしの大元がお世話になりました。マジカルハートとゴム巻き動力の全自動型メイドが作れたのは、あなたのお陰です! 色々、参考にさせてもらいました!』
「何がおかげなのか、全くわからないな」

 

「アーマーに、続けてでっかいドラゴン! なんでもアリね、もう!」

 

「前回は、多くの人間を巻き込んだ結果、大戦を引き起こしてしまった。だから、今度は、私が全て一人で」
「ダメだよ、それって。だって悲しいし……辛すぎるよ……」

 

「君達、時計塔から始まり、魔術協会全ての魔術師を屠り、人々に平和をもたらそうとしているんだよ。君達に常日頃偉業を陵辱されている、剣の王と共に。最強のサーヴァントと至高の魔術師に勝つつもりかね?」

 

「確かに私は、魔法に関して“ま”の字も分からぬ素人だが……対魔法、対魔術、対神、これらを考慮した魔法型のアイアンマンのアーマーは存在するし、それらが進化を止めたことも無い」

 

「みんなが言ってた。アンタだけは、許さないって!」
――それは、魔法少女の力と宿縁が造り上げた、奇跡のフォーム。

 

プリズマ☆イリヤ(TYPE-MOON)×アイアンマン(Marvel)
アメコミカタツキ4 頒布価格1000円
コミックマーケット85
12月31日(三日目・火曜日)東地区メ-29aにて頒布。

 

「裏表紙と幕間はオレちゃんのガーデン! シリーズ唯一のレギュラーキャラ、インクレディブルアメイジングスーパーなデッドプールも華麗に参戦! カードキャプターしたり、悪魔と円環でカチ合ったりで大忙しよ! 本筋? なにそれ美味しいの?」

 

ただ、深き所に