東方大魔境 血戦 幻想郷~5~

四匹の妖怪が負けたのを見て、コッソリと動く影があった。
「逃がさないわよ、当然」
「うへぇ~~」
金庫を大事そうに抱えて逃げようとしたネズミ男の前に霊夢が立ちはだかる。
「か、かんべんしてくれえ、俺ぁ何もシラネえよ」
「そんな道理は外でもここでも通らない。さて、まずはその金庫を置いてじっくりと話しましょうか」
有無も言わさぬ迫力の霊夢に気圧され、ネズミはしゅんと頭を下げる。が、それも一瞬。逆に開き直ったかのように胸を張る。
「へへっ、なあ巫女サン。この界隈では、弾幕勝負で勝てば、ある程度の事は見逃してもらえるんだよな」
「まあ、だいたいはね。実力主義だから。でも、アンタは弾幕どころの妖怪じゃないでしょ」
ネズミ男の場合、空を飛ぶ以前の問題だ。
「いやあ、弾幕はできねえんだけど」
ネズミ男は振り向き、尻を霊夢に向ける。ネズミ男の尻から全てを吹き飛ばす勢いで、屁が放射される。風圧と臭いにやられ、霊夢も思わずひっくり返った。
「煙幕は出せるんだワ、それじゃああばよーっと」
ネズミ男は霊夢がやられたスキに、逃走した。霊夢も追おうとするが、鼻をやられてしまい、思うように動けない。
「待ちなさ、ゲホゲホッ。何食えばこんな臭い出せるのよ、鈴蘭の毒よりキクわ……」
「大丈夫ですか、霊夢サン」
遅ればせながら鬼太郎がやってくる。
「ネズミ男の屁は科学兵器ですからね。失神しなかっただけマシですよ。それに、下手に触るとノミやシラミが移りますからね」
「なんて危険な妖怪。なんかもう真相とかどうでもいいから、幻想郷から出て行って欲しいわ」
少女たちにとってネズミ男は天敵に等しかった。最も、ノミやシラミはリグルが居れば大丈夫であろうが。
「まあ、身内の恥なんで、ヤツは僕が捕まえますよ」
鬼太郎がそう言った時、ネズミ男が逃げ出したとき以上の速度で戻ってきた。

 

 

「ひぇぇぇぇぇぇ~~」
悲鳴を上げるネズミ男に、思わず霊夢と鬼太郎は道を譲ってしまう。
「フギャー!」
逃げるネズミ男を追うのは橙であった。橙だけでなく、大小色様々な猫がネズミ男を追っている。橙が手なずけようとしている猫達であろうか。橙も含め、彼らの目は獲物を前にした狩猟本能で満たされている。
「なんでこんなトコにもネコ娘がー!? ギャー! なんか穴ぼこから、別のネコ娘もー!?」
正確にはネコ娘と橙は全然違う妖怪なのだが、どっちにしろネズミ男から見れば天敵だ。あっという間にネズミと追う猫の一一団は遠くへと消えてしまった。
「なんですか、アレは」
「式神の式神よ。そして、橙が居るって事は、当然飼い主も来てるはず」
「飼い主というのは酷い、ペット扱いじゃないか。ああ見えても、橙は賢い子だぞ」
何処が?と野暮なツッコミはさせない迫力で現れたのは、橙の主である九尾の狐こと八雲藍であった。大人の雰囲気を持つ女性ながら、九本のもふもふした尻尾が温かさを感じさせる。
「九尾の狐……」
「九尾の狐じゃのう……」
鬼太郎と目玉の親父は共に複雑な表情をしていた。何か狐の妖怪にイヤな思い出があるらしい。
「鬼太郎殿に目玉の親父殿。以前は弟が世話になりました」
「!」
「冗談です。あの中国の狐と私はなんの関係もありませんよ」
ニコニコと笑みを絶やさぬ藍であったが、言葉の端々がやけに末恐ろしかった。
「藍、それはそうと、紫はどうしたのよ。この鬼太郎さんを連れて来たのはアンタのご主人様でしょ」
九尾の狐という式神にするには上等すぎる妖怪を式神としている妖怪こそが、この幻想郷に鬼太郎を連れてきた妖怪、八雲紫。藍以上に末恐ろしく、そして思わせぶりな自称賢者はこの場に居なかった。
「紫さまは今は動けない。なにせ、幻想郷と外の世界の境界が薄くなっていてね、その境界の修復にかかりっきりさ」
「異変って、まさか大結界に異変が? 私は何も察知してないわよ」
幻想郷と現世を隔てている大結界を見張るのは、本来は博麗の巫女の仕事である。ただ紫はこの大結界の設立にも関係している妖怪なので、日々藍に命じて別口で結界を監視している。妖怪は感知しているのに、巫女は何も察していないとは、あまりに恥ずかしすぎる。
「いや、霊夢は悪くない。私だってわからなくて、紫さまに教えてもらったんだ。どこか一点が壊れているんじゃなくて、どうも結界が全体的に、薄くなってるらしい。薄くなったっていっても、ホントに薄皮一枚ぐらいだとか」
「でも薄皮一枚だけでも大問題よ、なんで結界が薄くなったのかしら」
薄皮も積み重ねを繰り返せば極厚となるのだ。
「お話中申し訳ないが、それはネズミ男のせいではないですかな」
目玉の親父が話に参入する。
「それはどういう事です? 父さん」
「うむ。ネズミ男は幻想郷印の自然食品といって商売しておった。マスコミが嗅ぎつけるほどに繁盛しており、同業者やそれを美味いと思った人間は当然幻想郷への興味を持つ。もとより幻想郷は、外に気付かれてはいけない世界、人が興味を捨てぬモノに幻想たる資格は無い。ネズミ男が商売を続ければ続けるほど、幻想郷という名は広がっていき、大結界は自然と薄くなっていくのではないかな?」
「真相はいまだ不明ですが、大まかそんなところでしょう。少なくとも、ネズミ男の商売が関係しているのは決定的。そして、彼にそんな商売をするようそそのかして、幻想郷に連れてきたモノこそが今回の黒幕です」
藍が黒幕の存在を示唆したとき、ちょうどタイミングよくネズミ男が走ってきた。今度は道を譲ることなく、鬼太郎がネズミ男の胸倉を捕まえる。
「この野郎」
ビビビビと鬼太郎はネズミ男の頬を激しく張った。正義の味方にしては乱暴な手だ。
「イタ! なにすんのヨ、鬼太郎チャン」
「オマエ、今度は誰にそそのかされてんだ。正直に言わないとネコの餌にするぞ」
「俺ぁ、ただうまい商売があるからって誘われただけだヨ、幻想郷にオレが来れたのもその人のおかげなんだ」
「だからソイツは」
「また来たぁ!」
橙達が追いかけてきたので、ネズミ男は鬼太郎を振りほどいて一目散に逃げ出した。あんまりに焦っているので、大事な金庫を取り落としている。
「全く、橙ももう少し落ち着いてくれないと。これじゃ大事なことが聞き出せないじゃない」
霊夢が愚痴る。
「ハハ、すまないねえ。橙も私ぐらいになれば落ち着くと思うんだが」
主である藍が、落ち着いた大人の顔で、フォローを入れた。
「あら、これまた随分と寛大で。いつものアンタなら、そんなのみっともないからやめなさいって橙を追っかけてでも止めるのに」
主従逆ながらも、月のお師匠さんと紅魔館のメイド長に並ぶ過保護さを見せる藍なのだが、橙が暴走しかけているのに、やけに落ち着いている。
「紫さまに言われたんだ。過保護は良くないって。だからこうやってね、断腸の思いでしばらく紫さまのように放任主義を貫こうかとね」
「なるほど。ところであのネズミ男、ノミやシラミを身体に飼っているらしいけど」
「チェンーッ! ばっちいからそんなの食べちゃダメだぁぁぁぁッ!」
韋駄天の速度で藍は橙を追いかけていった。いやはや、随分と短い放任主義だった。大人の顔はどこに行った。
「さてと、これでネズミ男を藍が捕まえてくれば解決ね」
自分が捕まえたくないから藍をそそのかす辺り、霊夢もしたたかだ。
「いや、どうやらその必要は無さそうですよ」
鬼太郎の妖気アンテナが強く反応している。妖気の源は、先程ネズミ男が落とした金庫であった。
「なるほどね」
霊夢は札を金庫に投げつける。札が爆発し、金庫が吹き飛ぶと、中に潜んでいたモノが姿を現した。
「……なによ、コレ」
金庫の中に潜んでいた物は、とてつも無く大きい十円玉であった。その大きさは、博麗神社の社ぐらいならすっぽり影で覆えるくらいだ。いったいどうやってあんな小さな手持ち金庫に入っていたのか、そんな十円玉がぷかぷかと浮いている。
「コイツは」
鬼太郎は、この十円玉に見覚えがあった。
「金霊じゃ! 金の精であり、貨幣経済の象徴とも言われる神じゃ。しかし、なぜ幻想郷に? 金という概念は人と切っても切れぬモノ、幻想郷に来るにはまだ早すぎるぞい」
親父がいうとおり、ここに居てはおかしい妖怪だ。金霊がここにくるとしたら、それは外の世界で貨幣経済が消滅せねばならない。現時点では人類が滅亡しない限りはありえない話だ。
『そうその通り、ワシは金霊じゃ。ワシは何故かココに居る。そして金がたいして意味を成さぬココに嫌気が差し、ネズミ男を呼び寄せ、そそのかしたのだ』
しかし、現実として金霊はここに居るのだ。
金霊の野太い声が地面を震わす。体のスケールと一致した声であった。
「なんでネズミ男をそそのかした?」
『欲深く商才があり、外の世界の妖怪だったからだ。ワシもこう見えて神同然のモノ、一人ぐらいならば、紫をごまかし幻想郷に連れてこれる』
かつての鬼太郎既知の金霊も、半ば九十九神でありながら、力は並みの妖怪の群れならば容易く駆逐できるレベルであった。
「なぜ、外の世界を巻き込んだのじゃ! 幻想郷ごと壊れるかもしれんのに」
『壊れても良かった。たとえ壊れてもワシは結界の外に戻りたかった。金を愛し、金に仕えるような人々の世界に、出たかった……』
「なんと」
思わず目玉の親父は絶句する。この金霊は、自分の為だけに幻想郷という楽園を崩そうとしていたのだ。おおよそ神は勝手気ままなものとはいえ、流石にわがままが過ぎる。
「最近の物価の上昇も、あなたの仕業なの?」
『金を持たぬ妖怪たちに金を持たせ使わせる。商人は商品の売れ行きが良くなるので、値段を上げ、今まで金を使っていた人々は、小妖怪ごときに負けられるかと金をもっと使うようになる。物価が上がれば上がるほど、金への感謝の念は強くなるのだ』
つまり、金霊の作戦は、二段重ねの作戦だったのだ。
一方で幻想郷の結界を揺らがせ、一方では幻想郷での金の価値を高騰させる。たとえ一方が失敗しても、もう一方が成功すれば金霊に損は無い。自分の住みよい世界に戻るか、住みよい世界に変えるかだ。しかし、もはやどちらの作戦も成功の目は消えた。
『もうこうなってしまっては、おしまいだ。こうなれば貴様らを実力で排除し、ワシは幻想郷の外へと脱出させてもらう』
ラスボスらしい事を言い放ちながら、金霊は隠していた己が妖気を放つ。金への執着心=自分への信仰の無さを嘆いていたが、なんのこの妖気は金への信仰が厚い外の世界での金霊に勝るとも劣らぬ。
「気をつけるんじゃ鬼太郎! ヤツはネズミ男に稼がせた金でパワーアップしておるぞ」
かつて鬼太郎は現世で金霊と戦った事があるが、持ち前の金属の体の硬さと金や硬貨を使った様々な攻撃にそうとう苦戦した。ふだん使わぬ秘術を使って、やっとこさで撤退させた程だ。金霊こそ最高ではなく最硬の名を冠する妖怪。彼から放たれる妖気は、鋭い風のように場に居るものの身を苛んだ。
しかし人間ならば浴びただけで気がとびかねない風を受けても、博麗の巫女に怯えはなかった。
「神に仕えるだけでなく、神様が間違った事をしたら、横っ面ひっぱたくのも巫女の仕事。アンタにゃ巫女も居なさそうだしね、引っぱたく仕事だけサービスよ」
巫女即ち大胆不敵。彼女が持つのは余裕であった。恐れは全く無く、慢心ほどでない自信を持つ彼女こそが楽園の護り手であり、楽園で最も恐ろしきヒトなのだ。
「さて、行こうか」
これまた脇に並ぶ鬼太郎も、苦戦の経験と記憶があるのに全く恐怖を抱いていなかった。
いままで数多の宿敵や強敵と対峙して来たが、彼は驚きはあっても相手に恐怖を覚えた事がない。恐怖を凌駕する勇気とこれまた不敵を彼も持ち合わせている。
怯えを知らぬ不敵なヒトとモノノケは、同時に空へと飛び立った。鬼太郎が足場としている玄爺でさえも、二人の気に当てられ静まっている。玄爺は黙したまま、こんな二人を一人で相手にしなければならない金霊の不幸を哀れんだ。

 

それは機関銃か。金霊が放つ範囲に量共に上質な弾幕は、あちこちの木や岩を容易く粉砕した。威力も並み以上のものがある。
「チッ」
霊夢がその弾幕を見て、思わず舌打ちする。
「賽銭箱を持ってくればよかったわね」
金霊が撃っている弾は金属製の硬貨であった。硬貨であろうとも、高速で打ち出される事により立派な弾幕と成り得る。かつて幻想郷の死神が古銭ではあるが、それを証明していた。
硬貨の弾幕を、霊夢は容易く避けている。スペルカードルールでも無敵を誇る彼女から見れば、これはまだ回避できるレベルの弾幕だ。
そして鬼太郎も玄爺のおかげもあって回避を続けている。いくつか被弾しそうな弾もあったが、チャンチャンコで打ち払っていた。
らちが明かぬと金霊は動きながらの弾の射出に攻め方を変える。スピードも巨体のワリにはあり、体を回転させ威力を増した体当たりをしかける。最も、今の二人から見れば回避するには容易い速度なのだが。
「あっ」
避けたはずなのに、霊夢の巫女服の袖に大きな切れ目が入っていた。脇以外にこんな切れ目はいらない。
「くっ」
鬼太郎の右腕に大きな切り傷が出来る。血は出ていないが、もう半分でも切り傷の長さが増せば、腕が断たれてしまう。不可視の殺傷性がある謎の弾が、二人を狙っていた。
『ふはは、なますにしてくれる!』
調子に乗った金霊が再び二人目掛け動く、見えぬ弾に狙われている筈なのに、二人には今だ余裕があった。
霊夢はゆっくりと懐から信仰の針を取り出すと、いままでの動きの緩慢さが嘘のような速度で撃ち出した。鬼太郎も続き、髪の毛バリを放つ。
すれ違う金霊と、二人。今度は二人に一切傷は無かった。二人の周りを、弾の正体であったものが、ひらりひらりと舞っている。
『馬鹿な、一度で見破ったというのか?』
金霊はあっさりと秘中の技を看過され、戦慄する。見えぬ弾の正体は、高速で撃ち出された紙幣であった。紙は意外に鋭い刃を持つもの、薄さと速さを持つことで、カマイタチに近い弾となっていた。だが、二人はあっさりとこの弾の正体を見破ってしまった。
そして、見極めた上で、全ての紙幣を針と毛バリで撃ち貫いたのだ。
「この弾幕、みんな使ってくれないかしら。美味しすぎるわ」
「ボロい!」
霊夢と鬼太郎共に自分の周りを舞う紙幣を捕まえている。これでは、攻撃ではなくただのお小遣いだ。
『おのれ、おのれ!』
彼らの余裕さに腹を立てた金霊は、しっちゃかめっちゃかに紙幣と硬貨を乱射し始めた。まさに発狂モード突入だ。
「いやあ、からかいすぎたわね」
「でも、驚いているのはこちらも同じですよ」
「そうね、まさか針を二人で打ち込んでも意にも介していないだなんて」
紙幣だけでなく、二人の速射は金霊の本体にも当たっていた筈なのだが、金属製のボディは二人の針を弾き返していた。
「鬼太郎! 巫女殿! ヤツの硬度は折り紙つきじゃ、並みの攻撃では弾き返されるぞい」
「ならば、並み以上の物を用意させてもらうわ」
回避しながらも親父のアドバイスを聞いた霊夢が、懐から札と符を取り出す。鬼太郎も玄爺に何事かを耳打ちする。最後に二人は目で合図しあうと、二手に分かれた。
『二手に分かれても無駄、まずは巫女からだ』
二人を狙うのではなく各個撃破に狙いを変えた金魂の弾幕が、こちらに突っ込んでくる霊夢一人を狙う。もはや霊夢の周りは、銭と札で埋め尽くされて空が見えないほどだ。
しかし、霊夢はまったく被弾していなかった。わずかな隙間から生還を見い出し、見事に回避し続ける。もはやそれは神業、スペルカードルールの元で様々な弾幕を潜り抜けた彼女にしか出来ない芸当だ。
『こしゃくなぁ』
金霊はどんどん弾幕を厚くするが当たらない。当たらないせいで、どんどんと金霊はカッカしていき、辺りへの注意力を失っていく。
どんと、金霊の体に鈍い衝撃が走った。
『ば、馬鹿な! ワシの弾を避けながら、こんなものを』
「逃げ切りじゃないかぎり、攻めなきゃ勝負には勝てないからね」
金霊の半分くらいの大きさの陰陽玉が、金霊に激突していた。陰陽玉は一つではなく二つ、二つの陰陽玉が交互にゆっくりと動き金霊にぶつかり彼の巨体を揺らがす。当然ながら、これは霊夢が仕込んだ物だ。
こしゃくなと金霊は高速回転し、陰陽玉を弾き飛ばす。既に金霊は怒り狂い、彼に目には霊夢しか映っていない。
回転が止んだ金霊の上に、すたっと鬼太郎が飛び移った。金霊の遥か上を、親父をのせた玄爺が飛んで逃げていく。
「カーッ!」
鬼太郎の口から吐き出された胃液が、金霊の一部を溶かした。鬼太郎の胃液は濃硫酸よりも濃い、金霊の最硬の身体でさえも溶かすのだ。
『わ、ワシの尻が溶けたー!』
第三者にはどこが尻だか顔だかわからない、でっかい十円玉の金霊が絶叫し、弾幕が緩む。霊夢はその隙に、懐から符を取り出し、高らかに宣言した。
「神霊 夢想封印・瞬!」
霊夢の代表的な符である夢想封印のバリエーションの中でも破壊力では一・二を争う瞬を霊夢は選んだ。あちこちで瞬くような弾幕の花が咲き、巨大な金霊の身体を苛んでいく。
「ならばこちらも、体内電気全開!」
金霊に乗ったままの鬼太郎も、再び体内電気を放つ。先程チルノに放った物とはケタ違いの電撃が、金霊の身体を覆った。あまりの電圧に、金霊の体のあちこちがショートしている。
「思うに……」
電撃もスペルの影響も無い高さ、玄爺の上で戦いを見守る目玉の親父がつぶやいた。
「幻想郷にデカブツは似合わん。あれじゃあ、ただのマトじゃ」
幻想郷とは、巨大ボスが似合わぬ土地であった。

 

「あびあび……よ、ようやくシビレが取れてきた」
鬼太郎にのされた四人の妖怪の中で一足早く復活したのはチルノであった。蓬莱人や鬼太郎には劣るが、妖精の生命力も十分に妖怪のケタを外れている。現に他の三人はまだ気絶したままだ。
「あ」
意識を取り戻したチルノの目にまず映ったものは、華美な空であった。
「キレイ……」
チルノでさえ、素直にそういうしかない程の弾幕が空に展開されていた。霊夢の放つ夢想封印・瞬が空にいくつもの大輪を咲かせている。また大輪の周りを、いくつもの青白く光る蔦が這っている。金霊の硬貨の弾幕に鬼太郎の電気が通っての蔦であったが、原因は偶然であるが、結果として蔦と華が相まり、信じらぬ美しさの華が夜空に展開していた。霊夢と鬼太郎、強引な出会いにより二人の手で生まれた弾幕は、幻想郷の歴史に刻まれずとも、見た者全てが生涯忘れられぬような華麗さを持っていた。
気付けば、リグルもミスティアもルーミアも意識を取り戻しており、全員が空に見ほれ無言でいた。スペルカード戦経験者であれば、あの瞬きを見て雄弁になれるモノは居なかった。
『ぐわぁぁぁぁぁ! たまらんッ!』
金霊の体が限界を超え爆散する。またこの爆発が、細かなキラメキとなり空の芸術における最後の一筆となった。