一日一アメコミ~1~

 ここ最近、いろいろ難しいことを考えすぎてたんじゃないか?
 というわけで、唐突に始めたこの企画。本棚やタブレットに入ってるアメコミを、とにかく手当り次第ランダムに毎日紹介していきます。紹介が長かったり短かったり、邦訳だったり原書だったり、発売中だったり絶版だったり、とにかく細かいことは考えず、ガンガンやっていきます。とりあえずの目標は一ヶ月。大丈夫、楽に蔵書は30冊を超えている。
 まず一発目は、この作品で!

 

 

GET JIRO!(邦訳アリ)

 近未来、世界は音楽も映像もスポーツも失い、唯一残ったのは食文化であった。食は力となり、優れた料理の腕前を持つ者はそれだけで権力を得る。世界中の食を融合させた高級料理志向のインターナショナル派と有機野菜を使った菜食主義派、二人のシェフが争うロサンゼルス。そんなロサンゼルスにあらわれたのは、謎の寿司職人ジロー。凄腕の寿司職人であり、独自の仕入れルートを持ち、なおかつマナーを守らぬ客やカリフォルニアロールを頼んだ客の首を瞬時に断ち切るほどの戦闘力。街のパワーバランスを崩しかねないジローは、両派閥にとっても見過ごせない存在だった。インターナショナル派と菜食主義派、果たしてどちらの派閥がジローをゲットするのか。両派閥に目をつけられたジロー、果たして彼の選ぶ答えとは? 寡黙な寿司職人は、果たしてロサンゼルスの闇をもさばいてしまうのか――!

 料理研究家にして作家の故アンソニー・ボーデインがライターを務めたこの作品。料理研究家が料理をテーマにしたコミックスを書いた結果、出来上がったのは寿司職人が包丁で人の首を斬るタイプのコミックスだった。実際よくネットに流れるのはカリフォルニアロールを頼んだ客の首をズバッとやるシーンなのでニンジャスレイヤー的な作品のイメージがありますが、実際読んでいくと浮かび上がってくるのは「用心棒」の三文字。街を二分する二大勢力と、そこに現れた風来坊。構図を見れば分かるように、ゲットジローは黒澤明の用心棒のグルメ版にして近未来版、任侠や時代劇に近い作品ではないかと。近年で言うなら、用心棒のオマージュ色が強かった、ゴールデンカムイの茨戸編と同じカテゴリー。料理研究家の作品が、料理を中心に据えた作品ではなく、任侠に料理をかぶせた作品だなんて、奇襲もいいところですよ。ただオチの一部に関しては、アンソニー・ボーデインの料理感がちょっと垣間見えて面白い。純度100%の任侠モノや時代劇では、たぶん難しいオチだし。雑に言うなら、用心棒をメインにトリコとニンジャスレイヤーをスパイスとして使い、隠し味に料理感を入れた感じですね。後述する料理関係のうんちくもかけて、将太の寿司も足しちまうか?

 料理は話の添え物なんですが、ミスター味っ子でも切り札として扱われたブラッドソーセージや、ある意味とても贅沢なシラスウナギを使った料理に、日本式の活け締めの紹介と、その知識量に関しては、日本のグルメ漫画に匹敵するものがあります。ただちょっと、作中の料理があまり美味そうに見えないのはね。着色に描き方と、全体的にどうにも綺麗じゃない。たとえば、ジローが作中で見せるアナゴのさばき方は完璧なものの、アナゴがそのワタがちょっとグロくて、シン・ゴジラの蒲田くんさばいてるように見えるもの。美味そうな料理の描き方や食べ方では、やはり日本が強いね。料理を主役に据える、グルメ漫画の存在がデカいよ。