デッドプール チームアップ! 仮面ライダーディケイド 前編

 自宅で寝転がって、スナック菓子を貪りながら、TVを見る。世界中で数えるならば、億以上の人間がやっていそうな怠惰さ。けれども、条件に赤い全身タイツを着た上でマスクを被って、と付け加えれば、きっと数は1までに減る。
 デッドプールは自分のアパートで、ヒマを満喫していた。背中に二本の日本刀を差し、ガンベルトに銃も手榴弾も装着して、ぐうたらしている。
 これは常在戦場の心得である。いつ何時、敵が襲ってきてもいいようにデッドプールは武装を解除しない。と言うのは真っ赤な嘘で、実際はただなんとなくだ。外すのが面倒だから外さない、邪魔だから外す。彼の意識はこのレベルだ。
モンスター教授はなんて悪いヤツなんだ! スパイディを助けてやらなきゃ!
 TV番組にのめりこむデッドプール。ピンポンと、チャイムの音が鳴った。
「ピザ頼んだっけか? それともスシだったか? まあいいか、スナックも切れた。ナイスデリバリー」
 デッドプールは空になった袋を捨てて、玄関に向かう。来たのは、ピザでもスシでもなかった。だいいち、なんで注文もしていないのに、デリバリーが来たと考えられるのか。
「やあ。君がデッドプールか」
 玄関の向こうに立っていたのは、怪しい日本人だった。丸メガネをかけ、フェルト帽を被って薄汚れたコートを羽織った、一歩間違えればホームレスみたいな外国人だ。
「間に合ってます」
 デッドプールはそれだけ言って、ドアを閉めようとした。
「ま、待ってくれ! 君に話があるんだ!」
 男は慌ててドアに身を挟む。それでもかまわず、デッドプールはドアを閉めようとする。
「アメリカにはホームレスが余ってるんだ! 日本人は日本でホームレスしろ! 日本が駄目なら、コリアンかチャイナだ! とにかくチェンジだ! オレはホモじゃねえ! 女以外お断りだ!」
「違う、私は物乞いなんかじゃあない。君に依頼を、傭兵で有る君に依頼をしに来たんだ! ある悪魔を、世界の破壊者を倒せるのはヒーローである君だけだ、そう思って!」
 ヒーローと聞いて、デッドプールの動きがピタリと止まった。玄関は開けっ放しになっている。
「ヒーロー? オレが? ひょっとして、俺をスパイダーマンと間違えているんじゃないか。俺は秘密基地も巨大ロボも持ってないんだぜ」
「大丈夫だ。間違えてない。あの悪魔、仮面ライダーディケイドを倒せるのは君しかいない。そう思って、私はここに来たんだ。千載一遇の機会を活かす為に!」
 謎の日本人、鳴滝はそう言ってほくそ笑んだ。

「まいったな。まさかまた龍騎の世界かと思っていたら、DRAGON KNIGHTの世界だったとは。どおりで、外国チックだった筈だぜ」
「まあいいじゃないか。とりあえず、解決出来たんだからさ。結果オーライ!」
「ミラーワールドじゃなくてパラレルワード。黒幕は宇宙人。外見は瓜二つでも、設定が大違いでしたね」
 士は疲れた様子を見せ、ユウスケは元気一杯、夏海は総括。全員がそれぞれ、今日訪れた世界を振り返っていた。
 パラレルワールドを渡り歩くライダー、仮面ライダーディケイド門矢士と、その仲間達。今日の世界はDRAGON KNIGHTの世界。龍騎の世界にライダーの外見だけ似た世界。変身者は外国人で、黒幕は宇宙人と内実は大きく龍騎とかけ離れた世界だ。
 そして今、士は世界に発生したトラブルを解決して、光写真館に戻ってきていた。到着も旅立ちも、世界の出入には光写真館が必ず関わる。士達は次の世界に旅立つために戻ってきたのだ。
「いやー今日はクウガ大活躍だったよな! 並み居る敵をバッタバッタと……」
「ユウスケ、ちょっと静かにしろ。音が聞こえるな、シャッターの音と、会話らしき声だと? まさか、客が来ているのか!? この、閑古鳥が巣を作って家庭を持っているような写真館に!?」
「笑いのツボ」
 夏海は士の笑いのツボを突いた。経営者の孫として見逃せない発言だ。だいたい、客が来ないのは誰のせいだと思っているのか。日替りで場所どころか世界も変わる写真館に客が付く訳ないだろうに。
「ギャハハハハー!? テメッ、なつギャハハハハ!」
 笑い転げる士を放置して、夏海は扉を開ける。写真館に居たのは二人、カメラを構えている祖父の栄次郎。
「いいねえ、いいねえ。素晴らしいよ君は……!」
 栄次郎はノリにのっている。被写体は余程面白い逸材らしい。その逸材はというと、
「このポーズはどうだ!? モクギョのポーズって言うんだろ!?」
 もっとノリノリで怪しいポーズを取っていた。全身タイツの謎の男、どう考えても常人ではない。どうやらまた、ジークに引き続いてマトモな客ではなかったようだ。夏海は分かりやすく、肩を落とした。
「素晴らしい! 本当に素晴らしい! 現像が楽しみだよ」
「そちらこそ、いい腕前だ。ジェイムソンが見たら、ピーターとエディをクビにして、アンタを専属カメラマンにするね」
 しばしの撮影会後、栄次郎と謎のタイツ男、デッドプールはお互いを褒め合っていた。どうやら、お互いの何かがそれぞれ胸腺に触れたらしい。傍から見てる夏海やユウスケは理解できなかったが。栄次郎はイソイソと現像室へと向かって行った。
「あの……あんた、誰?」
 ユウスケがデッドプールに聞いた。
「世界の破壊者を倒す為に訪れた男、デッドプーッ! ちゃーららーんちゃちゃ♪」
 どこかの和製蜘蛛男に似たポーズを取って、名乗るデッドプール。ばさっと、撮影時の背景用となる大きな絵が勝手に開いた。この写真館の絵こそ、世界の象徴である。この絵に沿った世界へ、士達は写真館ごと移動することになるのだが。
「あー! 落書きされてるー!」
 何が書いてあるか分からないくらいに、絵にペンキがぬりたくられていた。ペンキの上には、これまた白いペンキでデッドプールの顔が書かれていた。“このイカれた世界へようこそ!”とメッセージまで乱暴に書いてある。
「すり替えておいたのさ!」
 偉そうに言うデッドプール。言われなくても、犯人は丸わかりだ。
「お前、なんてことするんだ。これじゃわかんないじゃないか!」
 ユウスケは怒ってデッドプールの胸ぐらを掴む。デッドプールはやめて下さいと言わんばかりに、オドオドとした仕草をする。
「ダメだよ。正義の味方、仮面ライダーがこんなことしちゃ。子供達が真似をしたらどうするんだ?」
「俺が仮面ライダーだって知ってるのか?」
 少し嬉しそうな顔をするユウスケ。ユウスケは仮面ライダークウガである。結構、いろいろな世界で忘れられていることだ。極稀に、士や夏海さえ忘れているような気がするくらいだ。こう、見知らぬ人間にライダーと呼ばれるのは、嬉しい。
「知ってるさ。仮面ライダーだろ? 赤いマフラー♪ 正義のしるしー♪ あ、オマエはマフラーしてないな。このニセライダーめ!」
 デッドプールの唐突なアッパーがユウスケの顎を捉える。
「きゅう」
 見事なアッパーをくらったユウスケは、目を回して気絶してしまった。星がチカチカしている。
「ユウスケ!? ちょっと、いったいあなた、なんなんですか!? 何の目的でここへ!?」
 ユウスケに駆け寄って多少の介抱をしてから、夏海はデッドプールにくってかかった。
「そんな、目的なんて言えるわけがない。ナルタキとか言う男に頼まれて、ディケイドを殺しに来たなんて言えるわけないだろー!」
「え!? あれ!? 普通にバラしちゃってません!?」
 そうですか言えませんかと身構えたものの、全力でデッドプールは目的を語っていた。夏海としても、どういうリアクションを取ればいいのかが分からない。
「フハハハハ! ハッハッハ!」
 こんな状況で、笑いながら士がやって来た。
「士くん!? ダメです! この人はあなたを殺そうと」
「ハッハッハ! 鳴滝もヤキが回ったもんだな! こんなバカを、寄越すとはな!」
 笑いのツボの効果は切れていた。士は、鳴滝とデッドプールを笑っていた。これはないだろうと、全力でバカにしていた。
 デッドプールは?といった顔で、数回夏海と士を指さして、最後にユウスケを指さした。
「オマエ、なんてヒドいんだ! コイツだって精一杯生きてるんだぞ! 信じられない、流石は世界の破壊者だ。ナルタキは正しかったぜ!」
 わーと叫んで、デッドプールは士に襲いかかった。
 呆れて首を振る士。既に士は、ディケイドライバーを構えていた。

「行くぞ、鉄十字軍団総統!」
「大首領はともかく、そんな組織の総統になった覚えはない!」
 ディケイドとデッドプールは光写真館の玄関を破壊し、縺れ合って路上に出てきた。ライドブッカーソードモードと、日本刀が競り合っている。
 競り合いから打ち合い、高速で交わる剣の音。ディケイドとデッドプールの間で火花が散らばっている。
「コイツ……!?」
 士は仮面の下で歯噛みした。
「ウヒョー! たのしー!」
 デッドプールは、いつの間にか二刀流になっていた。二倍になった剣戟で、ディケイドを追い込んでいく。ディケイドは追い詰められる寸前に、蹴りを放つ。デッドプールは吹っ飛んで、ゴロゴロと地面を転がる。ディケイドは追撃すべきタイミングで、即座に飛び退いた。
 爆発が、道路のアスファルトをめくる。デッドプールは吹っ飛ばされた際、置き土産に、手榴弾をばら蒔いていたのだ。
「バンバンバンバン!」
 ハンドガンによる、デッドプールの二丁拳銃。明らかに姿勢の良くない前傾姿勢なのに、その乱射はやけに正確にディケイドを狙っていた。ライドブッカーのガンモードで応戦するディケイド。
「なんてこった、普通に強いぞ!?」
「当たり前だろ! なんてったって、オレは人気投票8位だぞ!」
 判断力、銃の腕前、剣の腕前、どれをとってもデッドプールは一流だった。明らかにアレな人間なのに、一流の戦士。仮面ライダーにも正気と腕前が反比例しているヤツは多いが、ここまで振り切れているのはいない。
「バンバンバンバンバン……弾切れと息切れ、どちらが速いかー♪」
 ほんと、反比例しすぎだ。
 唯一戦略的におかしいところといえば、棒立ちの固定砲台で弾を撃っていることぐらいか。運良く弾には当たっていないが、いつ当たってもおかしくない。現にディケイドは走り回っている。
 ただこれも見方を変えれば、余裕ある大物のデッドプールの周りをウロチョロしている、余裕が無い小物のディケイド。中々に腹立たしい見方だ。
「だったら、それなりの相手を用意してやろうじゃないか」
 ディケイドはカードを2枚手にし、ベルトのバックルである、ディケイドライバーに続けて差し込んだ。
“カメンライド デンオウ”
“アタックライド オレサンジョウ!”
「俺、参上! ……目には目を、歯に歯を、バカにはバカを」
 ヘクションと、時空の果てで赤い鬼がクシャミしたとかしないとか。
 とにかく、ディケイドは電王SFにカメンライドしていた。クウガ~キバまで、9人の平成ライダーの姿と技を使いこなすライダー。それが10人目、仮面ライダーディケイドというライダーなのだ。
「アレ!? 瞬きか!? 瞬きしてたからか!? 相手が変わってるだと!? まあとにかく、バンバンバンバン! も一つオマケにBAN!」
 大物なのかバカなのか、デッドプールは構わず銃を打ち続ける。電王はソードで弾を弾きながら、デッドプールに肉薄した。刀身が赤く輝き、煌きを放つ。
 すれ違い様の斬撃と銃撃。撃ったのが先か、切ったのが先か、まだそれは分からない。
 電王の身体が粒子となり、ディケイドは本来の姿へと戻る。ディケイドが先に、膝をついた。デッドプールがマスクの下でニヤリと笑う。ただそれは、ディケイドも同じだった。士も、仮面の下で笑っている。
「ギャァァァァ! あべし!」
「ええええええ!?」
 右腕を断たれ、ついでに体中微塵に刻まれたデッドプールが痛そうな声を上げた後に爆散する。切ったのは切ったけど、そこまでやってねーよと、切った本人であるディケイドがまず驚いた。
「つ、士くん!? いくらなんでも、やりすぎですよ!」
 少し離れたところで戦いを見ていた夏海が、慌ててディケイドに詰め寄る。
「知らねーよ! なんで一回切っただけなのに、ここまで大惨事になってんだよ、コイツ! ん、一回だよな。確かに一回しか斬ってない……夏海、どけ!」
「あっ!?」
 慌てて夏海を突き飛ばすディケイド。この隙を狙い、何者かの手がディケイドのバックル、ディケイドライバーにかかった。手はディケイドライバーを、ディケイドからひっペがした。
 ベルトが盗られることにより変身が解け、ディケイドは士へと戻ってしまった。
「ヤッター! お宝だー! バンザーイ!」
 隻腕のデッドプールがディケイドライバーを手に喜ぶ。爆死はフェイクだったのだ。右腕と演出過多の怪我を代償に、デッドプールはディケイドの生命線であるディケイドライバーを奪取した。
「この、返せ……ッ」
「うるせー大首領! これでも食ってろ!」
「むぐっ!?」
 デッドプールはいきなり生のナマコを、士の口に押し込んだ。悶絶する士を尻目に、デッドプールは自分の落とした右腕を拾い、無造作にくっつけた。それだけで、デッドプールの右腕は再び繋がった。
「そんな。玩具みたいに手を繋げるなんて」
 あまりに無節操なデッドプールの治療法に、夏海が疑問を呈する。
「HAHAHA、甘いぜお嬢さん オレはこんなもんじゃあない」
 デッドプールは繋がった右腕で拳銃を取り出し、自分のコメカミを撃った。脳漿が飛び散り、身体が崩れ落ちる。どう見ても自殺だ。拳銃による、自殺。
「いいぞデッドプール! 俺は熱い、熱い、みんなもっと熱くなれよぉぉぉぉ! 出来るさ、誰でも出来る! 再生や蘇生なんて誰でも出来る! デッドプールなら誰でも出来る! ほら出来た、今出来たよ、蘇生! 拳銃なんて気にするなー!」
 だが、自殺者は、無駄に暑苦しく復活した。夏海はただ、眼を白黒させている。傷を即座に再生するヒーリングファクターによる、不死身の体。これがデッドプールもう一つの武器である。
 相手の攻撃は一切無視出来るレベルの、超再生力。先程の棒立ち射撃も、この能力があってこそだ。
「……これがディケイドライバーか。コレを取れば、ツカサはディケイドに変身できないって、ナルタキは言ってたな。これが変身アイテムなのか……ならば!」
 デッドプールは自分のベルトのバックルに、ディケイドライバーを合わせた。
“ディディディ……デデデ……ディケイプール!”
 するとなんと、ディケイドライバーが作動してしまった。数枚のライドプレートが出現し、デッドプールの顔面を貫く。ライドブッカーが出現し、デッドプールの左腰に収まった。
 しばし後に現れたのは、顔にバーコード状の黒い縦線が付き、ディケイドライバーやライドブッカーといったディケイドの装備を手に入れたデッドプールだった。ディケイドが3、デッドプールが7ぐらいの割合で合体していた。
 奇妙奇天烈な存在を前にして、士も夏海も固まっていた。チノナマコが変身したディエンドより、1・5倍くらいヒドい。
「イィィィィィヤッホー! これでオレも仮面ライダーだ! 仮面ライダーディケイプール! まず、マフラーだ、マフラー買いに行かないと! 赤いーマフリャー」
 デッドプール改ディケイプールは、嬉しそうに逃げ出した。ディケイプールの先の次元が歪み、モヤが生まれる。モヤの先から現れたのは、鳴滝だった。
「よくやった、さあそのディケイドライバーを私に!」
 ディケイプールからディケイドライバーを受け取ろうとする鳴滝。ディケイプールは鳴滝へ駆け寄ると、
「ディケイパンチ!」
「ぐほぉ!?」
 ポップな擬音が出そうなパンチで鳴滝を殴り倒す、ディケイプール。そのまま彼は、次元の歪みの中に入ってしまった。歪みは激しく蠢くと、バーンと爆発した。まるで異物を飲み込んでしまったかのような、とんでもない消え方だ。
「……おのれディケイド、お前のせいで、また新たな仮面ライダーが生まれてしまった!」
「100%、お前のせいだ!」
 ナマコを吐き出した士が、責任転嫁してきた鳴滝に掴みかかった。

 別次元へと移動したディケイプールは、謎の秘密基地に辿りつき、二匹の怪人と遭遇していた。
「ライドブッカー。ダセえけど、切れ味はいい。すごくいい」
 ライドブッカーソードモードの刃が、怪人の武器であるハサミごと怪人を切り裂いた。ディケイプールはライドブッカーをガンモードへと切り替える。パンパンパンと無造作に、バズーカを背負った亀の怪人を撃った。
「剣から銃に変形するカード入れ。クレジットカードやポイントカードを入れれば、日常生活でも使えるね。ヒーローの武器兼生活ツール、日本人の技術力はスゲエな」
 亀の怪人が突如爆発した。核兵器レベルの爆発は、基地ごと全てを吹き飛ばした。基地跡のクレーターで一人佇む黒焦げのディケイプール。カランカランと、白くて大きな頭蓋骨の上顎が、ディケイプールの頭に引っかかっている。
「ワオ、ヒロシマ。なんだろう、気分がイイ。見知らぬ人の、父や母や妹を助けたような気がする。ああ、イイ気分だ」
 デストロンというロゴの刻んであるサソリのエンブレムを蹴り飛ばすディケイプール。爆発で汚れているとはいえ、エンブレムは真新しかった。まるで、開店前の看板のように。
 爆発の影響で再び次元が歪み、別の次元への入り口が出来ていた。ディケイプールは頭の白骸骨をブン投げてから、歪みの先を覗き込む。
「ややっ、蜘蛛の怪人がオートレーサーを襲っている!? ウォー! 俺が居る限り、クローンサーガは二度とやらせねえ! 地獄からの使者、ディケイプーッ!」
 ディケイプールは次元の歪みに、勇んで飛び込んだ。
 否、飛び込んでしまった――。

 その頃、人知れずカードが消えていた。仮面ライダーV3のカードが、白紙へと。まるで存在が消えてしまったかのように。
 そして1号のカードを始め、他のライダーのカードも徐々に色が薄くなっていた。

 ~続きへ~